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データスペースとは? 次に来る、デジタル用語のギモンに回答

データ活用

「データスペース」という言葉を聞いたことがありますか?
「データベース」でも「データセンター」でもありません。直訳では「データ空間」でしょうか。

現在、私たちの社会活動において、さまざまなデータが作られています。またそれらのデータは国境を越えて流通しています。
たとえば、あなたのスマートフォンに入っている音楽配信アプリ。聴けるのは、全世界のさまざまな国のアーティストの曲です。そのアプリは、海外の会社が海外のルールで作ったもの。そしてあなたは、それを海外の会社のプラットフォーム上からダウンロードしたはずです。

さまざまな国から集まったデータ(音楽)が、どこかの国のプラットフォームに乗って、さまざまな国で使われて(聴かれて)います。また、あなたがそのアプリに入力したデータもまた、日本ではない国の誰かが分析に使っているかもしれません。

企業の活動においても同じです。
私たちが生み出すデータや情報は、これまで私たちが住んでいる国の法律やルールのなかで扱われていました。しかし、今や国境を越えて流通し、活用されるようになってきています。

このような、国境を越えて活用されるデータの基盤を作ろう、というのが「データスペース」です。

この記事では、元デジタル庁のデータ戦略統括をつとめ、現在はIPAのデジタル基盤センター長である平本健二氏に、「データスペース」についてわかりやすく教えてもらいました。

平本 健二(ひらもと けんじ)

独立行政法人情報処理推進機構(IPA) デジタル基盤センター長
大手SI会社、コンサルティング会社、経済産業省、デジタル庁データ戦略統括を経て現職

データスペースって何?

――「データスペース」って何なのか、ずばり一言で教えてください。

データスペースが国境を越えた空間であることを表すイメージ図。

僕が思うデータスペースというのは、「国境や分野の壁を越えた新しい経済空間であり、社会活動の空間」のこと。

じゃあ、それは具体的にいうとどんなことか。これはAmazonやAppleを考えてもらうとわかりやすいです。

たとえば、Amazonは国境を越えてビジネスをしているわけですよね。Amazonは当然、各国の規制に従ってビジネスをしている。けど、Amazon独自の取引ルールがある。Amazonに出店するときはこうしてくださいとか、手数料はこうですよとか。そして、そのAmazonの取引ルールの枠組みで、世界中が動いているわけです。
Appleも同じように、iPhoneは各国の電波の規制などを受けながら、AppStoreみたいなアプリの部分はAppleがルールを作っている。

つまり、今は国という枠組み以外にも、「データスペース」という新しい国境を越えた空間ができていて、そこに新しいルールがあって、そこで新しいビジネスもできるし、逆に制約もかかっている、という状況なんですね。

プラットフォーマーによって国境を越えたデータ流通が行われていることのイメージ図。

――AmazonやAppleも「データスペース」の1つということですが、データスペースって誰が言い出したんですか?

今までAmazonやAppleをみんなあまり意識しないで「便利なサービスがあるね」くらいで使っていたんだけれど、2018年ごろにヨーロッパがこれのビジネス版をつくろうという形で「データスペース」と言いはじめた。ヨーロッパ域内で国境を越えて、共通ルールで取引したり活動したりできるようにしよう、という形ですね。

AmazonやAppleはデータスペースとは呼ばれていないものの、概念としては同じもの。データスペースを提唱したヨーロッパは、「個人マーケットはアメリカにとられた。だから我々は企業の空間をやっていくんだ」というようなことを言っていますからね。

ヨーロッパの進めるデータスペースが、AmazonやAppleと違う点は、分散型である点です。さまざまなデータ提供者や利用者がいて、データも様々なところにあり、それらをデータスペース全体で活用できるようにしています。

――いま日本でも「データスペース」という言葉が使われはじめています。どうしてですか?

実際にヨーロッパでGAIA-X(ガイアエックス)とかCatena-X(カテナエックス)といったデータスペースが出てきたことで、産業界が注目しはじめてるんですね。

たとえばトヨタやコマツは、海外でたくさん仕事をしていますよね。ただ、今までは各国の規制のほうが強かったのだけれど、それと同じくらいの力を国ではなくプラットフォーマーが持ち始めたってことじゃないのかなと思います。

しかも今までは自動車業界とか鉄鋼業界とか、産業ごとに規制があって、業界の中でつながっていればよかった。それが今や、たとえば「カーボンニュートラル」とか、「再生可能エネルギー」とか、業界を越えて繋がらなきゃいけない世界になっていて、目的に応じた空間ができてきた、ということですね

データスペースってどんなもの?

――具体的にどんな要素があれば「データスペース」といえるんですか? 

一番重要なのは「コネクター」でデータがつながって、交換できることかなと思います。

これまでは「API」や「ファイル転送」でデータをつなげて送ったりしていたと思うんだけど、それだと各社がAPIに合わせてシステムを作らなければならなかった。

データスペースとつなぐ場合はそうではなくて、各社はデータスペースにある「コネクター」にデータを送ればいいようになるんですね。

コネクターは簡単にいえば、コンセントのようなもの。

コネクターはコンセントのようなものであることを示すイメージ図

コンセントは形状と電圧と電力周波数のセットが揃ってて、それに合うプラグの付いた家電を誰でも使えるでしょう。それと同じで、企業は共通のコネクターにつなぐプラグをシステムにつければ、誰でもデータを送ったり受け取ったりできるようになる。

海外はコンセントが違うけど、そこはコンバーターを入れることによって簡単に使える。同じように、標準化されたコネクターを使っていれば、コネクター間の連携はいくらでもできるようになるんですね。

コネクターとAPIの違いを示した図。コネクターはデータスペースとシステム、あるいはデータスペースとデータスペースをつなぐものである。APIはシステムとシステムをつなぐものである。

――コネクターとはつまりコンセントのようなレベルで標準化されたものということですね。

そうですね。これまで日本ではいろいろなデータ連携の実証実験がされてきて、どこかの地域とかどこかの業界とかで、みんなそれぞれの「家電」を作ってきた。だけど、「電気」つまりここでは「データ」をやりとりする部分が統一されていないから、他にもっていって使いたくても使えないんですね。地域で発電して地域だけで使います、という感じになっているから、規模が拡大しない。

だから、「コネクター」という、標準化されたものを作っていかないといけないんです。

――コネクター以外に、データスペースに必要な要素はありますか?

複数の会社やプレイヤーがコネクターを使ってデータを共有するということは、そこには「コントロールタワー」つまり「管制塔」と呼べるようなものが必要です。

どういうことかというと、たとえば自動車業界でデータを共有するとしましょう。
トヨタ自動車と日産自動車なら、この2社は信用できるからOKにしようとなるわけだけど、ここに僕がやっている“平本商店”という部品会社が加わるとする。

加えても大丈夫なのかなと思ったときに、平本商店の信用情報や決算情報が必要かもしれないし、他のメンバーからの承認もいるし、ルールを破ったときの罰則もいるかもしれない。
データスペースとしてデータを共有するには、そういった原則のようなものを決める必要があって、それをコントロールできるコンソーシアムや枠組みが必要なんですね。
そうすることで、データスペースのルールのもとで、誰もが参加できるオープンな空間を実現しています。

データスペースの具体例

――ヨーロッパではどんなデータスペースが作られているんですか?

さまざまなデータスペースの例として、製造分野、健康分野、金融分野、エネルギー分野、モビリティ分野等を図示。

データスペースについて、日本のあらゆる記事がGAIA-XやCatena-Xを紹介しているんだけど、ここには大きな誤解があって。ヨーロッパではそれら以外にもすでに十何種類かのデータスペースが動いているんです。

いま日本で注目されているGAIA-Xは、ドイツ政府の主導で始まったヨーロッパ独自のデータ基盤構築プロジェクト。Catena-Xは、ヨーロッパの自動車業界でデータを共有するためのプラットフォームですね。
特にCatena-Xは自動車業界のサプライチェーンや規制に関わる部分だから日本でも注目されたんです。

でも、他にもデータスペースはたくさんあって。分野も多岐にわたるんですよ。

たとえば、政府のプロジェクトではないんだけど、「Fish-X(フィッシュエックス)」というデータスペースがある。フィッシュ、つまり魚ですね。EUの漁業の持続可能性を促進するために、漁業に関するデータを共有しようというプロジェクトなんですよ。
日本だって海洋立国なんだから、我々もFish-Xのようなものを作れるよね、と。

漁業データスペースFish-Xの例を図示。Fish-Xでは、データスペース上に漁業関係者の持て散るデータを集め組み合わせて分析することで、生産物の効率的なトレーサビリティや透明性のあるサプライチェーンを実現しようとしている。

――みんな「-X」がつくのはどうしてですか?

Xがつかないデータスペースのプロジェクトもたくさんあるけど、僕はおそらくXというのは「データをかけあわせる」という意味じゃないかなと。データとデータをかけあわせて新たな発見ができる、そういうかけあわせがいくらでもできるってことかなと思います。

――日本にもデータスペースはあるんですか?

僕が探した日本のデータスペースの事例の1つに、大阪府のスマートシティの例があります。
大阪府はCADDE(ジャッデ)というコネクターを介してデータを連携し、スマートシティを実現しようとしてるんですね。CADDEは国立情報学研究所や日本電気、日立製作所などが参画する内閣府のプロジェクトが研究開発したものです。大阪府のスマートシティ構想は、このCADDEのコネクターを使って、府内にある行政や民間の多様なデータを連携しようとしています。
たとえば、さまざまな組織がもっている防災や交通、気象のデータを組み合わせてデータを利用する、というようなことが想定されます。

日本にはまだデータスペースの事例がほとんどないけれど、APIじゃなくてコネクターでつなげようっていう仕組みはいくつか出てきてますね。

――コネクターがあれば2社間のデータ連携でもデータスペースっていえるということですか?

そうですね。ヨーロッパでも、データスペースプロジェクトとして登録されているものの中に、2社間のものが結構あるんですよ。2社でもそこに協定があって、コネクターという共通の部品を使っていればデータスペースになる。そうすると他の企業にも参加してもらったり、募集したり、拡張できますから。

だから、「データスペース」っていってもそんな難しいことは言ってないんですよ。

日本の人たちは今、ヨーロッパのCatena-Xでルールが作られちゃったから、データをとられちゃうとか、参加するのにいくらかかるのかとか、みんなそこを気にしている状況になってるけど。よそのデータスペースに入ることだけじゃなくて、自分たちでデータスペースを作るとか、データスペースに重要な機能やデータを提供者として食い込んでいくとか、そういうこともできるんじゃないのかと思いますね。

データスペースで私たちはどうなるの?

――「データスペース」が広まると、私たちにとってどんないいことがあるんでしょうか。

データスペースがもたらす便益のイメージ図。データスペースの上ではさまざまな分野をまたぐデータを利用した新たなサービスが生まれ、私たちの仕事や生活が楽になったり、スピードが上がったりする。

データスペースがあれば、その中でデータのルールが統一されて、業界や分野を越えて自由自在にデータの流通ができるようになるわけです。そうすると、そこでいろんなサービスが次々と生まれる。

たとえば「リコメンデーション」ですね。ショッピングサイトの「あなたはこれも買ったほうがいいよ」というのがわかりやすい。これまでは1社がもっているデータの中で「おすすめ」されていたかと思います。

けれど、データスペースにあるデータを使って、しかもAIも利用すれば、企業や分野を越えたデータを組み合わせて「おすすめ」されることになる。つまり、ショッピングみたいな1つの作業だけじゃなく、企業や個人のさまざまな活動に対して「次はこうしてください」と非常にリッチな提案をしてくれるようになるんですね。

つまり、データが自由自在に流通できるようになると、私たちの仕事や生活のありとあらゆるところが楽になったりスピードが上がるわけです。

――日本企業として「データスペース」に対して何かしておくことがありますか?

まだまだ海外でも安定して動いているサービスがあるわけではないから、今すぐコネクターにつなぐための準備をしなきゃいけないかというとそんな状態にはなっていないです。まだウォッチしておく段階かなと。

一方で、たとえば製造業ですごいコアテクノロジーを持っているとか、世界のネットワークサービスにおける重要なテクノロジーを持っている企業は、早めに着手して、先導的ゲームメーカーのポジションを取りにいくのがいいかもしれない。

でも、多くの企業にとっては、今すぐデータスペースに対して何かアクションが必要かというと、そんなことはないです。
ただ、今後のデータスペースに備えるという点でいうと、社内で「データの標準化」をしておくのがいいですね。データをきれいに揃えておくことで、いざデータスペースができたときに、コンセント(コネクター)につなぎさえすればすぐに乗ることができます。

政府もデータ流通に関してさまざまな取り組みを進めています。業界でもデータ標準化の動きがあるでしょう。そういった動きを見ながら、このデータ社会で自社がどうあるべきかということをきちんと考えて、身ぎれいにしておくことが重要だと思います。

まとめ

平本健二近影

現在、IPAのデジタル基盤センターでは、日本におけるデータスペースを推進していくため、データスペースの全体整理や推進、データの標準化、利活用の促進、AIの活用、品質確保などの取り組みに向け、活動しています。

「データスペース」が身近な言葉になるには、まだ少し時間がかかるかもしれません。

しかし、データをめぐる世界は確実に変化しており、国や業界を越えてデータが流通する世界は必ずやってきます。まずは、みなさんの会社にあるデータをきれいにして、新しいデータ流通の時代に備えましょう。


データスペースについてもっとくわしく知りたい方は、IPAのデータスペース入門資料もぜひご覧ください。
IPAウェブサイト「データスペースの推進」ページ

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