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データとAIで進化する長野テクトロン ITコーディネータと描くDXへのステップとは

DX事例

長野県長野市に拠点を置き、メンブレンスイッチやカスタムキーボードなど入力装置の設計製造を行っている長野テクトロンでは、着実にDX推進の効果が表れ始めています。

同社は2023年7月、経済産業省が認定する「DX認定事業者」に認定されました。また、2024年のITコーディネータ協会表彰では、伴走支援を行った長野県ITコーディネータ協議会とともに、国のDX認定取得に取り組んだ企業として、独立行政法人情報処理推進機構賞を受賞しています。

DX推進のきっかけや成功の秘訣、これからDXを進める企業へのアドバイスについて、同社の代表取締役である柳澤 由英氏と、伴走支援を担当したITコーディネータの赤堀 明氏にお話をお聞きしました。

まずはセキュリティアクションから DXへの着実なステップアップ

―― DX推進のきっかけを教えてください。

長野テクトロン代表取締役社長 柳澤 由英氏(以下、柳澤):当社は、メンブレンスイッチと呼ばれる薄型のフィルムスイッチや、カスタムキーボードなどの入力装置を小ロット多品種で設計製造しています。商品管理が煩雑なため、まずは商品管理を含めて効率化したいという思いがありました。

また、近年はフィルムスイッチやキーボードなどのアナログな機器以外に、タッチパネルパソコンやディスプレイモジュールなどの需要も高まっており、商材はどんどん変化しています。こうした変化に対応していくためにもDXは必要不可欠であると考えました。

しかし、当社はDXと言う前に、セキュリティの強化やデジタル化などやるべきことがたくさんありました。そこで、まずはセキュリティからということで、長野県ITコーディネータ協議会に相談したのです。取り組みの第一歩として、セキュリティアクションの自己宣言から始めました。

長野テクトロン代表取締役社長 柳澤 由英氏

―― セキュリティアクションから始まって、DX認定事業者にも認定されていますね。DX認定を取得したことで、社内外で変化はありましたか?

柳澤:DX認定は、長野県内では3番目、長野市内では1番最初に取得しています。やはり、社内意識はすごく高まりましたね。「社長が本気になっているな」というのが、社員にも伝わったように感じました。
DX認定を取得するためには、DXを推進するための体制や行動計画をきちんと作成する必要があります。これらは、これからDXを推進するうえで役に立つものですし、社内外へ向けたPRにもなりますよね。

DX推進の支援体制(長野テクトロン様提供資料)

―― 社内のDXプロジェクトの体制はどのように決めたのですか?

柳澤:体制についてはITコーディネータの赤堀さんに色々と相談しながら、DXの推進計画に基づいて構築しました。当社には、営業、開発、製造、管理の4つの部署があります。それを全部横串の横断にして、私の直下にDXプロジェクト推進チームを作りました。各部署の責任者をそれぞれアサインしています。

一般の社員まで巻き込むかたちが理想ではあるのですが、まずは部門の責任者に入ってもらって、私が旗振り役を担いながら、DXを推進していきました。私や部門のトップがDXに本気で取り組んでいるところを一般社員にも知ってもらいたいというねらいもありました。やはり、全社員を巻き込んでいくということころが、DXを推進するうえで一番の課題だったように感じます。

―― 社外の体制としては、長野県ITコーディネータ協議会様が伴走支援を行ったのですね。

長野県ITコーディネータ協議会 赤堀 明氏(以下、赤堀):長野県のITコーディネータとして、長野テクトロンさんの伴走支援を行いました。まずは、長野テクトロンさんが自走できるようにするのを目指して、こちらからアドバイスを行いながら活動していきました。

私どものようなITコーディネータの他には、取引先銀行のひとつである八十二銀行さんの担当者も会議に同席して、金融機関の立場から色々とアドバイスをいただきました。
現在、八十二銀行さんは、各企業のDXやIT化に積極的に関与しながら、一緒に課題を解決していこうという体制になっています。金融機関として様々な企業のDXやITに関する事例をご存知ですので、その知見を活かしてもらいながら、一緒に提案を行いました。

長野県ITコーディネータ協議会 赤堀 明氏

全社横断的なデータ活用を実現 AI活用も積極的に

―― 現在はどのようなDXの取り組みを行っているのですか?

柳澤:1つは、案件管理システムを構築し、20%の業務効率化を達成しました。
以前は、顧客との商談の場で、営業が商品の素材や構造などの仕様を決めていました。そこで決まった仕様を、開発や製造にインプットしていくようなフローだったのですが、開発の方では「もっとこうした仕様のほうが効率的」、「コスト削減できる」などの意見も出てきます。それをリアルタイムで生かしきれていませんでした。

また、営業は大量にある商品の構造などを理解していなくてはならないため、高いスキルが求められます。営業の提案ノウハウが特殊なため、一から人材を育成することもなかなか困難でした。

そこで、案件管理システムを構築し、営業・管理・開発・製造のもつデータを連携、クラウド化しました。営業が案件情報をシステム上に登録すると、開発・製造にも情報が共有されます。開発や製造のノウハウと照合し、AIによって最適な仕様提案や見積提案も可能となりました。案件管理システム(長野テクトロン様提供資料)

柳澤:2つめは、AI検査装置の導入です。
キーボード製造における検査では、キートップの文字のかすれや傷などを人が目視で判断する検査工程があります。ここに、しきい値や検査基準を学習できるAI検査装置を導入することで、30%の効率化を達成しました。今後は、検査のNG傾向のデータを製造にも反映させ、不良品を未然に防ぐような仕組みも検討しています。

3つめは、自社製品サービスの新規開発です。具体的には、スマートフォンと連動した事前感知型の車いす用チェアセンサーを開発しています。
当社ではもともと離床センサーの製造を行っております。離床センサーとは、介護施設や病院などで使用されているベッドや車椅子からの転落・転倒を予防、徘徊を防ぐための装置です。

今までは完全に荷重が離れるとアラームがなるような仕組みだけでしたが、せん断荷重(横方向)センサーを用いることによって、ずり落ちや立ち上がり前の兆候をとらえ、介護者のスマートフォンへアラームを送信することができるようになります。車いすからの転落を事前に防ぐことができますし、長時間同じ姿勢の利用者を検知することも可能ですので、褥瘡(じょくそう)の予防にもなります。
こちらは、2025年中の製品化を目指しています。

スマートフォンと連動した事前感知型車いす用チェアセンサー(長野テクトロン様提供資料)

―― どの取り組みにも積極的にデータを活用しているのですね。

柳澤:今までは、営業から開発、製造さまざまな部署が個々にデータを収集していました。そういう点でいうと、データの重要性はどの部署もある程度理解していたと思います。
ただ、他の部署とデータを共有化して、全社一体のデータ活用というものができていませんでした。そこで、ITコーディネータの赤堀さんに相談しながら、どういったデータを組み合わせればよいのかなど、活用を検討してきました。

―― DXの取り組みに対して、社内の反応はいかがでしたか?

柳澤:最初は、やはり反発がありました。私一人が言い出したところで、「じゃあ具体的に何をやるんだ?」と、周囲との温度差がありましたね。
ITコーディネータの赤堀さんに間に入ってもらいながら、DXの行動計画や体制を作って、まずは部門の責任者、次に一般社員と、徐々にDXの重要性を理解してもらいました。

現場としても、案件管理システムやAI検査装置を導入したことで、「DXで便利になったよね」といような雰囲気が定着してきました。「もっとこういうふうにやれば効率化できる」「こんなふうに改良できる」などのアイディアが、現場からどんどん生まれています。作って終わり、導入して終わりではなく、改善の良い連鎖が生まれていると実感しています。

―― 成功に結び付いた理由はどこにあるとお考えでしょうか?

柳澤:やはり、全社を巻き込んで根気よくDXを推進したところだと思います。DXは、社長一人だけではできませんから。
あとは、最初は全くDXでもない、目の前のセキュリティから始めたことも良かったと思います。徐々にデジタル化、DXへと着実にステップアップできました。アナログデータをデジタルデータに変換したり、どういうデータが必要なのか検討したり、最初から自分たちで着実に取り組んだからこそ、目に見えるかたちで効率化が実現できて、やはり取り組んで良かったと実感しています。

経営層がDXを先導し、周りを巻き込む

―― これからDXに向けて動き出す方へアドバイスをお願いします。

柳澤:DXを始めるにあたって、伴走支援は非常に効果的だと思います。やはり社内で社長が急にDXを始めるよりも、伴走支援の機関に入ってもらって、綿密に計画を練るほうが社内での説得力も増します。社内での説明会にも一緒に立ち会ってもらって、DXの目的や重要性を説きながら徐々に理解していってもらうことが大切ですよね。
いきなりDXというとハードルが高いので、まずは目の前のセキュリティやデジタル化から堅実に取り組んで、最終的にDXを目指すかたちが理想的ではないでしょうか。

赤堀:今回長野テクトロンさんが一番良かったのは、社長が本気になって取り組んだことだと思います。
変化を恐れずにチャレンジすることが重要です。DXの“X”、変革の部分ですね。長野テクトロンさんの社内風土として、この“X”が脈々と受け継がれているように感じます。
社内のビジョンが明確になっていると、さらにビジョンがミッションを明確にして、どんどん進化していくことができるのではないかと思います。

【取材協力】

長野テクトロン株式会社

特定非営利法人長野県ITコーディネータ協議会

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