DX推進指標がWeb化、すぐ結果がわかるように──「点数が目的ではない」効果的な使い方とは
DXとは
DXに取り組みたいものの、何から手をつけるべきかわからない――。そんな企業が自社の状況を把握し、次の行動を考えるための自己診断ツールが、経済産業省と情報処理推進機構(IPA)が提供する「DX推進指標」です。
2026年4月には設問と成熟度レベルが改訂され、8月には自己診断フォーマットのWebフォーム化が発表されました。これまで年2回、IPAからの提供を待つ必要があったベンチマークデータは、Webからレポート形式で速やかに確認できるようになり、利便性がぐっと向上します。
IPAで企業のDX、AXを担当する山周平氏に、Webフォームへの移行とDX推進指標の効果的な活用方法についてお話を伺いました。
審査ではなく自己診断。DX推進指標でわかること
── そもそも、DX推進指標とはどのようなものなのでしょうか。
IPA デジタル&AIシステムズ・デザインセンター デジタルトランスフォーメーション部 エキスパート 山周平氏
IPA デジタル&AIシステムズ・デザインセンター デジタルトランスフォーメーション部 エキスパート 山周平氏(以下、山):DX推進指標とは、自社のDXの状況を把握・評価するための自己診断ツールです。
企業DXについては、まず「デジタルガバナンス・コード」という、国が定めた教科書的な位置付けのものがあり、それを土台として「DX推進指標」、そしてDXの準備が整っている企業を国が認定する「DX認定」、コードに沿った取り組みを通じて優れた成果を創出している企業を選定する「DXセレクション」や「DX銘柄」などが紐づいています。
DX推進指標は35の設問が用意されており、現在の状態と3年後に目標とする状態を、レベル0から5までの6段階で回答します。
DX推進指標の位置づけ(「DX推進指標」のガイダンスより)
── DX推進指標の結果は、何かの評価や審査に使われるのでしょうか。
山:いえ、DX推進指標は、あくまでも経営者や社内の関係者がDXの推進に向けた現状や課題に対する認識を共有し、アクションにつなげるための気づきを提供する自己診断ツールですので、何かの評価や審査に影響があるものではありません。
レベル5がもっとも高い評価にはなりますが、大事なのは高いレベルに到達することそのものではなく、定期的に自己診断を行い、自社の回答がどう変化しているのか見ることと、どこに自社のDXを推進するうえでのウィークポイントやボトルネックがあるのかを分析することです。
レベル4や5への到達自体を目標としてしまうと、実態が伴っていないのにレベル5をつけて「うちの会社はDXが進んでいてよかったね」という自己満足で終わってしまう可能性もありますから。
── どのくらい利用されているのでしょうか。
山:2019年の開始以来、のべ約1万3,000件超のご提出をいただいています。全体の8割弱を中小企業が占めています。また、継続して活用いただくケースも多く、3回以上提出いただいた企業は約500件にのぼり、公開されてから毎年続けている企業も多くあります。(2026年8月31日時点)
利用は無料で、GビズID(デジタル庁が提供する行政サービスの共通認証システム)でログインして提出していただくだけのシンプルな仕組みです。ただ、設問は経営ビジョンとDX戦略のつながりから始まるので、実際には部門を跨いだコミュニケーションが必要になります。DX推進指標に回答することで、部門間のコミュニケーション促進も期待できます。
ExcelからWeb入力へ。提出後すぐレポートが見られるように
── DX推進指標の提出方法が変わったそうですね。従来はどのような仕組みだったのでしょうか。
山:これまでは、Excelファイルをダウンロードして記入し、IPAのDX推進ポータルに提出していただく方法でした。
また、提出してすぐ結果が見られるわけではなく、ベンチマークデータの完成をお待ちいただき、自身で数値を入力していただく必要がありました。たとえば3月に提出した企業だと、結果を確認できるのはその年の11月。4月からの事業計画や年度はじめに、最新のデータが使えないことになっていたのです。
── 新しい仕組みでは、そこがどう変わりますか。
山:Webフォームへ直接回答を入力していただく形になります。提出後、5分から10分ほどお待ちいただき、ベンチマークレポートを閲覧できます。
レポートの比較基準も変わりました。従業員規模や売上高だけでなく、都道府県単位での比較や、DX銘柄、DXセレクションに選定された企業の平均値との比較もできるようになるなど、比較できる項目が増えました。
また、これまでは過去の履歴を管理するのにExcelファイルを保存しておく必要がありましたが、新しい仕組みでは申請日でWebから確認できます。
Webフォームの入力イメージ
── 新しいシステムの開発では、どのような点に力を入れましたか。
山:システムのユーザビリティとベンチマークレポートに力を入れました。
たとえば、「WebフォームだとExcelのように途中で保存できないのでは」と不安に思われるかもしれませんが、一時保存ができるようになっているので、もちろん、途中で入力を中断することができます。
また、「設問が全体的に長く、どう解釈していいのかわからない」というフィードバックをいただくこともありました。ですので、回答のポイントをまとめたガイダンスを作成し、設問の近くにあるボタンから、「その設問で何を確認しようとしているのか」「各レベルをどう解釈すればよいのか」を参照できるようにしました。
結果画面もレーダーチャートでわかりやすく見えるようにしました。印刷やPDF保存もできますので、上司への説明や関係部署との話し合い、会議資料や打ち合わせの材料として活用いただくことができます。
ベンチマークレポートの画面イメージ
重要なのは点数の高さではなく、強みと弱みを把握すること
── すぐに確認できるようになったベンチマークレポートですが、その点数を企業はどのように捉えればよいのでしょうか。「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2025年版)」では、レベル0~5の6段階評価において、現在値の平均が1.98、目標値の平均が3.51で、レベル4以上の企業は全体の3%でした。
山:繰り返しになりますが、大前提としてDX推進指標はあくまで自己診断ツールとなり、高得点を取ることが目的ではありません。
まずはレーダーチャートを見て、自分たちの強みとウィークポイントを確認していただきたいです。平均値が2点弱であるなかで、3がつく指標があれば、それは企業としての強みのポイントだと思います。逆に1がついた領域は少し弱い部分といえるでしょう。
ただ、業種や企業のスタイルによって、点数が低くなりやすい領域もあります。低いことだけを問題にするのではなく、自社の強みをさらに伸長させ、課題となっている領域を底上げする形で進めていただきたいですね。
── 現状を把握したあとは、どう進めればよいでしょうか。
山:把握した現状を「自分たちの出発点」として、それを経営者やDX推進担当者、事業部門を交えて議論することが最初の一歩だと思います。
DX推進指標では、すべての設問に対して3年後に目標とするレベルも入力していただきます。この現状と目標のギャップがとても大事です。そしてそのギャップの発生要因を見つめ直しながら、自社DXを推進してほしいですね。
── DX推進指標を担当されて多くの企業と接してきたなかで、印象的な使い方をされている事例はありますか。
山:大きく2つあります。
1つは、年次の経営計画の打ち合わせのタイミングで、一年に一度必ずDX推進指標を実施するという企業です。
もう1つは、新しくDX部門に来られた方や次の経営幹部候補のタスクにDX推進指標を入れるという使い方です。DX推進指標が扱う領域は経営ビジョン、人材、組織、インフラと多岐にわたりますから、デジタルだけではなく経営全体の話なのです。
DX認定に向けて、自社の課題を把握する方法としてDX推進指標を使い、その結果をもとにいろいろな部署に話を通しにいく。そして成果として、次はDXセレクションを目指す。そういった段階的な活用法も効果的でしょう。
ほかのDX関連制度と観点をそろえ「レベル5」の定義も見直し
── 2026年4月には内容が改訂されています。何が変わったのでしょうか。
山:DX推進指標が開始された2019年は、デジタルガバナンス・コードの前身となる「DX推進ガイドライン」に基づいて内容が作られていました。
その後、デジタルガバナンス・コードが整備され、それに基づいてDX認定やDX銘柄といった制度が作られましたが、DX推進指標だけは以前のガイドラインに紐づいたままでした。
そこで4月の改訂では、設問構成をデジタルガバナンス・コード3.0に紐づけ、各制度と観点をそろえました。設問に出てくる言葉を見れば、DX認定やDXセレクション・銘柄の肝となってくる部分がわかるので、制度間の連携がしやすくなっています。
── 成熟度レベルは、どのように見直したのでしょうか。
山:従来のレベル5は「グローバル市場におけるデジタル企業」というものでした。ただ、グローバル展開の意味は企業規模や業種によっても違いがあります。検討会でも、「成熟度レベルはどんな企業においても適用・解釈できるようなものであるべきだ」という意見がありました。
一方、この7年は情勢の移り変わりや技術革新が激しく、世や企業が求めるテクノロジーやDXの価値も変わってきました。
そこで今回、レベル5の定義を「社会価値の創出」に変更しました。具体的には、地域や取引先、サプライチェーン全体の最適化など、自社の枠を超えて価値を出しているかどうかを見ています。
成熟度レベルの基本的な考え方(「DX推進指標」のガイダンスより)
AIを入れる前に把握すべきなのは組織の状態
── これからDXに動き出す企業に向けて、アドバイスをお願いします。
山:いま、DXとして一番大きなテーマは生成AIだと思いますが、だからといってAIを導入すること自体を目的にしてはいけません。重要なのは企業として、変化についていくこと、そして価値創出(=トランスフォーム)することです。
AIを活用しようとすると、必ず壁にぶつかる瞬間が出てくるでしょう。たとえば、活用できそうなデータがあったが、整備されておらず利用できなかったとか、従業員に対しての利用促進や周知をしていなかったとか。重要なのは、そのような観点に、より早く気づけるかどうかです。組織として一度、原点に立ち返って見返すことが必要だと思います。
その「見返す」ためのツールとして役立つのが、DX推進指標です。「DXを進めている」と言っても、解釈はさまざまです。すでに満足しているならいいのですが、まだ足りないところがあると感じているなら、ぜひ一度実施していただきたいですね。
── 一方で、いざDXを進めようにも、地方の企業にはDX人材がいないという声も多くあります。
山:企業、組織の中に、隠れたデジタルネイティブな人材がいることも少なくありません。むしろ問題なのは、DXについて若手を教育できるミドル層がいないことや、レガシーシステムが混在していることのほうです。ただ、AIの時代になればそこは大きく変わるのではないかと思っています。
いまも管理や保存を、ドキュメントベース、紙などで実施している企業も多くあります。従来のデジタル化の文脈だと、それらはデータとは呼べないものとされてきました。Excelに入力して初めてデータだ、と言われていたんです。
ところがAIなら、マルチモーダルの画像認識でそのままデータにできます。AIのおかげで、DXのためのExcelにする工程を挟む必要がなくなったわけです。もちろんデータが整備されている環境であることに越したことはありませんが、AIの登場により、企業がビジネスを効率化・変革するまでのリードタイムは圧倒的に短縮され、ハードルもかなり下がったと感じています。
テクノロジーによる解決が容易になったからこそ、新しいシステムやツールを導入する前に、自分たちの組織がどういう段階にあるのかを一度考えていただきたいですね。
とはいえ、自社だけでは難しいこともあると思います。国もDX支援ガイダンスを用意していますし、金融機関や地域の支援団体、地域DX推進ラボといった枠組みもあります。第三者の目線で分析してもらうことも必要でしょう。そうした外部の力も借りながら、まずは現状の可視化から始めてみてください。
DX推進指標は、企業を評価するためのものではありません。変革を実現するためのツールです。DX推進指標を使って議論を重ね、順序立ててDXを進めていただきたいと思っています。
取材・構成・撮影:山田井ユウキ
編集・制作:株式会社はてな
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