基幹システム刷新をきっかけに業務を変革──若手主導×現場巻き込みで進めたアイガ電子工業のDX
DX事例
DXによって抜本的な変革を成し遂げ、月300時間もの業務時間を削減した中小製造業がある──。
1946年に創業し、電子機器や産業機器の設計・製造を行う茨城県のアイガ電子工業。
同社は2020年ごろ、長年使い続けてきた基幹システムの入れ替えをきっかけに、全社的な業務変革に着手。基幹システム稼働が見えてきた頃、社内にDX推進チームをつくり、外部の専門家の力も借りて本格的なDXに取り組み始めました。
IoTやCRMによるデータの可視化と連携、RPAによる業務自動化などを積み重ねた結果、業務効率化や事業面への好影響など、大きな成果につながっているといいます。
今回はDX推進の背景と具体的な取り組み内容、DXがもたらした成果などについて、アイガ電子工業代表取締役社長の益子貴行氏と、パートナーとして同社のDXを支援したITコーディネータの石川直樹氏に伺いました。
基幹システムの入れ替えを機に始めた業務改革
── まず、アイガ電子工業の事業について教えてください。
代表取締役社長 益子貴行氏代表取締役社長 益子貴行氏(以下、益子):当社は1946年に創業した、電子機器や産業機器の設計・製造を行うメーカーです。
スイッチング電源や電子制御装置を開発・製造する「電子機器事業」、電力設備やクレーン、エレベーター関連機器などを手がける「インフラ・産業機器事業」、電子部品を販売する「商社事業」という3つの事業を展開しています。
最大の特徴は、電気回路の設計から製造までを一貫して行っている点です。仕様に合わせてゼロから製品を作り上げることで、「お客様にとっての圧倒的No.1を目指す」というビジョンを実現していきたいと考えています。
── DX推進を始めた時期ときっかけについて教えてください。
益子:きっかけは生産管理などを行う基幹システムの老朽化です。
自社で開発したオリジナルの基幹システムを使い続けていたのですが、ハードウェアのサポート期限切れが迫っており、対応の必要に迫られていました。加えて、導入から20年ほどが経過していたこともあり、さまざまな課題が見えていました。
たとえば、社内には7つの事業チームがあるのですが、システムも7つに分かれていました。各チームの基幹システムが連携していなかったため、どうしても縦割りになりがちでした。
また、オンプレミス(自社内にサーバーを設置して運用する方式)のシステムだったことで、ソフトウェアの更新や保守、サーバーの維持管理などに膨大なコストがかかっていました。これらの課題解消のためにも、早急なリプレースが必要だと考えたのです。
── そこからDX推進をどのように進めていったのでしょうか。
益子:社内でシステム選定に悩んでいたとき、ITコーディネータの石川さんと知り合い、コンサルティングをお願いしました。
ITコーディネータ/株式会社BREEZE-I 代表取締役 石川直樹氏
ITコーディネータ/株式会社BREEZE-I 代表取締役 石川直樹氏(以下、石川):アイガ電子工業さんの場合は「ハードのサポート期限」という明確なタイムリミットがあったため、通常よりも対応を急ぐ必要がありました。
益子社長には、「これまで使っていたオンプレミスのシステムは、いわば体型に合わせてオーダースーツを作るようなもの。これからは既製品のスーツに合わせて筋トレしたりダイエットしたりするように、数あるパッケージシステムやクラウドサービスを前提に業務を変えていきませんか」と提案しました。
── 基幹システムの移行はスムーズに進んだのでしょうか。
益子:正直、思っていたよりかなり大変でした(笑)。パッケージの標準的な仕様を採用したことで管理項目が10倍以上に増え、当初は現場から「Excelが手放せない」という声も出ていました。そこから不都合を一つずつ解消していった形です。
石川:標準機能のまま導入してみて、不都合が出たら直す、というトライ&エラーの繰り返しでしたね。
益子:勢いで始めた部分もあって、「これはかんたんじゃないな」と途中で思ったのも事実です。ただ、ここでやめたら意味がないので、なんとか続けました。
CRM・IoTによる営業・工場データの見える化
── 基幹システムの入れ替え以外に、具体的にどのようなDX推進を行ったのでしょうか。
益子:たとえば、CRM(顧客管理システム)の導入です。お客さまとのやりとりや進捗、競合の情報、受注の成否など、なるべく多くの項目を設けて情報を整理した形で入力するようにしています。
以前は各担当営業が個人で情報を管理していたため、ほかのチームとの連携が取りにくいという課題がありました。CRM導入後は、ほかの社員や上長も同じ情報を確認できるようになり、営業活動での連携が取りやすくなりましたね。
── 慣れていたデータ管理の方法を変えるのは、かんたんではなさそうです。
益子:最初は入力漏れもありましたし、正直面倒だという声もありました。ただ、なぜ必要なのかを説明して、フォーマットを整えていくと、徐々に定着していきました。現在は各部門で当たり前の業務になっています。
石川:アイガ電子工業の皆さんは、どの部門もデータの入力や資料の整理などをきっちり行っていらっしゃいます。これは大きな特徴だと思います。
私がいままで見てきた印象だと、製造業でこうした大きな変化にスムーズに適応できる現場はそう多くはありません。
── ほかにはどのようなDX施策を進めてこられましたか。
益子:RPAを導入し、業務効率化を図りました。人のリソースには限りがあるため、なるべく業務を合理化し、社員にはより付加価値の高い仕事に集中してもらうことが狙いです。
また、工場ではIoT導入の取り組みを進めました。機械加工や切削加工の機械にセンサーを取り付け、稼働状況を見える化しています。これにより、機械の運用を効率化できただけでなく、現場も稼働状況を数字で把握しながら、自分たちで改善を考えるようになったと感じています。
そのほかにも、勤怠管理システムや名刺管理ツール、AI議事録の導入、コーポレートサイトや採用ページのリニューアルなど、多方面でデジタルツールの活用を推進してきました。
DXのロードマップ。アイガ電子工業の資料より
── これだけDXが進むと、ペーパーレス化にもつながりそうですね。
益子:ペーパーレス化も進めていますが、何でもデジタルにすればいいとは考えていません。図面などは紙のほうが見やすい場面もありますし、マスターはデータ化しつつ、運用はデジタルと紙を使い分けています。
若手主導・現場巻き込みで進化したDX推進体制
── DX推進における課題はありましたか。
益子:よく指摘されるような“抵抗勢力”は当社にはいなかったと思います。
ただ、DXによって何を目指すのか、ゴールである当社のビジョンに向けてどう進んでいくのか、その道筋を示すのは容易ではありませんでした。
とくにDXを推進する人材をどう育成するのかという点は課題でしたね。
石川:DXを推進する場合、人材育成については二つの考え方があると私は思っています。
ひとつは社内全体のデジタルスキルを底上げするやり方、もうひとつはDXを推進するチームが中心となってデジタル化を進め、ほかのメンバーがその成果を活用するやり方です。
アイガ電子工業さんには後者のスタイルがマッチするのではと思い、そうお伝えしました。
益子:そこで私が悩んだのが、推進チームのメンバーをどう選ぶのかということです。
DXを進めるには、当然ですが業務全般に関する知見が必要です。そういう意味では、役職者やベテラン社員のほうが適しているでしょう。しかし、それでは若手が育たなくなってしまいます。
そこで、業務理解については必ずしも現状ベストとは言えないものの、「今後伸びてほしい」「いろいろな経験を積んでほしい」と思う若手を中心に推進チームを結成したのです。
伸びてほしい若手中心にしたこと自体は、いまでも良かったと思っています。DXは一時的なプロジェクトではなく、会社のやり方そのものを変えていく取り組みですから、将来を担う人材に早い段階で関わってもらうことには意味がありました。
ただ、実際に進めるなかで、「このメンバーだけで全社の業務を変えていくのは難しい」という現実も見えてきました。
石川:DX推進チームだけで全社を動かすのは現実的に難しい。そこを早い段階で見切って、「現場側にも担い手を作ろう」と体制を組み替えたのが、益子社長らしい判断だと思いました。
益子:デジタル業務改革委員会は、各事業部から兼務で集まってもらった約20名で構成されています。DX推進チームが施策を企画・実行し、委員会が事業部との橋渡しをする。そんな役割分担で進めています。
── 若手中心のDX推進チームと各事業部の委員会メンバーが連携する体制になって、社内の雰囲気や取り組み方に変化はありましたか。
益子:そうですね。いまでは現場からもデジタル化のアイデアが挙がるようになりました。
石川:デジタル人材育成研修のなかで、デジタル計画書を作成してグループごとにプレゼンテーションしているのですが、そこでもさまざまな案が出ています。
たとえば、AI OCR(紙やPDFの注文書を自動でデータ化する技術)を活用した受注の効率化、採用業務の効率化、生成AIを活用した迷惑メール対策、さらにはランチのお弁当オーダーのデジタル化などです。
益子:大きなデジタル化/DXのアイデアだけでなく、「RPAでこの作業を自動化しました」といった「ちょっとしたデジタル化/DX」が日々当たり前のように生まれるようになっています。
月300時間削減を実現、ビジネス面でも大きな成果
── DX推進が事業に与えたインパクトについてはどう見ていますか。
益子:情報が事業横串で連携できるようになったことで、営業は非常に動きやすくなっています。
2025年は前年比でより多くの引き合いをいただいている状況で、12月には2件の大型案件を受注しました。これはひとえにDXの成果だと感じています。
営業面だけでなく、社内資料の作成業務や勤怠集計、受発注関連業務などをDXで大幅に効率化できました。その結果、全社合計で月およそ300時間の業務時間削減が実現できています。
DXの成果。アイガ電子工業の資料より
── 非常に大きな成果が生まれているのですね! さまざまな課題に直面し、DX推進を断念する企業もあると思いますが、DX推進継続のモチベーションはどこからくるのでしょうか。
益子:一番は、当社が掲げるミッション・ビジョン・バリューを「DXによって実現するんだ」という思いです。それにより、働いてくれているメンバーが「この会社でよかった」と思ってもらえるようにしたい。そのために必要な施策かどうか、効果が見込めるかどうかを毎回天秤にかけて判断しています。
そうはいっても経営者にとってDX推進はかんたんなことではありません。私がDX推進を継続できているのは、たぶん楽観主義だからでしょうね。
思い返すと大変だったなとは思うのですが、もう一度過去に戻ったとしても、やはりDXは推進すると思います。どうにかなるだろうという思いで取り組めば、どうにかなるものなんです(笑)。
── 今後のDX推進の展望について教えてください。
益子:引き続き、「お客様にとっての圧倒的No.1を目指す」というビジョンの実現を目指すと共に、電子機器業界の中核企業のポジションを取っていきたいと考えています。業界のなかで信頼される存在であり続けたいですね。
そのためにはさらなるDXが必要です。協力企業ともしっかりタッグを組み、データ活用も進めていきたいと思います。
石川:茨城県内の製造業では、ここまで基幹システムの刷新から業務改革、人材育成まで一体で取り組めている企業はまだ多くありません。
アイガ電子工業さんの事例は、「中小企業でもここまでできる」という現実的なモデルになると思いますし、地域全体のDXを前に進めるきっかけにもなるはずです。
DX認定も取得し、DXに向けたスタートラインに立ちました。あとは、真のDXへ向かってしっかりと推進していただくだけです。
DXは特別なことではなく、経営の目的を実現するための手段です。今後、アイガ電子工業さんがどんな形でそれを進化させていくのか、引き続き注目していただきたいですね。
── 最後にDX推進に取り組む中小企業へメッセージをお願いします。
益子:「DX認定制度」取得を目指すのもおすすめです。DX認定のために準備をすることで考え方があらためて整理されますし、社内に対しても会社の方向性を伝えることができます。
ただ、中小企業だとすべてを自社でやるのは大変なので、当社が石川さんにお願いしたように外部の力を積極的に借りるのがよいと思います。
取材・構成・撮影:山田井ユウキ
編集・制作:株式会社はてな
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