五島うどんのブランドを未来へつなぐ 浜崎製麺所と十八親和銀行のDX
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「地域企業の成長が、銀行の成長にもつながる。総合取引の一環として企業のデジタル化・DX支援に取り組んでいます」と株式会社十八親和銀行のITコーディネータである横尾 真樹氏は語ります。
同社が支援する有限会社浜崎製麺所は2024年7月、経済産業省が認定する「DX認定事業者」に認定されました。また、2024年のITコーディネータ協会表彰では、伴走支援を行った十八親和銀行のITコーディネータとともに、国のDX認定取得に取り組んだ企業として、経済産業省 商務情報政策局長賞を受賞しています。
情報システム部などもない、長崎県五島列島にある製麺所。そんな同社が、どのようにしてDXを成し遂げたのか。浜崎製麺所の代表取締役、浜崎 祥雄氏と、伴走支援として共に奔走した十八親和銀行のITコーディネータ、横尾 真樹氏にお話をお聞きしました。
地域企業の成長が銀行の成長 総合取引の一環として企業のデジタル化・DXを支援
―― DX推進のきっかけを教えてください。
浜崎製麺所 代表取締役 浜崎 祥雄氏(以下、浜崎):浜崎製麺所で作っている五島うどんには、乾燥工程があります。この乾燥工程は、先代の社長が一人で担当していました。2、3時間ごとに空調機の調整を行いながら麺のチェックをしなくてはなりません。五島うどんは乾麺なので、この乾燥工程で失敗してしまうと売り物にならず、神経をつかう工程です。
また、乾燥工程の様々な調整は、先代の経験と勘によるものです。天気や風向きによって調整が微妙に異なることもあります。作業が属人化しているので、他の社員が代わりに行うこともできませんでした。とにかく先代の負荷が大きく、眠ることもできない。このような状況をなんとかできないかと、先代から取引先銀行である十八親和銀行に相談したのがきっかけです。
浜崎製麺所 代表取締役 浜崎 祥雄氏
―― 銀行がデジタル化・DXの支援しているのですね。
十八親和銀行 デジタル化推進部 主任調査役 横尾真樹氏(以下、横尾):銀行の企業への関わり方というと、資金調達や融資などの金融面での関わりを想像される方も多いと思います。当行では、金融面以外でも地元企業の経営支援を行うため、2019年に中小企業のデジタル化・DX支援を行う専門部署を立ち上げました。
銀行員である我々がお客様のデジタル化を支援するためには、体系的な知識が必要となります。そのため、メンバー全員がITコーディネータの資格を取得しました。十八親和銀行としてのデジタル化支援の取り組みは2024年で5周年を迎え、相談件数は1800件を超えています。
また、銀行内にとどまらず、県内のITコーディネータや行政、商工会議所、ITベンダを集めて、実案件の事例報告や、DX認定等の勉強会も定期的に開催しています。
我々は地方の金融機関ですので、取引先である企業の成長が、我々の成長にもつながります。また、その逆もしかりです。デジタル化・DXの支援は、総合取引の一環という意識で取り組んでいます。
十八親和銀行 横尾 真樹氏
―― 銀行として企業のDX支援を進める上でぶつかった課題はありますか?
横尾:やはり、金融面での支援は銀行の本業なのでノウハウがあるのですが、業務面での支援というと企業ごとに全く異なる面が多くて大変ですね。10社あれば10社のやり方が異なります。その中でお客様にとって何が最善かということを考えなくてはなりません。
デジタル化という手段だけではなく、その前段階にある目的や目標が重要です。その辺りも踏まえてお客様に必要なものを整理していくところが課題です。
職人の経験と勘を見える化 安価な費用で自動化へ
五島うどんの乾燥工程(浜崎製麺所様提供資料)
―― 具体的なDXの取り組みを教えてください。
横尾:冒頭でも少し話が出た、五島うどんの乾燥工程の自動化です。補助事業を活用して、地元のITベンダと協議しながら進めていきました。気密性を上げれば空調管理も楽になるので、それこそ最初は、建物を建て替えるようなイメージの話もありました。しかし、そうなると多額のお金がかかってしまいます。
そこは費用面で難しいので、ベンダを交えてどうしようかと色々と議論をしているうちに、まずは温度と湿度の管理を先代がどのように行っているのか知ることが先ではないか、という話が出たんですね。先代がどのような気温・湿度でどのような行動をしているのかセンサーを用いて可視化しようというところから始めました。経験と勘の見える化ですね。
次はIoT機器を使って、遠隔でも操作できるようにしました。安価なカメラやスイッチボットなど、簡単に導入できるものを使っています。
先代の行動をデータとして貯めていって、それをもとにしてIoT機器のスケジューリング機能で自動化していきました。ただ、急激に湿度を下げると麺が乾燥して割れてしまうので、そこの加減は試行錯誤中です。
また、今回の取り組みで培ったノウハウを、同じような課題を持っている地元の同業者にも展開していければと思っています。
社長や従業員の皆さんの話を聞いているうちに、その他にも様々な業務課題が顕在化してきました。
ちょうど社長が代替わりしたタイミングでしたので、経営ビジョンの明確化と課題解決のロードマップを策定することの重要性を説明し、戦略策定支援を行い、DX認定取得に向けた支援も行っていました。
スイッチボットを取り付け(浜崎製麺所様提供資料)
―― どのようなモチベーションでDXを進めてきたのでしょうか?
浜崎:DXの取り組みを始めた先代の思いを代弁すると、やはり後継者に後を継いでもらうためには、今までの状態は作業の負担が大きすぎます。乾燥工程を改善して作業を楽にするというのは、喫緊の課題でした。五島うどんというブランドを引き継いでいくためにも、時間はかかるけれどやってみようという思いでした。
今回、外部の伴走支援をうまく活用したことが成功につながったと思います。十八親和銀行の横尾さんに助言いただいたり、よりITに詳しい方を紹介いただいたり、色々な方と繋いでもらったことで、私たちだけでは考えられなかったアイディアが出てきました。
横尾:例えば、企業からITベンダに直接相談するときに、意図がうまく伝わらなかったりすることは多々ありますよね。そういった場合に、我々がワンクッション置いて、お客様の意図を汲んで噛み砕きながらベンダに伝えることで、お互いの認識の齟齬が発生せずにうまく整理ができるのかなと思います。
まずはDXの目的を明確に 伴走支援もうまく活用
―― これからDXに向けて動き出す方へアドバイスをお願いします。
横尾:経済産業省とIPAが自社を見つめなおすためのツール(DX推進指標)を提供しているので、そこでまずは自社の立ち位置や、やりたいこと、やるべきことを整理するところから始めるのがいいんじゃないかと思います。
というのも、ツールを導入することだけに意識が向いて、導入自体が目的になってしまうケースが多く見られます。本当は生産性の向上が最終的な目的なのに、ツールを導入したところで満足してしまって、結果的にうまくいかなかったときに、「あれ?なんでこれを入れたんだっけ…?」と。
そうならないためにも、やはり何のためにデジタルを活用するのか、最終的にどうなりたいのか、という整理のもとにDXを推進していくことが必要だと思います。
浜崎:最初は、「DXって何?」というところからスタートしました。何から始めればいいのか全然分からなくて。
私たちだけでは、ロボットを導入するとかそういった簡単なことしか思いつかないところで、横尾さんに色々と助言をいただきました。「なるほど、そういうこともできるのか」「こういうことがDXなのか」と改めて勉強になりました。先ほども少し述べましたが、自社だけで考えるのが難しい場合は、伴走支援をうまく活用するのもひとつの手だと思います。
また、私たちは人手不足の問題もありましたので、いかにDXで自社を強くできるかという信念を持って進めてきました。そういったことを一緒に考えられるパートナーを見つけて、DXを推進することが成功にもつながるのだと思います。
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