研修の中で具体的な「成果」も出す 熱量あふれるデンカの育成プログラム
「受講者たちの熱量はすごい。われわれも負けないようにしなければと思っています」──そう語るのは、デンカ株式会社でDX人財育成プロジェクトに取り組むデジタル戦略部、人財戦略部のみなさん。社内のデジタル活用・DX推進をリードしていく「DP(Digital Pilot)」育成プログラムが2024年4月にスタートして以降、「最初の半年間だけを見ても、予想外の好結果や新たな課題など、多くの発見がありました」と振り返ります。
育成を進めているDPの能力のイメージは、「デジタルスキル標準(DSS)」で定義づけられているビジネスアーキテクト。2030年度までを対象とする経営計画達成に向けて、DPが現場を変えていく、そんな期待感がデンカで高まり続けています。
コアバリュー「挑戦」「誠実」「共感」を重視した育成方針
──貴社を取り巻く事業環境の変化をどう捉えていますか。
デジタル戦略部 部長 盛岡 実 氏(以下:盛岡):当社では、コアバリュー、パーパス、ミッションを重ねた構成からなるビジョンを策定しています。コアバリューの「挑戦」「誠実」「共感」はデンカのDNAとして位置付けています。
また、三つの成長戦略である事業価値創造、人財価値創造、経営価値創造による経営計画「Mission 2030」(2023~2030年度)の達成を目指し、再生可能エネルギーや医療ニーズの高度化、食料・水資源枯渇といった新たな事業機会を生み出すメガトレンドをもとに、当社の注力分野として「ICT & Energy」「Healthcare」「Sustainable Living」を設定しています。
当社の事業は、次世代高速通信・xEV・再生可能エネルギーに欠かせない最先端素材を扱う「電子・先端プロダクツ部門」、インフルエンザワクチンや新型コロナウイルスの診断キットなどを展開する「ライフイノベーション部門」、世界トップシェアのクロロプレンゴムやコンクリート急結剤を扱う「エラストマー・インフラソリューション部門」、さまざまな用途で暮らしを支える「ポリマーソリューション部門」などに加えて、次世代を見据えた「新事業開発部門」の動きが活発化しています。社会の激しい変化が当社の事業ポートフォリオ改革を促し、課題を乗り越えていくにはDXが欠かせない、そんな認識のもとでDX人財育成を進めています。
──DXの機運を高める上で、どんな工夫を凝らしましたか。
盛岡:当社のDNAともいえるコアバリューのキーワード「挑戦」「誠実」「共感」のスタンスを育成方針にも反映させています。強制ではなく、やりたい人が手を挙げて自ら学んでもらうことを重視しています。人的資本経営が注目される中、経営トップの力強いメッセージをもらえたことに加え、DX人財育成プログラムの企画段階から、人財戦略部と二人三脚で取り組めていることも大きな推進力となっています。
デジタル戦略部 髙嶋 良憲 氏(以下:髙嶋):盛岡とよく話していたのは「DXの主役は誰なのか」ということです。これまでになかった道筋を整えていく上で、「受講者が主役である」と明確に位置付けて取り組んでいます。現場を預かるマネジメント層の中には、目の前にある仕事や成果と、中長期的なDX人財の育成とのバランスを取るのが難しいという意見もありました。そこは「なぜ育成を進めなければならないのか」「その先にはどんな明るい未来が待っているのか」といった「動機づけ」を意識して対話を重ね、丁寧な説明を心がけました。
盛岡:われわれの目的は、あくまでも経営計画の達成です。DXは手段の一つにすぎませんが、「非常に有効な手段」であることは間違いありません。デジタルの力を借りて、もっと「ラクをして達成しよう」と呼びかけるのが口説き文句です(笑)。
社内外のアセスメントにおいて基準となるDSS
──DSS活用の手応えを教えてください。
盛岡:DXを推進する人財といっても、そのタイプは多様です。では当社の現状と照らし合わせたときに、いったいどのタイプを育成するべきか、DSSが整理した人材類型を確認していくことで、まずは必要な社内リソースが「ビジネスアーキテクト」であることが確認できました。これから新規事業の創出をさらに加速させるには、デジタルを活用して新しい価値の創造や、現場の業務を変革できる人財が不可欠です。その先導役となるのが、われわれが育てようとしている「DP(Digital Pilot)」と呼ぶ存在です。
「アセスメント」により、デジタルに対する素養やマインド・スタンスを評価して選定されたDP候補は、次に「スキルアップ教育」を受講します。その後、個々のDPとしての力量を見極める「実務教育」の修了を経て、DPとして認められます。「アセスメント」で基準点に到達しなかった社員には、「DXリテラシー標準(DSS-L)」準拠の「基礎教育」を用意しています。このロードマップも、DSSをベースに設計したものです。
人財戦略部 吉成範晃 氏(以下:吉成):DSSに紐づく社外アセスメントサービスを取り入れることで、これらの教育の結果が数値化され、定量的な効果測定を可能にしています。社内外で説明する際の説得力が高まるとともに、受講者自身の「これだけ成長できた」というモチベーションの向上や、全社的な「自ら学ぶ文化」の醸成につながっていると感じています。
「足りないから埋めてください」というネガティブアプローチではなく、「未来の在るべき姿を実現しましょう」というポジティブアプローチを入口にしたこと、そして「DP」という出口までをしっかりと設定して展開した点も、スムーズに進んだポイントでしょう。
盛岡:「基礎教育」「スキルアップ教育」の傾向を分析すると、学習によって伸ばせる要素、逆に伸びにくい要素があることもあぶり出すことができました。例えばコンセプチュアルスキル、マインドスタンス、パーソナルスキルといった「X」の要素は学習では定着しにくく、そこには「知ってる」と「できる」の壁があるということに気づきました。
逆にいえば、最初のアセスメントで「X」のスコアが高い人財に「D」を学んでもらえばDX人財の育成がよりスムーズに進む、そうした私たちなりの「方程式」も見いだせたのです。また、座学では限界があることが分かり、それなら壁を越えるための実践的な場が必要だということで「実務研修」を計画しました。プログラムが始まってわずか半年間で、こんなに発見がありましたから、DSSをもっと使い倒したいですね。
「知ってる」と「できる」の壁を突破する
──「実務研修」について教えてください。
髙嶋:「知ってる」を「できる」に変えるという視点において、まさにポイントはビジネスアーキテクトの特徴である「課題を見つけ、デジタルを使って解決する」ことだと受け止めています。「実務研修」では、当社が持つこれまでのICT資産を受講者に共有して、身の回りの業務の改善策を企画書としてまとめてもらいました。初めての実務研修に臨んだのは80数名で、とにかく反響が大きかったので驚きましたね。問い合わせも多いですし、1人1企画を想定していましたが複数案を出した人もいて、こちらが受け止めきれないほどの熱量です(笑)。
吉成:研修は実施して終わりではなく、「何のために行うのか」、「行った先には何があるか」を強く意識して設計されているものが理想だと思います。今回の「実務研修」は、受講者にいかに積極的に受講してもらうかという課題を解消するヒントになりますし、今後は他の研修に展開していけたらとも考えています。
盛岡:正式にDPになるのは、この「実務研修」の修了後ではありますが、その前からDPによる変革をスタートさせます。企画書は研修のためのものではなく、「自身の職場を改善するための実務の一部」と位置付けて作成してもらいます。審査を経て上位に入った企画をグループワークでブラッシュアップして、さらには経営層に向けたプレゼン、実際の業務での採用まで見据えています。つまり、研修の段階で「実績」をつくろうとしているのです。
──DPが活躍する姿まで見せようとしているのですね。
盛岡:DX人財を何人育成するかということはKPIの一つであって、ゴールではありません。デンカのDPが活躍しなければ、育成プログラムも一過性のもので終わってしまいます。DPが実践で活躍する姿を周囲に示し、「自分もDPになりたい!」と思ってもらえることで、持続的な取り組みになっていくのだと思います。
取材協力
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