課題多きビジネスでのデータ利活用 「シン・KKD」がさらなる一歩を後押し
データ活用
「自分たちが感じている課題は、社会的にも共通の課題であることを実感した」──そう振り返るのは、株式会社アシストが運営する「ソリューション研究会」の2024年度の活動において、「成果報告書の部」1位を獲得した「ビジネスに貢献するデータ活用分科会」のメンバーです。
1996年の発足以来、企業の交流、学びの場として機能するソリューション研究会。各分科会は1年間の研究活動を通じてDXや生成AIなどをテーマとする課題の解決策を考え、成果物としてまとめます。「なかなか進まないデータの利活用」という現状を乗り越えるヒントを生み出そうと、「ビジネスに貢献するデータ活用分科会」に集まったのは8社9名。ユニークな名称の仕組みを出発点に、初心者にとっても分かりやすく、DXへの第一歩となる「データ利活用トレーニングブック」(理論編・実践編)を作り上げました。
初心者でも理解できるトレーニングブックを作る
──みなさんが「ソリューション研究会」に参加した理由を教えてください。
佐藤洋輔氏(株式会社JR東日本情報システム):私は2回目の参加で、前回の2023年度も「ビジネスに貢献するデータ活用分科会」でした。その時は1位を逃したので「今度こそ取りたい」という思いがモチベーションとなって、2024年度も参加を決めました。仕事をしていると、データの利活用が求められる場面がたくさんあります。ただ、自分自身も周囲も、あまり「データを活用している感」がありませんでした。そこで、データをうまく活用できるようになるにはどうしたらいいのか、研究してみたいと考えたのがもともとの動機です。
佐藤洋輔氏(株式会社JR東日本情報システム)
江﨑真代氏(キヤノンITソリューションズ株式会社):当社の上司から勧められて初めて参加しました。データ活用などのソリューションをセールスするデジタルビジネス営業部に所属していますので、今後の業務に生かしたいと思ってこの分科会を選びました。
江﨑真代氏(キヤノンITソリューションズ株式会社)
梅本典明氏(株式会社ジェーシービー):ソリューション研究会には毎年参加しており、最優秀賞の受賞経験もあります。2024年度はウェルビーイングの観点からデータを深掘りして「エンジニアの幸福度」を研究してみようと考えていたところ、佐藤さんから「1位を取りたいから一緒に参加してほしい」と誘われて、「ビジネスに貢献するデータ活用分科会」の一員として活動することにしました。
梅本典明氏(株式会社ジェーシービー)
後藤真李氏(株式会社アシスト):まず、当社が運営するソリューション研究会がどのような場なのか、社員として知っておきたいという目的が入り口です。この分科会を選んだのは上司の推薦もありましたし、私としても業務で自信を持ってデータを活用できるよう、この機会に学びたいと思いました。
後藤真李氏(株式会社アシスト)
「経験・勘・度胸」から「仮説・検証・データ」へ
──活動の最大の成果が、「シン・KKD」を軸とする「データ利活用トレーニングブック」ですね。
梅本:データの利活用に当たってどんな課題があるかと考えてみると、「KKD」(経験・勘・度胸)に頼っているケースがたくさんあるなと改めて感じました。一方で、私がデータ利活用に関する仕事をする際にいつも頭の中にあるのは「仮説・検証・データ」です。「あ、これもKKDだな」と思ったことから、「シン・KKD」と名付けてみたら面白いんじゃないかと発想しました。
佐藤:初めて聞いた時に、梅本さんすごい、これだと思いました(笑)。
梅本:「シン・KKD」は、①仮説立て②仮説検証の計画③データ収集④データ可視化⑤結論・考察の、5つのステップで構成されています。世の中にはデータ利活用、データ分析に関する本やウェブサイトがごまんとありますが、せっかく学び始めても、やめてしまう人が少なくありません。そんな方々に向けて、挫折しないためのポイントや、実際にどうやってデータをビジネスに生かすのかなどを記したトレーニングブックは、すごくいいものに仕上がったと自負しています。
佐藤:指導役の梅本さんを除けば、ほか8人のメンバーはデータ活用に関する高度なスキルを持ち合わせていませんでした。だから、「私たちのような初心者でも理解できるようなトレーニングブックを作ろう」というゴールを定めやすかったのだと思います。また、ソリューション研究会の他の分科会やOBの方々にも読んでいただいて、ここが分かりづらいとか、難しくてくどいんじゃないかといった客観的なフィードバックも反映しています。
江﨑:いろんなことを教わりながらトレーニングブックを作りつつ、その過程で私の知識も着実に増えていきました。初心者の観点から取り組んだからこそ、完成したものは「自分で読んでも納得できる」という手応えがあります。自社に対してはトレーニングブックが完成したことを報告していますので、次は組織内に展開していけたらと思っています。
梅本:取り組みを引っ張っていく存在が組織にいないと、なかなかデータ活用は進まないことを実感しました。いわば私が先生役、みんなが生徒役となって、簡単なことから少しずつスタートした1年間は、各メンバーにとってデータ活用を習得する大きな後押しとなったと思います。いきなりトレーニングブックを渡して「やってみてください」ではなく、ある程度寄り添って一緒に取り組む、ここに大事な要素があるのだと感じました。この一連の流れをパッケージとして、例えば私は自社でワークショップを開こうと計画しているところです。そうして広げていくことで、データを活用できる人材を増やしていけるのではないかと考えています。
後藤:これから業務でデータを活用する上で、きっと困ったり迷ったりする場面に直面することが増えていくと思うんです。その時に、このトレーニングブックが手元にあって、ヒントとして読んでもらえたらとイメージしています。確かにデータを見てはいるけれど、ちゃんとそれを根拠とした説明を組み立てられていないかもしれない、そんな気づきにもつながるとうれしいですね。
佐藤:「シン・KKD」を用いたスモール検証のテーマの一つとして「業務時間分析」を実施しました。自分の業務時間の分析を通じて、日々の業務の中でデータ利活用について学習し、スキルアップの時間を確保することを狙いとした検証です。この検証によって、普段の業務に対応しながらスキルアップの時間を捻出するのは、現実的にハードルが高いことも分かりました。ですから、業務の中にトレーニングブックのフレームワークを落とし込み、データ活用が浸透していくようなアプローチを取れたらと思っています。
誰もがデータ利活用の視点を求められる時代に
──ソリューション研究会に参加したことで、どんな発見がありましたか。
佐藤:同じ環境でずっと仕事をしていると、一般的に見て自分がどんなレベルにいるのか、どのくらいのスキルなのかを測るチャンスも限られます。こうして他社の人と交わって活動してみると、自分のスキルがどこまで通用するのかがはっきりしますし、楽しいですね。
江﨑:私もそうです。業種も職種も異なる人たちと一緒に共通のテーマについて考えることって、なかなかありませんよね。普段の業務では得られない考え方を分科会のメンバーから吸収できたのは、大きな収穫でした。
梅本:自分の会社で起こっているデータ活用に関する課題が、実は「日本全体でも起こっている」ということを強く認識しました。この分科会に集まったメンバーも大半がデータ活用について悩みを抱えていて、いったいどうしてだろうと調べてみると、国内ではデータを利活用できる人材が7割ほど不足しているという統計(『DX白書2023』独立行政法人情報処理推進機構)にもたどり着きました。それを解決するためのトレーニングブック制作という発想は、ソリューション研究会だったから出てきたものなのだと思います。
──データ活用は、まさにDXの第一歩だと思います。取り組みを始めようとしている方に向けて、みなさんからアドバイスするとすれば、どのような言葉をかけますか。
梅本:高校や大学で当たり前のようにデータサイエンスを学んできたという人材がどんどん増えていきますから、やはり専門の人だけでなく、誰もが「データをどうやって活用しよう」という視点を持つことが求められると思います。
江﨑:分科会に参加する以前、データの利活用はデータサイエンティストの役割で、自分の業務とはあまり結び付かないものだと思っていました。でも、身近なデータでも自分で仮説を立てて検証することで「データ利活用の成功体験」が得られることが分かりました。例えば私が自社で何かを報告する際にも、「自分が持っているデータでどんな結論を出して、どう説得できるんだろうか」と意識して仕事に生かせるようになったと思います。最初にあまり難しく考えすぎないことも大切なのかなと感じています。
後藤:データは仕事だけでなく、プライベートでも役立ちます。旅行先をどうやって絞り込もうかといった時にも、仮説を立てて、情報を集めて、可視化して結論を出すという流れが当てはまりますよね。日常でデータを生かすところからスタートしてみると、心理的なハードルも下がって、業務でも自然に「データ利活用の考え方」が発揮できるようになるんじゃないかと思います。
佐藤:「データを使う」というと膨大なデータから知見を得る作業というのを想像して、難しそうだなと感じていました。今回、私たちの研究活動のベースとなった「シン・KKD」は、最初に仮説を立てて、それを検証するためにデータを集めるというアプローチが特徴です。これはビジネスにおいて、誰にとっても大切なことだと思います。仮説に合わせてデータを用いるプロセスを経ると、こう使えばいいんだとだんだん理解できるようになります。仕事の中でちょっとしたことでも仮説を立てて、裏付けとなるデータを取ってみることを意識する、そんな試みの積み重ねがDXを実現する力になるのだと思います。
ビジネスに貢献するデータ活用分科会メンバー
所属企業名 | 氏名 |
---|---|
株式会社JR東日本情報システム | 佐藤洋輔 |
株式会社ジェーシービー | 梅本典明 |
キヤノンITソリューションズ株式会社 | 江﨑真代 |
株式会社シー・アイ・シー | 唐鎌圭佑 |
トヨタバッテリー株式会社 | 黒田祥平 |
TIS株式会社 | 小峯大地 |
清水建設株式会社 | 佐谷果音 |
株式会社アシスト | 後藤真李 |
株式会社アシスト | 軸丸恵梨 |
関連リンク
ソリューション研究会 2024年度分科会活動成果
「データ利活用トレーニングブック」は成果報告書の部、「第一位 ビジネスに貢献するデータ活用 分科会(東日本)」の欄に掲載されています。
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