デジタルを共通言語に社内外のつながりを強化 大成建設の「DXアカデミー」とは?
人材育成 DX事例2021年度に策定した「TAISEI VISION 2030」の第2フェーズである「中期経営計画(2024-2026)を推進中の大成建設。中長期の外部環境・構造変化に対応していく上で、DXにおいては「全社横断的な推進体制、変革のスピードアップ、デジタル人財の確保」が必要だとしています。
そこで、2023年10月に「デジタルスキル標準(DSS)」を活用して設計したトレーニングプログラム「DXアカデミー」を開講するなど、デジタル人財の裾野が着実に広がっています。2024年4月より建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、デジタルを使った生産性の向上、そして既存事業の強化や新規事業の創出は急務。DX戦略部の皆さんは「DX:デジタルを活用した変革は事業部門、そして社員一人ひとりが自ら進めるべきものという意識へと変わりつつあります」と手応えを語ります。
デジタル人財育成の基盤として「DXアカデミー」を開講
──どのような目標、体制の下でDXを進めていますか。
野村淳DX戦略部長(以下:野村):当社が中長期的に目指す姿として2021年度に策定した「TAISEI VISION 2030」は、その達成に向けた中期経営計画(2021-2023)を経て、現在第2フェーズの中期経営計画(2024-2026)が進行中です。
グループ国内建築事業、グループ国内土木事業、グループ国内開発事業、グループエンジニアリング事業、グループ海外事業の5つのセグメントにおける変革を実現する上で、欠かせないツールとしてDXを位置付けています。全事業の中心にはあらゆるデータを集約する統合プラットフォームを置き、「デジタルを共通言語」として事業領域、職種の枠を超えてつながり、さらにお客さま、パートナー、社会ともつながることで新しい価値を創出、提供します。スローガンとして掲げる「Transformation with Digital」は、あくまでも事業の変革という目的が先にあり、デジタルを使ってそれを成し遂げるという想いを表現したものです。
デジタルガバナンス・コードに準拠した推進体制を整えていく中で、2024年1月に「DX戦略部」を設置しました。本務16名、経営企画部、情報企画部、各事業部門などの兼務者21名で、全社横断的にDXに取り組んでいるところです。
──そこで大きな役割を果たすのがトレーニングプログラム「DXアカデミー」ですね。
島田裕司DX戦略部デジタル人財戦略室長(以下:島田):デジタル人財育成の基盤として2023年10月に「DXアカデミー」を開講しました。「DXアカデミー」の立ち上げ準備の段階では、実践的なプロジェクトを通じた高度なデジタル人財の育成をイメージしていました。ただ、メンター(指導者)や講師がなかなか確保できず、また2024年度の時間外労働の上限規制が迫る中で繁忙度が高まっていることもあり、各事業部門としても人をアカデミーに送り込むのは難しい状況でした。
実際、各所から「まずはデジタルの基礎的なことをしっかりと教えてほしい」という要望が寄せられ、DXの必要性を理解するマインドの醸成、リテラシーの向上が必要だと感じました。また、当初われわれがデジタル人財として想定したビジネスデザイナー、DXプロジェクトマネージャーという人財類型についても、要件をどう定義づけたらよいのか決めあぐねていました。われわれとしては何らかの基準となる「ものさし」を求めていたタイミングで2022年12月に「DSS」が公開され、これを基にしてアカデミーの設計を方向転換することができました。
当社がまずターゲットとしたのは、「DX推進スキル標準(DSS-P)」の5類型のうち「ビジネスアーキテクト」と「データサイエンティスト」の人財です。アカデミーのレベル体系としては、まずWhy(DXの背景)やWhat(DXで活用されるデータ・技術)を認識できる「デジタルリテラシー獲得者」、次にデジタルの積極的な活用で身の回りの業務改善・向上を実行できる「デジタル積極活用者」、そして事業や文化の変革をリードできる「DX牽引者」という3段階を設定しています。
DSSを指針に「DXベーシックコース」を開発、社内でも高評価
──プログラムの作り込みに当たって、どのような点に注力しましたか。
DX戦略部デジタル人財戦略室ビジネスアーキテクト中村紗和子氏(以下、中村):繁忙度が高いことも踏まえて、いかにプログラムの受講時間をコンパクトにまとめ、かつ建設業の社員として最低限知っておいてほしい知識を身に付けてもらうものにするか苦心しました。全社員が受講必須である「デジタルリテラシー獲得レベル」の「DXベーシックコース」は、当社が新規で開発したオリジナルコンテンツです。本当に必要と思われる要素に絞り込み、合計で3時間程度に収めています。どのようなエッセンスを入れたらいいのか、どんな見せ方をしたら当社が目指すDXへの理解やマインドの醸成につながるのかなどを、さまざまな社内の取り組みを収集した上で、DSSを指針として企画していきました。
DSS公開前の段階では、当社のDX人財像や求められるスキルの定義について「ITスキル標準(ITSS)」や「情報システムユーザースキル標準(UISS)」のほか、他社の取り組みを参考に、現在のDSS-Pのようなスキル標準を自分たちで一から積み上げていました。試行錯誤を繰り返していた中でDSSが公開され、明確な指標を参考にすることができたため、そこから「DXアカデミー」の検討スピードが加速しました。
島田:社内の反応としては、非常にポジティブです。普段の業務をどう改善しようかと悩んでいたり、隣の部署でどんなことをしているのかが見えづらかったりする中で、全社員に向けた「DXアカデミー」の受講を通じて、「自分の会社がどんなことをやっているのか分かってよかった」といった声を多くいただきました。
新たな人材獲得における重要な「基準」にも
──今後の「DSS」の活用や、取り組みの発展について、どんなイメージをお持ちでしょうか。
野村:引き続き育成での活用はもちろん、採用活動でも取り入れていけたらと考えています。建築でデジタル人財を採りたい、土木で採りたいなど採用の入り口が一つではなく、まだ「大成建設におけるデジタル人財の基準」はありません。業務におけるテクノロジーの重要性が飛躍的に高まる中で、採用レベルの基準となるものを、われわれDX戦略部がつくっていかなければならないとも考えています。それをどう運用するかを考えていく上で、DSSという「ものさし」の存在はとても重要だと捉えています。
また、これから育成していくビジネスアーキテクト、データサイエンティストを、当社が社会で果たしていくべき役割、生み出していく事業とより強く結びつけていくことが不可欠だと思います。育成したら「何かできるだろう」ではなく、目的を設定してDX人財を活かしていくことを引き続き考えていきたいと思います。
島田:デジタル人財としての自分のスキルを客観的に把握してもらうための取り組みとして、年に一度、アセスメントを行っています。全社や自部署における相対的な成績や評価の経年推移をグラフで分かりやすく見せることで、学ぶ意欲を高めることを目指しています。受講状況の画面にコース修了バッジが発行されますので、取得状況を基に「次はこれを受講してみては」といったレコメンド機能や、業務遂行の要件として設定することなども検討中です。
中村:「DXアカデミー」が始動する際に印象的だったのは、ビジネスアーキテクトについて、当社の人財研修センター長から「まさに事務社員に必要な素養」だと共感してもらったことです。そこで2024年度は、年次ごとの同期入社の事務社員が集まる研修において6年次、7年次を対象に「デジタル積極活用者レベル」のプログラムを導入しました。データの活用やデザイン思考の集合研修を実施し、インプットしたものを各自が持ち帰って現場で実践し、2カ月後には「身に付けたものをどう役立てたのか」を報告するアウトプットのための研修も行いました。このように、現場の課題をもとにした実践的なアプローチにもDSSの活用が広がっています。
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