学ぶ

データ活用の現状と近未来 —— データベースから「データスペース」へ

データ活用 技術解説

データはデジタル変革(DX)のいわば血液です。DXのX(トランスフォーメーション)は、データが流れることで価値が生み出され、実現します。また、DXが対象とする範囲は様々ですが、社会のDXを考えるのならば、特定組織を超えてデータが流れ、活用される姿を思い描く必要があります。

2025年10月、オープンソースカンファレンス 2025 Online/Fallにて、これからのデータ活用を考えるセミナーが行われました。この記事では、その中から、近い未来のデータ活用形態である「データスペース」についての講演とパネルディスカッションの概要を紹介します。

〔目次〕

 ・組織の枠を超えたデータ活用へ
 ・データスペースとデジタル・エコシステムの実現に向けて
   - データスペースとは
   - データスペースのニーズはどこにある?
   - データスペースを実現する宿題の見本解答
   - 求められるデジタル時代のエコシステム形成
 ・〔パネルディスカッション〕データベースからデータスペースへ
   - 有益なデータの発見はどうする?
   - 民間企業はデータスペースの運営や対応に乗り出してくれるか?
   - いま以上にデータの活用や流れを促進していくために
 ・まとめ


組織の枠を超えたデータ活用へ

仕事の中でデータ活用に奮闘されている方は多いと思いますが、この記事では少しだけ未来のデータ活用の姿を考えてみましょう。企業や業界の垣根を超えてデータを活用する「データスペース」です。
現在、データを保存し処理するツールの代表がデータベース(database(s))でしょう。データスペース(data spaces)はカタカナ表記だと見間違えそうです。この記事では「データスペース」と「データベース」が混在して登場しますがご容赦ください。

「他の企業が持っていそうなデータを活用できたら」とか、「私たちの業界のデータを他の業界も欲しがるかも」と考えたことはありますか?
言われてみれば、可能性がありそうだと思われるのではないでしょうか。そして、「できたらいいけれど、簡単じゃないよね」ということも直感的に感じられるでしょう。
組織の壁や国境を越えたデータ活用は理想とする目標地点ですが、思い描いただけで都合良く道具(システム)やデータが現れるわけではありません。

オープンソースソフトウェア(OSS)の普及促進をするOSSコンソーシアムのメンバーは、主に企業が現在使っているデータベースやレガシーなITシステムなどのIT基盤を中心に活動しています。一方、IPAのデジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)は、目指すべきゴールとそこへの道筋を描いています。両方のメンバーが一緒に話をすることで、思い描く近未来の実現に近づけるはずです。

データスペースとデジタル・エコシステムの実現に向けて

IPAのデジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)でデータスペースの普及・促進に取り組んでいる上野裕季さんの講演です。上野さんの講演内容を、一部は意訳したり、解釈を付け加えたりして説明します。

データスペースとは

データスペースとは、国境や分野の壁を越えた新しい経済空間、社会活動空間のことです。たとえば電気自動車などで使われる蓄電池では、天然資源の採掘、電池製造、そして破棄やリサイクルまですべてのプロセスが関係してきます。そんなデータスペースは、データを連携できるルールや仕組みが整備されて初めて利用できるようになります。

このデータスペースのコンセプトは、従来からのデータベース技術などを工夫すれば実現できないのでしょうか。上野さんによれば、従来型データベースでは「管理と共有の壁」を超えるのは難しいと言います。たとえば、利用期間やプライバシー等の管理、データの真正性、相手の信用度の保証を、複数の組織や業界を横断して行う必要があります。データ同士の連携をできるようにしても、データ提供元が「データ主権」を失ってはいけません。これは技術だけの問題ではなく、ルールで解決すべき問題もあります。

データスペースの概要(講演資料より)

データスペースのニーズはどこにある?

データスペースはどんなところで必要になるのでしょうか。

近年、欧州では環境問題への取り組みとして、電池規則(EU Battery Regulation)の施行や、製品のカーボン フットプリント(PCF)などの規制強化が進行しています。企業はサプライチェーン全体の環境負荷データの正確で効率的な収集・連携が求められます。企業・業界間でデータを連携する仕組みとしてデータスペースのニーズが高まっています。また、企業が保持する現実社会を反映したリアルデータ(たとえば製造・流通・販売などのデータ)は利用価値は高いものの、データ漏洩等への警戒感がデータ利活用の障壁となっています。データ提供企業の主権を確保しつつ、他社や他業界のパートナー企業に適切なアクセス制御でデータを授受できるデータスペースができると、データの利用価値が高まります。

ビジネス分野でのデータスペースのニーズ(講演資料より)

データスペースを実現する宿題の見本解答

そんなデータスペースを、産業界で社会実装を進めやすくするためのガイドラインをIPAが作成し、提供しています。

様々なデータスペースへの取り組みの共通仕様と、それを実現する際の設計指針です。試験問題の見本解答みたいなものだと思っていいでしょう。

共通仕様(Open Data Spaces; ODS)実現の設計指針(リファレンスアーキテクチャモデル)の7つの基本原則(講演資料より)

求められるデジタル時代のエコシステム形成

見本解答まで用意したから「あとは各社で頑張ってくださいね」では片付きません。先にも述べましたが、データスペースが企業、業界、国の壁を超えなくてはいけないものだからです。複数の組織が協力してイノベーションを共創・成長させる活動(エコシステム)が望ましい姿です。そんなエコシステムの活動はデジタルの特性も加味して次のような特徴になるでしょう。

  • 単一組織では達成できない価値を生み出すこと(インターネットで連携)
  • 課題に対する解決策を提供するパートナーシップ(クラウド環境活用)
  • 人手ではない自動化された自律的な仕組み(AIや各種IT活用)

そんなエコシステムが作れるでしょうか。次のパネルディスカッションでの論点の一つにもなっています。

〔パネルディスカッション〕データベースからデータスペースへ

  ——— 企業ITの「今」と目指す将来の姿を仲立ちするには

IPAのデータスペースの取り組みは、到達する目標地点を示しています。そしてその実現のためには、スタート地点となる現在のITシステムの現状や、使える道具についても考える必要があります。スタート地点と目指すゴールの両方を理解することで、社会実装に向かえるのです。

ところが、この両方に通じたスペシャリストはどこにも居ません。それなら、両方の立場の人たちが集まって話してしまおうということで、パネルディスカッションとなりました。
明確な答えがあるわけではないから議論する価値があります。また、各専門分野のプロのみなさんの討論ですので、難解な部分もあるかもしれません。興味のある話をしていると感じられたら、アーカイブ配信をご参照ください。

オンラインで行われたパネルディスカッション様子

パネリストとモデレータは次のメンバーです。

  • 独立行政法人情報処理推進機構 上野 裕季 さん
  •  日本オラクル株式会社 梶山 隆輔 さん (以下 梶山)
  •  東京システムハウス株式会社 井坂 徳恭 さん (以下 井坂) 
  • 株式会社インプリム 内田 太志 さん (以下 内田)
  •  OSSコンソーシアム 溝口 則行〔モデレータ〕

有益なデータの発見はどうする?

――― データスペースを実現したい立場から、ITのインフラやツールなどIT基盤を提供する立場の人たちに尋ねたいことはあるでしょうか。簡単ではない無理難題の方が討論しがいがあります。

〔上野〕 世の中のデータは玉石混交なので、本当に使えるデータ・有効なデータを見つけてきたり、アクセスできる様にする方法が必要ですが、何かアイデアがあるでしょうか。


〔井坂〕 レガシーシステムに立ち向かうときの最大の課題もそれと同じです。今はCOBOLプログラムをLLM(大規模言語モデル; 生成AIの一形態)に読ませると、プログラムの仕様を理解して、どういうデータを扱っているのかを教えてくれます。COBOLはデータの説明がプログラムの中に書かれる言語なので、LLMが理解しやすい特徴があります。ただ、そこから先の深い意味や要否などはまだ人間の仕事になってしまいます。


〔梶山〕 MySQLなど昨今のDBMSは、LLMを組み込んでいます。従来はDBMSでデータ検索するにも専門スキルが必要でしたが、その敷居が下がって来ています。ただし、データ設計はこれまで以上に重要になると思います。何のデータか?何を意味するか?を示すデータカタログがちゃんと整理されているかがポイントになるからです。


〔内田〕 ノーコード開発ツールでも最近話題のMCP(Model Context Protocol; LLMが外部のツールやデータと連携するための規格)が組み込まれつつあります。そのためノーコードツールから外部のデータを活用する環境は整いつつあると言えるでしょう。また、逆に他のシステムからノーコード開発ツールが持っているデータを利用する場合もありえます。プリザンターを例にすると、内蔵するデータベース自体の設計は汎用的なデータ保管庫になっていますが、データが何かを示す名前はちゃんと管理されています。そのため他のシステムからノーコード開発ツールが持つデータの活用はしやすい特徴があります。


〔上野〕 構造化されたデータについての現状はおおむね理解できました。しかし、非構造データ、たとえば映像などでは、意味のあるデータを見つけることは現状ではなかなか難しそうです。「何が写っているか」や「写っている人が何をしているか」という説明(言葉)を付けるところまではできても、その解釈が人や会社によって異なることが多いと感じます。


――― 画像など非構造データについては課題は多そうですね。従来のITシステムやデータベースが持つ構造化されたデータであれば、データ連係する環境は整いつつあるようにも見えます。そうするとデータスペースは実現しやすくなるでしょうか。

〔上野〕 データスペースの実現には、単にデータにアクセスできればいいと言うわけではありません。それ以外の面、たとえばデータ主権の確保などが大きいので、アクセス性だけで解決するほど簡単では無いでしょう。


民間企業はデータスペースの運営や対応に乗り出してくれるか?

――― 上野さんの講演タイトルにもなっているデジタル・エコシステムの実現についてはいかがでしょうか?

〔上野〕 IPAからデータスペース実現の共通仕様や参考実装などを発行しはじめていますが、これらを活用してデータスペースの運営を担う民間企業が出てくれるかが気になっています。官主導だけではなく民間がビジネスとして回せる様になって欲しいと考えています。そうなったらいいなという希望です。


〔梶山〕 紹介いただいたのは日本での取り組みです。そこにグローバルなIT企業がどのように関与するのかという観点もあるでしょう。ただ、ITの全部をグローバルなプラットフォームがカバーするばかりでは無くて、ソブリンクラウド(データが国内で保存・処理され外国の法律の影響を受けないように管理できるサービス)など各国の中で対応していくのが適した場合もあります。その場合はプラットフォーム事業者が日本でのデータスペース対応に乗り出す可能性はあると思います。


〔内田〕 データスペースを使いたいユーザー企業が増える必要はあります。そうなってきたらノーコード開発ツールなどITツールも対応していくことになるでしょう。もちろん単体のツールでできることは限られるでしょうし、ITツールが対応しやすい仕様になっているかなど気になることはあります。

いま以上にデータの活用や流れを促進していくために

――― 現在よりももっとデータを活用しようという流れに乗ったり促進するために、なにができるでしょうか?

〔梶山〕 これまでのデータベース(DBMS)は縁の下の力持ちで地味な存在だったかもしれません。でも、これからはデータの価値や活用に目を向けていくことになるでしょう。


〔井坂〕 レガシーシステムの抱えるデータは、お荷物ではなくて、貴重なものがいっぱいあります。レガシーシステムが持つデータを活かして、そこから付加価値を生み出せるようにしたいと考えています。そして、先々はレガシーシステム由来のデータがデータスペースにつながるようになるといいですね。


〔内田〕 規模の小さい会社ほどDXへの取り組みがまだ進んでいないという現実があります。そこで働く人たちのITリテラシーも向上させないと、データを活用できるかどうか以前に、そもそもデジタルデータが生まれて来ません。ITを活用するための敷居を下げていくことで、活用できるデータも生み出されてくると思います。


〔上野〕 日本の企業が持っているリアルデータは大きな価値・可能性があるはずです。それらを活用するためにODS(Open Data Spaces; 講演で紹介された共通仕様)は力になるはずです。私たちも、これからどんどん成果を出していくので、引き続き目を向けて欲しいと思います。

まとめ

データについては現在でも「社外には出しにくいもの」という扱いが主流です。しかし、これからのデータ活用では、他社・他業界・海外に目を向けてみると、活用の方向や価値を見いだすチャンスが増えるのではないでしょうか。IPAで行っているデータスペースへの取り組みは、そのための提案です。

ITの世界では、主にソフトウェアについては「オープンソースソフトウェア(OSS)」の様に、皆で良いものを作るなどエコシステムを形成する動きが定着しつつあります。これからはデータについてもオープンマインドで臨みましょう。

関連リンク

〔OSSコンソーシアムによるイベント関連情報〕
 ・ OSSコンソーシアム/セミナー開催情報 
 ・技術評論社 OSSデータベース取り取り時報 第123回 企画セミナー「データ活用の現状と近未来」開催報告⁠⁠(他)
 ・YouTubeセミナー動画(再生リスト)

関連記事

 ・データは重要な経営資源!データ経営を進める7ステップ
 ・システム連携基盤 “ウラノス・エコシステム”とは ~業界も国境も超えたデータの共有に向けて~
 ・データスペースとは? 次に来る、デジタル用語のギモンに回答
 ・データ活用はDX成功の鍵!データの価値を最大化するためのデータ整備のポイント
 ・【3分でわかる】データ活用とは? メリットや活用方法、事例をポイント解説

concept『 学んで、知って、実践する 』

DX SQUAREは、デジタルトランスフォーメーションに取り組むみなさんのためのポータルサイトです。みなさんの「学びたい!」「知りたい!」「実践したい!」のために、さまざまな情報を発信しています。

DX SQUARE とは