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システム連携基盤 “ウラノス・エコシステム”とは ~業界も国境も超えたデータの共有に向けて~

2023年4月、経済産業省は、企業や業界を横断してデータを連携・活用する取り組みを「ウラノス・エコシステム」と命名したことを発表しました。
皆さんはデータ連携という言葉を聞いて、どのようなものをイメージするでしょうか?社内の業務システムの連携、APIを介したアプリケーションの連携などを思い浮かべる人が多いかもしれません。
この記事では、なぜ国がデータ連携の取り組みを推し進めているのか、「ウラノス・エコシステム」とは何なのか、具体的な活動の例を交えて解説したいと思います。

ウラノス・エコシステムとは?













顧客ニーズの多様化やグローバル競争の激化によって、社会は変容してきています。それによって、脱炭素や人手不足といった社会課題や、災害・パンデミックなどによるサプライチェーンの断絶、経済安全保障などの経済課題が複雑化し、従来の仕組みでは解決が困難になってきています。

そのような社会背景のもと、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(物理空間)を高度に融合し、社会課題の解決と産業発展を同時に実現可能とする人間中心の社会であるSociety5.0の実現を目指していかなくてはなりません。

ウラノス・エコシステムとは、そのような社会の実現というビジョンに共感した方々とともに、その実現を目指す、一連のイニシアティブです。

取り組みとしては、企業や業界、国境をまたぐ横断的なデータ共有やシステム連携の仕組みの構築を行います。
そのため、経済産業省、関係省庁、情報処理推進機構(IPA)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、大学、民間のさまざまな業界と共同で取り組みを進めています。

産官学のさまざまなプレイヤーがともに、全体がシステム連携して新たな価値を創出していくという観点から、ギリシャ神話の天空の神「Ouranos(ウラノス)」に由来し、「ウラノス・エコシステム」と名付けられました。

なぜウラノス・エコシステムが必要なのか?

具体的にはどのような課題があり、どのような仕組みが必要なのでしょうか?
皆さんの身近な事例をもとにウラノス・エコシステムの必要性について解説していきます。

物流や災害対応など生活必需サービスの維持


少子高齢化で人手不足が顕著となり、このままでは生活必需サービスや機能の維持が困難になってしまいます。

中山間地域など人の居住が少ない場所では移動が困難になる「人流クライシス」。
ドライバー不足で荷物の配送が困難になる「物流クライシス」。
地震や豪雨などの災害への対応に時間を要してしまう「災害激甚化」。

このような社会課題は、単に自動運転車やドローンを動かすだけでは解決できません。
さまざまなシステムを連携させ、仕組みを構築することが必要です。
たとえば、A地点からB地点へ動かす位置情報のほかに、気象状況や電波状況などについても確認する必要があります。また荷物を運ぶ場合、どれだけの需要があるか、どのくらい供給できるかの情報も必要です。

こうしたデータを各事業者が個別に取得することは効率がよくありません。そこで、ウラノス・エコシステムのようなシステム連携基盤でさまざまなシステムを連携し、すべての事業者が共通のデータを利用できるようにすることで、低コストで効率的な業務を実現します。

国際的な法規制やルールへの対応

カーボンニュートラルの実現など、社会的要請への対応やリスク管理が企業に求められています。これらをクリアできないと、製品を海外で販売できない、調達ができない、営業秘密情報を提出しなければならない、といった事態が発生し、企業の経営上の課題になる恐れがあります。

たとえば自動車業界では、2024年から段階的に施行される欧州電池規制によって、蓄電池に関して上記のリスクが顕在化する見込みです。

そのため、各企業は自社のデータ主権を守りながら、他社とのデータの共有や活用によって、経営上のリスクを回避しなければなりません。また同時に、目まぐるしく変化する社会や顧客のニーズを捉えてすばやく対応できるような産業構造を実現することで、グローバル市場における日本の製品・サービスの競争力強化につながる仕組みを構築することが必要です。

イノベーションの創出

企業活動には、企業の競争力に関わらない協調領域があります。たとえば、ドローン飛行や自動運転走行における気象状況や電波状況。これは、わざわざ自社で集める必要のない、各社が共通で使えばよいデータです。

このような協調領域について、システム連携基盤ですべての事業者が利用できるようにすることで、コストが下がり業務が効率化されます。これにより、共創が促進されイノベーションの創出にも寄与します。新たな価値を生み出すことにより、より良い商品・サービスが生まれ経済成長を実現するのです。

ウラノス・エコシステムの具体的な取り組みには何がある?

ウラノス・エコシステムでは現在どのような取り組みを行っているのでしょうか。
いくつかある取り組みの中から、2つご紹介します。

空間IDを用いた空間情報の整備

人流クライシスや物流クライシスなどの社会課題を解決するためには、自動運転車やドローン、ロボットの社会実装を進めていかなくてはなりません。
そのためには、現在皆さんがよく使っている住所情報だけでなく、建物や樹木の位置に関する情報、気象情報などさまざまな種類の空間情報が必要です。しかし、現状では事業者ごとに異なる仕様や規格で表現されており、それぞれのデータを横断して活用することが困難になっています。








そこで、異なる種類の空間情報を簡単に統合・検索したり、軽量に高速処理できる仕組みを整備しています。それが、空間IDです。

空間をあらかじめ定義された枠で分割し、個々の枠に空間IDを割り当てることで、異なる空間情報であっても一意に位置を特定することができます。それによって、鮮度の高いさまざまな空間情報を高速に結合できたり、簡単に検索できるようになり、ロボットやシステムが利用しやすい形になるのです。

ウラノス・エコシステムの取り組みでは、空間を分割する枠や、空間IDの構成要素、空間属性情報などを定義し、ガイドラインとして公開しています。

蓄電池のトレーサビリティ

現在、自動車業界では、カーボンニュートラルの実現が大きな課題になっています。しかし、自社の努力だけではどうにもなりません。

欧州ではグリーンとデジタルを掛け合わせた戦略を推進しています。特に自動車の電動化と歩調を合わせて蓄電池に関する規制を導入する欧州の規則への対応は、喫緊の課題です。
その1つに、電気自動車やハイブリッド車に使われる蓄電池のトレーサビリティがあります。

天然資源の採掘から電池製造、電池の一次利用から二次利用、破棄やリサイクルまですべてのプロセスを追いかけ、デジタルデータによって開示しなくてはなりません。これは欧州以外の国々でも同様の動きがあります。

以前の自動車業界では、自身の担当領域である自動車の製造だけ行っていれば問題ありませんでした。しかし現在では、資源や素材、部品についても責任を求められるようになりつつあります。そのためには自社だけでなく、取引先企業やそのまた先の取引先企業など、自動車製造のサプライチェーンに係わるすべての企業とともにルールを決め、取り組む必要があります。

また、各国の規制に従うだけではどんどん利益が減っていきます。日本のルールを世界に展開することも重要です。しかし民間企業だけでは海外のルールに影響を及ぼすことができず、相互運用もできません。そのため、官民が連携していくことも重要です。

まずは、データ流通サービスやトレーサビリティ管理サービスのプラットフォームが必要です。その上で、電池のリユース・リサイクルのサービス、電池のリースサービスなどさまざまなアプリケーションが生まれ、エコシステムが形成されていくイメージです。自動車業界だけでなく、他の業界もプラットフォーム上にさまざまなサービスを作ることができるため、ビジネスが広がっていきます。









現在ウラノス・エコシステムでは、このようなプラットフォームの検討について取り組みを進めています。
蓄電池のトレーサビリティの取り組みは先行ケース。今後は蓄電池以外の自動車部品や、自動車以外の産業まで波及していくことを想定しています。

ウラノス・エコシステムが普及した未来

ウラノス・エコシステムは、単なる業界横断のデータ連携ではなく、システムを連携し、エコシステムを形成していきます。ウラノス・エコシステムでシステムを連携させることで、各企業は自前ですべてのシステムを作るのではなく、各プラットフォームを組み合わせて利用することができるようになります。

効率化によってイノベーションが創出され、新たなサービスや商品が生まれることで、ウラノス・エコシステムは業界の枠や国境を超えて広く共存共栄していく未来を描いています。

ウラノス・エコシステムやデータ連携、システム連携基盤と聞くと、自分の生活や仕事からは遠い存在のように感じるかもしれません。しかし、人手不足や物流問題など、実は身近にせまった社会課題を解決する取り組みでもあるのです。

まとめ

今回の記事では、「ウラノス・エコシステム」について解説しました。
ウラノス・エコシステムは、Society5.0の実現を目指すためのデータ連携に関する一連の取り組みの名称です。企業や業界、国境をまたぐ横断的なデータ共有やシステム連携の仕組みの構築や、ルール作りを行っています。

目まぐるしく変化するデジタル社会の現代では、ひとつの業界やひとつの企業だけで大きな課題を解決することは困難です。データ連携、システム連携について考えてみませんか?

関連情報

Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)【経済産業省】

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