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不良への気づきが翌朝から当日へ──「勘とコツ」から仕組みへ変えた三行合成樹脂

DX事例 製造業
不良への気づきが翌朝から当日へ──「勘とコツ」から仕組みへ変えた三行合成樹脂

1943年に創業し、プラスチックの射出成形(しゃしゅつせいけい)を専業とする新潟県見附市の三行合成樹脂。大口案件が2年後になくなることが決まるという難しい時期に、同社はシステムへの投資に踏み切りました。

かつて同社の品質は、作業者が出来栄えを見ながら機械のパラメーターを微調整する「勘とコツ」に支えられていました。そこから、およそ10年かけて工程を厳密に管理する方式へ移行し、さらに基幹システムの刷新と現場システムの自社開発に注力してきたのです。

その取り組みが評価され、「DXセレクション2026」では新潟県内の企業として初の準グランプリを受賞しています。

今回は同社のDXにいたるまでの歩みと、経営陣が主導し現場を巻き込んだ進め方について、代表取締役の宮島拓人さんに伺いました。

大量生産向きの射出成形は、ともすれば不良品の山を生んでしまう

── まず、三行合成樹脂の事業について教えてください。

代表取締役 宮島拓人氏(以下、宮島):当社は新潟県見附市でプラスチック製品を製造している、BtoBの受託専業メーカーです。

創業は1943年6月で、いまは84年目です。プラスチックによるものづくりが日本で普及し始めた頃から、地元の企業と共に技術を磨いてきました。プラスチックの成形方法はいくつかありますが、現在は「射出成形」に特化しています。

自社の名前を付けた製品を売るのではなく、さまざまなメーカーの製品や部品の一部を作っています。身近なところではエアコンの風向きを変えるルーバー(羽)や、室外機のファンガード、仮設トイレのボディ、小さいものではお米一粒ほどの精密部品まで、扱っている製品は多岐にわたります。

── 射出成形には、どのような特徴があるのでしょうか。

宮島:大量生産に向いていることです。機械にパラメーターを入力すると、その設定どおりに、何百個、何千個、何万個と同じものを繰り返し作ってくれます。

一方で、一度不良品ができてしまうと、その不良品を作り続けてしまいます。結果、いつの間にか不良品の山ができてしまうことにもなりかねません。

── 検査で弾ききれないものなのでしょうか。

宮島:検査は基本的に全品を人の目で見ています。ただ、検出率を100%にすることは現実的には困難です。ですから、検査で見つけるだけでなく、そもそも不良の発生数を減らす必要があります。

仮に不良が1万個発生していて、検査で99%を弾けたとしても、1%にあたる100個がお客さまのもとへ流出します。

工程の異常に早く気づいて、不良の発生そのものを100個まで抑えられれば、同じ検出率でも流出するのは1個です。不良を作り続ける状態を早く把握して止めることが、結果として流出を防ぐことに繋がるわけです。

10年をかけて「勘とコツ」から「管理成形」へ

── DXセレクションのプレゼンテーションでは、「品質が人に依存しているのが弱み」と話されていました。

宮島:検査作業自体は、いまも人の目に頼っています。そういう意味では、人に依存している部分は残っていますね。

ただ、私たちが改善しようとした「人への依存」は、検査ではなく、10年以上前の成形方法のことなんです。当時は、現場で出てきた製品の出来栄えを見ながら、作業者が機械のパラメーターを微調整するのが一般的でした。業界では「勘コツ成形」と呼ばれる方法です。

このやり方では、品質が作業者の力量に大きく左右され、再現性もありません。「なぜその設定を変えたのか」「別の値ではなぜいけないのか」という理由も、感覚的であやふやになりがちです。

── その「勘コツ成形」をどのように改善したのでしょうか。

宮島:10年ほどかけて、材料のバラツキや金型の締め付けなどを自動調整・監視する装置をメーカーさまと共同開発し、バラツキや不良発生の少ない自動生産を実現しました。

並行して金型や周辺インフラを調べ上げ、不具合要因の潰し込みを行いました。これらの活動を通して、成形条件や製造工程を厳密にコントロールしていく「管理成形」と呼ばれる手法を実現しました。

いまでは、作業者に割り当てられた調整範囲の変更を禁止しており、「なぜ条件変更が必要なのか」「品質に影響が出ないのか」などを管理者が状況を確認しています。そのうえで、調整範囲の変更可否を判断しています。

作業者個人の力量で品質を維持するのではなく、工場全体で品質を保証する仕組みをつくってきたのです。そして、その状態を管理するために推進したのがDX(IoT)でした。

 DX実現に向けたプロセス(三行合成樹脂提供資料より)

大口案件の消失を機に、過去最大のシステム投資へ

── 現場の仕組み(管理成形)を整えたあと、次のステップとして全社的な取り組み(DX)へと踏み出されたわけですね。それに着手されたのは、どういうタイミングだったのですか。

宮島:売上上位に入るお取引先さまの大口案件が、2年後になくなると決まった時期でした。その後、新しく柱になる新規顧客の開拓が必要になったところに、新型コロナウイルスの感染拡大も重なり、会社としては非常に厳しい時期もありました。

ただ、前向きに考えれば、少し手が空くのかなと思いました。それなら、忙しいときにはなかなかできないシステム改修を進めるべきだと考えたのです。

── システムへの投資には、生産設備への投資とは異なる難しさがあったのでしょうか。

宮島:大きな挑戦だったのは間違いありません。成形機などの設備投資であれば、生産量がどれだけ増えるのか、何年で投資を回収できるのかを比較的説明しやすいのですが、システムはそうではありませんでした。

また、今回のシステム刷新は単なるツールの導入ではなく、将来的なロボティクス活用や自動倉庫連携、品質トレーサビリティまで見据えた「会社全体のプラットフォーム」を作る計画でした。経営・現場・間接業務と対応範囲が多岐にわたり、会社全体の視点で取りまとめを行う難しさがありました。

── どなたが決断されたのでしょうか。

宮島:構想したのは取締役専務です。射出成形の業界は、飽和して成熟段階にあります。これから大きくなる業界ではなく、淘汰が進んでいくでしょう。そのなかで生き残るには、工場をデジタル技術で変革して、会社の魅力を向上させる。ゆくゆくはスマートファクトリーと呼ばれるところまでやりきることが必要なんだという発想です。

専務からその考えを聞いたとき、私も「確かにそうだ」と納得しました。そこから2人で、当時の社長を説得したんです。そこまでシステムに資金を投じた実績はなかったので、当社にとっても大きな挑戦でした。

── 大きな決断を経て、具体的にはどのようなシステムを導入されたのでしょうか。

宮島:システムは、大きく二つに分けられます。

ひとつが統合基幹システムの「GMICS」。中小企業において、ゼロから作り上げるスクラッチで基幹システムを開発するにはとても膨大な時間とコストがかかるため、業態に近いパッケージソフトに機能追加をすることで、短期間にローコストで当社の実現したい機能を実装していきました。

またGMICSを開発された村田機械さまはソフトウエアとハードウエアの両方に強い企業であり、私たちの実現したかったシステム間通信の開発に全面的なご協力をいただき、現在のシステムが実現しました。

もうひとつが、現場から情報を収集する自社開発の情報収集システム「中央制御PLC」です。射出成形機や取り出し機といった生産装置のリアルタイムの情報取得と制御に付け加え、作業者が端末に入力した情報や動作履歴を隈なく記録します。

ガイド機能によって手順書がなくても操作を可能にしたり、ミスや工程を常時システムで監視し異常を検知した際に作業者へ警告したりすることで、作業ミスを撲滅しています。こちらは専務が中心になって開発と実装を進めました。

導入したシステムの全容(三行合成樹脂提供資料より)

── DXによって、現場はどう変わりましたか。

宮島:以前であれば、1日分の紙の帳票を翌日に見返して初めて、「昨日はこんなにたくさん不良を作り続けていたのか」と気づいていました。

チェックシートに記入していた事項を、いまでは成形機1台ずつに取り付けてあるタッチパネルに入力する形へ変更しました。以前は毎日大量のチェックシートがたまり、翌日の朝に処理をしていましたが、現在ではそれらの作業をなくすことに成功しました。

作業者が不良を発見するとその都度タッチパネルに入力しています。入力されたデータや機器が取得した各種情報(生産数、異常回数など)は、中央制御PLCにてリアルタイムで集計・分類され、工場の大型ディスプレイに表示します。

遅くても30分後には管理者が異常に気づいて、現場へ急行できる仕組みになっています。また、データはGMICSにも記録・情報処理されさまざまな場面で活用されています。一例を挙げると、生産計画上の進捗管理と後ろに控えている製品の納期状況もリアルタイムに把握できる仕組みになっています。

その結果、リアルタイムの工場可視化に成功し、品質面、納期面などさまざまな方面でデータを活用した工場運営が実現しました。わかりやすいところでは、事後対策ではなく、不良流出の未然防止に大きく寄与し成果を収めています。

成形工程以外でも、工程・品番・検査のチェックなど人が苦手とする確認作業をハンディーターミナルで記録することにより、ひとりひとりの作業の質を向上させることに成功しました。

こうした取り組みを通して、DXを推進した結果、会社全体の仕事の質が大きく向上し、魅力のある工場へと変革を遂げることに成功しました。

「あとは任せた」で終わらせず、経営陣がDXにフルコミット

── システム刷新は、どのような体制で進めたのでしょうか。

宮島:プロジェクトオーナーは当時の社長(いまの会長)です。推進リーダーを専務が務め、私は事務局のような立場から始めて、途中でプロジェクトオーナー代理になりました。

DXによって工場のレベルを上げ、将来的にスマートファクトリーへ進化させることは会社の戦略でしたので、経営陣がフルで参画するのは当然です。一方で現場からは、役職者ではなく、各部門の実務でキーマンとなっているコア人材を集めてプロジェクトチームをつくりました。

専務は、生産技術の知見を生かしつつ、自らプログラミングも行いました。現場の声を聞いて回り、それをシステムに反映しようとする姿を見せたことも、社員の意欲向上に繋がったと思います。「DXをやりなさい。やり方は任せた」で終わるのではなく、経営陣が自ら実際の作業まで率先して進めたことがよかったのだと思います。

DXは経営陣が率先した(三行合成樹脂提供資料より)

── 慣れた仕事のやり方を変えることに、現場から抵抗はありませんでしたか。

宮島:表立った反対はありませんでしたが、慣れ親しんだ方法を大きく変えることへの抵抗感は当然あったと思います。

でも、そこで遠慮してやめるのではなく、「こうすると最終的にはあなたの仕事が楽になります」「次の世代へ引き継ぐときにも助かります」と、根気強く説明しました。

── 人材育成や専門ノウハウの不足にはどう対応されてきたのでしょうか。

宮島:正直なところ人材育成はいまも課題ですが、すべてを自社の人材だけで完結させる必要はないと考えています。

とくに大変だったのは、部門横断で集まってもらったコアメンバーです。優秀な人にはもともと仕事が集まりやすいのに、そこへ周囲からの質問も集中するわけですから。

順調に基幹システム運用が進んでくると、システムへの改善要望や取り出したデータの活用などを求める声が多くなってきました。

そうした要望に対応すべく、また、当初の想定以上に複雑になったシステムの運用を支えるべく、社外から生産管理システムに詳しいシステムエンジニア経験者を迎え、専門知見を持つ人と一緒に進める体制をつくって遂行しています。

── 管理成形やDXが進むと、職人技は不要になっていくのでしょうか。

宮島:いえ、職人技が必要な領域はまだまだあります。たとえば、金型の作り込みです。最高の金型を作り上げるためのノウハウは、どうしても職人に依存する部分が出てくるのですが、今後は明文化して会社の資産にしていく必要がありますし、そこにもDXを使える場面があります。

一方で、本当の意味で「人にしかできないこと」は、お客さまのご要望を受けてどう実現するかを考える発想力や思考力です。人が考えたものを、管理成形やシステムによって安定して実現する。それが今後、目指すべき姿だと考えています。

DXは中小企業が大企業と対等に戦えるフィールド

── 中小企業だからこそ、DXを進めやすかった面はありますか。

宮島:大企業には資金力も人材力もあります。一方、中小企業には小規模だからこその決断から実行までのスピード感、小回りの良さ、巻き込む関係者の少なさがありますね。

大企業が全面的にシステムを刷新しようとすれば、既存システムとの相性、リスク評価、関係者への影響などを確認する必要があり、数年がかりになることもあるでしょう。当社の場合は、経営側がやると決めたことで比較的早く動けました。

ただし、DXだけをまねても意味はありません。当社の本質的な強みは、もともと持っている成形技術と金型技術です。DXによる管理体制の構築は、あくまでその二つを支えるもの。自社本来の強みは何か、そこにどうDXを掛け合わせるのかを突き詰めることが重要だと考えています。

── 今後の展望と、これからDXに取り組む中小企業へのメッセージをお願いします。

宮島:これからも新潟の地でプラスチック製造を専業として続け、お客さまのご要望をかなえ、期待に応えられる会社でありたいと考えています。そのためにも、DXをさらに進めると同時に、金型技術や成形技術といった中核のノウハウも磨いていきます。

当社は84年目に入りました。100周年とその先を見据え、従業員が胸を張って働ける会社にしていきたいですね。

中小企業にとって、DXは大企業とも対等に戦えるフィールドだと感じています。AIをはじめとする技術を誰もが等しく利用できるとは、数年前には想像もしませんでした。

まずは自社の強みや独自性を見つめ直したうえで、その強みをさらに高める手段としてDXを活用することが大切なのではないでしょうか。

取材・構成:山田井ユウキ
編集・制作:株式会社はてな

 

取材協力

三行合成樹脂株式会社

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