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DXを推進するために必要なスキルとは 「人材」を「人財」として捉える株式会社イトーキのDX人財 育成方法

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル活用で会社のビジネスを変革することです。そしてDXの原動力は、何よりも従業員の方々の意識と行動。現状業務と並行してデジタルスキルを学ぶ「リスキリング」を行い、現場導入することで企業全体が革新していきます。

とはいえ日本ではDXはまだまだ「意識が高い」。IT業界の話でしょ? リスキリングっていうけど何から学べば……? そう感じる企業様が「むしろふつう」な状況です。

そこで情報処理推進機構(IPA)では、業種・職種を問わずあらゆる人材向けにDXの基礎知識・スキル・マインドなどのDXリテラシーから、DX推進までをまとめた「デジタルスキル標準(DSS)」を2022年8月から公開しています。リリースから約1年半。実際、企業様はどう活用しているのでしょうか?
本連載では、IPAみずから企業のDX担当者様に取材。【DSSを使い倒す】方法を実践的に紹介します。

第一回は【株式会社イトーキ】様。オフィス関連ソリューションの代表格であり、1890年創業の老舗メーカーです。そのDX開始の経緯は? 社内の反応は? DX担当の選び方は? そしてDSSの活用法は? DX推進本部 デジタルソリューション企画統括部の大橋一広様、小笠原豊様、植田真理様に本音を伺いました。

1890年創業の老舗オフィスメーカー DXへの挑戦と育成!!

―― まずは現在のイトーキ様のDXの状況について教えてください。

大橋一広様 デジタルソリューション企画統括部長(以下、大橋):DX推進本部の設立は2022年1月です。当該本部は、社内の情報システムを担うDX統括部と、社外へのソリューション企画、開発推進する部門で構成しており、DXを横断的に取り組んでいます。

イトーキ様のDX推進組織イメージ。DX推進本部が人事本部と連携で人材育成を行っている。

小笠原豊 デジタル企画推進チーム(以下、小笠原):オウンドメディア「OPEN DX LAB」では、当社のDX事例や、外部の企業様・団体様のキーパーソンにインタビューする記事も発信しています。

今回の取材テーマのひとつ「DX人材育成」に関しては「デジタル企画推進チーム」がコンテンツの企画や学びの場の推進を担当しています。ワークショップや学習プログラムを含めた「学びのデザイン」を企画し、社員のDX人材の育成サポートを進めているところです。

―― 独自の学習プログラム「DX学びの場」の充実度に驚きました。のちほどゆっくり伺わせてください。はじめに、なぜDXに着手する必要があったのでしょうか。

大橋一広様 DX推進本部・デジタルソリューション企画統括部 統括部長

大橋:オフィスデザインを社会に提供している当社にとって、自分たちが新しい時代の働き方を先駆けて実践する必要があるからです。『明日の「働く」を、デザインする。』イトーキでは、オフィスデザインの大変革を求められています。オフィスのIT化から、国の「働き方改革」推進、そして、コロナ禍で加速した働く場のオンライン化と、更にその先のDXの実現。オフィス環境を開発する私たちにとって、「DX」への計画は必然でした。ITからDXへ。130年の歴史があるメーカーイトーキは、これからデジタル技術でさらに変革する必要があります。

―― DXの方針が示されたときの社内の反応は。

大橋:社会全体の方向や社員それぞれのDXへの意識は高まっていましたが、当社として、どのように取り組んでいくべきか、どんな内容なのかについて、反応は様々でした。いかに自分ごとにしていくのか、まずはやってみる、の考え方が大事でした。

小笠原豊様 デジタル企画推進チーム

小笠原:これまでも会議室や執務空間のデジタル化、ICTソリューションの提供には部門として取り組んでいましたが、営業、開発、生産、コーポレートの部門が取り組むDX推進には、また違った視点が求められるので、チャレンジではありました。

―― 大橋様、小笠原様は開発から移籍されたと伺いました。植田様も同部署から?

植田真理様 デジタル企画推進チーム(以下、植田):私は人事出身なんです。長く給与厚生労務に携わってきて、2021~2022年には社員のキャリア育成も。だから社員のリテラシーも職種や個人で差があることは実感していました。当時はコロナ禍だったこともあり、オンライン研修が主流でしたが、zoomの操作が難しい方もいました。でも、仕方ないんですよね。目の前の仕事で使わないわけですから。

大橋:社員の想いやポテンシャルは高いので、いかにそれを引き出し、サポートできるかのカタチが必要だと考えています。これから運用やコンテンツをいろいろと試しながら、進めていきたいです。DXを推進する仲間を増やしていきたいですね。

植田:社員一人一人にとってDXを「自分ごと」にするのが、私たち「デジタル企画推進チーム」の仕事なんですよね。
イトーキ本社「ITOKI TOKYO XORK」。ドローンで撮影したオフィスは関連リンクを参照

「まずはやってみよう、トライしていこう」のためにDSS活用

―― チーム立ち上げから行った施策と、イトーキ様での「デジタルスキル標準(DSS)」の活用について教えてください。

大橋:まずは社員それぞれの日常業務との関連や、キャリア形成へのイメージができることが大事だと思いました。  

小笠原:そのためにはイトーキにはどんな仕事があり、どんなスキルが必要なのかを把握する必要がありました。そのうえでモチベーションが高い人材を見つけてサポートしていく形で進めようと。 

植田真理様 デジタル企画推進チーム

植田:そこで人材の類型化から着手しました。DXを進めている他社様を拝見していると、みなさん類型化をしているぞ…と気づいて(笑)。でも、いきなりつまずいたんです。

―― どんな難しさがあったのでしょうか。

植田:私が人事にいて広く部門を知っているといっても、実際には「理解していてイメージできる仕事」と「見聞きするしかない仕事」が混ざっているんですよね。だから必要なスキルの粒度がばらついてしまうんです。オリジナリティは出るかもしれないけれど、フィットするようなしないようないびつな類型でした。

小笠原:そこでガッチリ作りすぎるより、まずスタートして、手探りでいいからチャレンジの数を増やそうと考えました。

―― モチベーションが高い人、興味がある人たちで、固めすぎずにスタートする。アジャイルのキーポイントですね。

植田:そこで参照したのがDSSでした。以前からIPAのDXに関するウェビナーやセミナーを受講していたんです。だからDSSの存在も知っていました。

―― ありがとうございます。参照してみていかがでしたか?

植田:製造業であるイトーキでも、そのままハマりそうな類型が揃っていて、綺麗に整理されていたことが助かりました。

出典:IPA「デジタルスキル標準 Ver.1.1」

大橋:DSSの人材類型は五角形になっていますよね。そのラインナップが「ITに寄っていない」のがよかったんです。データサイエンス、サイバーセキュリティの領域は製造業の私たちには「う……難しそうだな」という感覚。でもビジネスアーキテクトやデザイナーという要素は馴染みがあり、業務と意識が併せられる。「自分ごと」になりやすい要素が入っていました。

―― この人材類型の五角形は「スターコンセプト」と呼んでいて、DXはどの人材が中心でもないという考えで設計されたもの。DSSには15のロール(役割)が設定されていますが、最初は自社の仕事にある役割からはじめ、やがて全社を巻き込んで、また他社と協力していくように広げていきたいですね。

「明日の『働く』」を手探りするDX推進 見えてきた「DX人材」の姿

―― 実際はDSSをどのように活用されましたか。

植田:正しい使い方かはわからないのですが……当社にあてはまる人材のモデルをDSSから拾ってはアレンジしていきました。そうして作成した類型が「DX学びの場」のベースです。目指すゴールに応じて「知る」「使う」「活用する」「創る」「極める」の5つのステージを分けて、全社員に周知し参加自由に。

社内DX教育プログラム「DX学びの場」。5つのステップごとにカリキュラムを展開する。

植田:カリキュラムはDSSの細かいスキル項目を社員の「興味を持ちそうなこと」に当てはめるという作り方です。例えば、「使う」というステージの施策の場合、イトーキ社員なら知っておいて欲しい基本や、よくある困りごとのシーンをヘルプデスクの問い合わせから収集して、それに合った解決策を提供するという建付けにしました。

小笠原:DXやリテラシーに関する基礎動画教材も配信しました。それから社外講師によるワークショップの実施も。

―― DSSの良い使い方の一例です。DSSに書かれていることをすべて準備してからスタートするよりも、カスタマイズして部分的に、とりあえず使っていただく。実際にDXに着手していかがでしたか。

小笠原:正直に言えば、私は社員に受け入れられるのか不安でした。広い職種があるなかでどんな人たちが興味を持ってくれるのか、くれないのか……。結果としては嬉しいほうに裏切られたと思っています。ワークショップの募集枠に対して150%の応募数がありました。

―― それはすごいですね!

植田:営業やバックオフィスの社員が特に多く参加してくれたことも印象的でした。普段から社外の情報に触れる機会が多いからかもしれません。

―― 今後のDX推進の展望をお聞かせください。

大橋:職人気質なデザイナーやクリエイターにとっては、アナログの価値を含めて、直接的なDX推進は体感しにくいことかもしれません。ただ、設計でCADやCGを使うのが当たり前になったように「もっといい作品や創造活動ができる」「自身の表現力が広がる」DXであれば、どんどん取り入れていくはずです。そのために、まず私たちDX推進本部が社内にDXの価値を示していくことです。

植田:まだDXの下地段階ですけれど、とにかくモチベーションが高い人、興味がある人を見つけて引き上げていくことですね。アンテナを張りながらPDCAを回し続けていこうと思います。

大橋:その中から現場を巻き込んでいく「DXのインフルエンサー」のようなデジタル人材がでてくると思います。  変革には壁もありますが、そのなかで自律的に動き、組織に横串を通すDX人材をサポートしたいと思います。
そのためにDSSは役に立っています。IPAさんからDSSの活用法についてアドバイスや先行する成功事例やポイントはありますか?

―― 実は、取材前は「自社のビジネスや人材に合わせて、DSSの内容をカスタマイズしてお使いください」「必要なところを選んで使ってください」とお願いしたいと考えていたんです。ですが既に実践されていて……とても正しく使っていただいてありがとうございます。

植田:それを聞いて安心しました(笑)。

取材協力

株式会社イトーキ

【ドローン撮影】イトーキ本社オフィスを飛行(YouTube)

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