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ビジネスアーキテクトで現場と事業を変革。 DSSを活用したファミリーマート人財戦略

DX事例

株式会社ファミリーマートは、国内外で約2万4,000店舗を運営する大手コンビニエンスストアチェーンです。同社は、デジタルサイネージ「FamilyMartVision」や決済・会員アプリ「ファミペイ」、無人決済店舗の展開など、店舗・メディア・アプリを貫くDX施策を進めてきました。「コンビニ事業はシステム産業」という認識のもと、デジタルを通じたさらなる価値提供を求め、2023年度からはデジタル人財育成にも本格着手。2024年度にはデジタルスキル標準(DSS)を踏まえて育成体系を再設計し、「ビジネスアーキテクト」「データ活用人財」「システム開発推進人財」を定義しました。全社員のリテラシー底上げを起点として、中級・上級まで段階的に育成レベルを引き上げる同社の挑戦を担当者へのインタビューからひもときます。

実店舗とデジタルの組み合わせで事業の可能性を拡大

──貴社の事業について教えてください。

管理本部 人財開発部 部長 大石卓也氏(以下、大石):当社はコンビニエンスストア事業を展開しているフランチャイズ本部の会社です。店舗数は国内に約1万6,000店、海外が約8,000店で、国内を管轄する当社の従業員は約5,000人います。国内店舗の来客数は1日あたり約1,500万人に上ります。

──お店を利用すると、デジタル化が進んでいる印象を受けます。

大石:国内1万店舗以上に設置したレジ上部のデジタルサイネージ「FamilyMartVision」は、日々の購買体験に直結するメディアとなっています。また、公式アプリ「ファミペイ」も多くのお客様にご利用いただいています。クーポン配信と決済を組み合わせて、お買い物の楽しさとお得感を感じていただけるのではないでしょうか。このほか、無人決済店舗も駅や郵便局、工場などを中心に現在30~40店を展開しています。リアル店舗とデジタル施策の両方を組み合わせ、事業の可能性を広げていくことが当社の大きなテーマになっています。

管理本部 人財開発部 部長 大石卓也氏

多くの社員が「システムを使うが、作り方はわからない」

――デジタル化を推進しながら、改めてIT・デジタル人財育成に踏み出した背景を教えてください。

大石:近年、他業態やeコマースとの競争が激しくなり、業界全体で店舗数は横ばいが続いています。そのなかでデジタルを活用して新たな価値を生み出すことが経営テーマとなったことから、2022年度から3年間、「デジタルの最適活用」を1つの柱に据えて取り組んできました。

当社の社長(細見研介氏)は、「コンビニエンスストア事業はシステム産業である」と述べています。食材の発注・調達から製造、物流、店舗販売に至るまで、全店舗の日々の業務の根幹をシステムが支えているということです。一方、社内でシステムに精通しているのは一部のシステム本部のメンバーだけで、ほかの本部では「使ってはいるが、作り方はわからない」というのが実情でした。

──そこで人財育成に着手されたわけですね。

大石:はい。まず2023年度に2つの施策を始めました。1つは「システム開発推進人財」の育成です。商品開発、人事、営業など各部署から6名を選抜し、1年間システム本部に社内留学。OJTで要件定義やプロジェクトの進め方を学んでもらい、元の部署に戻ってからはシステム部との橋渡し役を担ってもらう計画です。

もう1つはハンズオン中心の「データ活用研修」。当社には膨大なデータがあるのに、十分に活かし切れていないという課題感がありました。そこで、統計手法やExcel、Pythonなどスキル獲得の場を設けたのです。

同部 社員教育・DX人財育成支援グループ マネジャー 佐藤義則氏(以下、佐藤):データ活用研修は希望者を対象とするのが基本ですが、「データを扱う機会が多いはず」と見立てた部門にも人事から声をかけました。2023年度は40名が本社で受講。地域スタッフや一部のスーパーバイザーも参加し、部門横断で育成をスタートしました。

管理本部 人財開発部 社員教育・DX人財育成支援グループ マネジャー(兼)人事部 人事マネジメントグループ 佐藤義則氏

変革人財を増やす。その目的に合致したのがDSSだった

──2023年度の取り組みを踏まえ、どのような課題が出てきたのでしょうか。

大石:2つの研修は確かに有効でしたが、スキルを身につけて終わりにならないか、業務で本当に活かせているかが課題でした。DXで大事なのは「X」、つまり実際のトランスフォーメーションを起こせる人財を増やすこと。その目的に照らして、育成プログラムをさらに見直すことにしました。そこで注目したのがデジタルスキル標準(DSS)だったのです。

──DSSを知ったきっかけや評価した点を教えてください。

佐藤:デジタル人財育成の参考資料を探すなかでDSSを見つけました。最初はボリュームの大きさに圧倒されましたが、全社員向けのリテラシーと専門ロール教育を段階的に積み上げる考え方、目指すべき人財像から逆算する設計がとても腑に落ちました。デジタル人財育成に関わる多くの専門家が準拠していることも信頼に結び付きましたね。

大石:DSSでとくに私たちが注目したのはビジネスアーキテクトです。ビジネスアーキテクトの定義を精読するなかで、私たちの課題は社内業務の高度化を牽引できる人財を増やすことだと気づかされました。さらに、そうした人財にはデジタルの知識やスキルだけでなく、問題解決力やビジネス知識も不可欠という内容も非常に響くものでした。

佐藤:DSSを参照し、当社のレベル感に合わせて既存のデジタル人財像も描き直しました。データ活用はスキル偏重ではなく、論理思考を含む問題解決力をセットで教える設計に修正。システム開発推進人財も要件定義の力だけでは不十分と気づき、DSSをもとにシステム開発やエンジニア知識などを加えて再設計しました。

「初級」から選抜し、「中級」「上級」へとステップアップ

──2024年度からの新たな育成体系について教えてください。

大石:DSSをベースに、「ビジネスアーキテクト」「データ活用人財」「システム開発推進人財」という3つの人財像を定義しました。ビジネスアーキテクトは社内業務を高度化する中核的存在。データ活用人財は自部署でデータの効果的な活用を実行し、システム開発推進人財は現場とシステム本部の橋渡し役となって自部署のシステム開発のマネジメントを担います。

佐藤:育成は段階的に行い、デジタル化対象となる全社員が該当する「初級」、そのなかから選抜されたビジネスアーキテクトのロール適合度が高い社員(上位600名)から成る「中級」、そこからさらに選抜した社員を「上級」と位置づけて、年間20名をビジネスアーキテクトとして集中的に育成。年間20名ずつビジネスアーキテクトを輩出する計画です。

データ活用人財は本人の希望とリクルートを併用し、DSSのスキル基準で課題設定から業務改善ツールの開発・実装・発表までをプログラムに組み込み、実務に繋がる内容に刷新しました。システム開発推進人財については、2023年度に始めた社内留学スキームを継続・強化しています。


──各段階の育成内容を教えてください。

佐藤:初級は全社員対象のeラーニングとアセスメントをセットで実施し、ロール適合度を把握します。中級もeラーニングとアセスメントで学びを深めますが、難易度が上がり内容も深化。ビジネスアーキテクトに必要な知識を養う「DX推進リテラシー研修」のほか、4週(全8日間)にわたって行う「BX(ビジネストランスフォーメーション)リテラシー研修」では地方からの受講者も対象に、データの効果的な活用に向けた基礎知識やスキルの習得を促しています。また、上級でデータ活用人財を目指す社員には、前述のプログラムのなかにITパスポート(iパス)の取得も求め、リテラシーの底上げを図っています。

ファミリーマートのDX人財育成プログラムと育成施策

上司が受講者のメンターとなり、改革の風土を作る

──最終選抜で残った20名に施されるビジネスアーキテクトの育成は、まさに改革リーダーに向けた仕上げですね。

大石:おっしゃるとおりです。学びを実践につなげるため、デジタルを活用した事業変革プランを実際に立案・実行していきます。プロジェクトマネジメントを中心に受講者自身が職場課題を設定。関係部門へヒアリングし、データで裏付け、解決策を設計して提案書にまとめ、経営層へプレゼンするという流れです。

このとき、商品開発、店舗開発、営業、人事など、部署をまたいで4名単位でチームを編成し、課題に取り組みます。事業の横串を刺し、合意形成しながら1つの提案を練り上げる経験は、実務変革に必要な力そのもの。実際、稟議決裁システムの効率化を提案したチームは主管本部と協議を重ね、全社的なシステム見直しに繋がりました。

──受講者の直属の上司や現場の理解も欠かせませんね。

大石:はい。ビジネスアーキテクト育成では事前に上司向け説明会を行って研修の目的を共有し、出張や業務調整への理解を得ています。上司には受講者のメンター役や提案内容の壁打ち相手を務めてもらうほか、最終プレゼンにも同席してもらい、職場でのなめらかな実装を目指しています。データ活用研修でも、「自分の業務をこう改善したい」というテーマで最終発表を行い、上司の理解と後押しを得るようにしています。

──受講者のモチベーションはどうでしょうか。

佐藤:高く維持されています。その背景にあるのが、本人の決意を重視していること。選抜では上位者に「上のクラスに挑戦しますか」と意思確認をし、エントリーシートと課題提出を求めています。選抜が進むにつれて自信や自覚が深まることもモチベーションの源泉になっているようです。

DSSは全社的な合意形成の共通言語としても有効

──DSSの活用で、どのような効果や変化が見えてきましたか。

大石:定量的なKPIで胸を張れる段階ではありませんが、トランスフォーメーションに挑む人財は着実に増えています。前述した稟議システムの改善のように、研修のアウトプットが実際の全社プロジェクトに結び付く事例も出てきました。縦割りの本部間を横断して合意形成し、変革を動かせる人が育っている実感があります。

佐藤:もう1つは人財発掘です。全国に散らばる社員のうち、DXに関心と適性を持つ人がどこにいるのか、これまで可視化されていませんでした。eラーニングとアセスメントを全社で実施したことで、地域に埋もれていた人財に光が当たり、上級や専門プログラムに引き上げやすくなったのはメリットです。上級に上がったものの最終的にビジネスアーキテクトまで届かなかった人財も貴重な戦力としてプールし、研修情報を伝えるなどして次の機会につなげるようにしています。

──今後の計画と、DSSへの期待を教えてください。

佐藤:2024年度に再構成した体系で3ヵ年の計画を回しています。現在はその2年目で、来年度(2026年度)までに各層で必要人数を育成することがひとまずの目標です。AIなどのテーマについても、DSSのスキル定義を見ながらさらに効果的にカリキュラムへ反映していけたらと考えています。

大石:育成後に力を発揮できる配置・配属や人事制度との連携も今後のテーマ。せっかく身につけたスキルですから、現場で価値を発揮し続けてもらえるよう、ふさわしい職場への配属につなげていきます。

──これからデジタル人財育成に取り組む企業へのメッセージをお願いします。

大石:重要なのは、育成を研修で終わらせず、実務へ反映させることでしょう。現場の課題解決を視野に、上司をメンターとして巻き込むことを私たちは重視していますが、DSSはそのための共通言語としても有効です。人財像から逆算して育成計画を立てると、全社で合意形成しやすくなると思います。

佐藤:職場課題の解決と上司の支援を結び付けて社員の自信を育むこと、そしてハンズオンとビジネススキルをセットで教えること――この2つがポイントではないでしょうか。DSSは目指す人財像と勝ち筋を具体化してくれます。私たちもDSSを土台に、自社ならではのDX人財像を描き、現場で変革を起こせる人を1人ずつ増やしていきたいと思っています。

※掲載内容は2025年10月取材時のものです。


取材協力

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