【後編】『社長が一緒に飲んでくれないならDXは諦めろ』? ITmediaとIPAの対談から見えた、DX担当者にできること
世の中に氾濫する「DX」。
ここ数年で社会全体のデジタル化が加速し、多くの企業がDXを経営戦略のひとつとして捉えるようになりました。メディアには「DX」の文字があふれ、「DX」を推進するためのツールやサービスなどの情報がいたるところで目に入ります。にもかかわらず、未だに「DXって結局何をすればいいのだろう」「DXがわからない…」と感じている担当者も少なくないのではないでしょうか。
IT総合情報ポータルサイトとして、さまざまなDX先進企業を取材してきたITmediaと、「DX白書」の発行やDX推進指標、DX認定審査など、日本のDXを推進してきたIPA。両者は今の日本のDXをどう見るのか。
「DXの今」についてITmediaの内野氏とIPAの境による対談を行いました。
対談の中身はITmediaの記事をご覧ください。
IPA×ITmedia DX対談企画(第1回)
「全社でDXやっています」と答えざるを得ない、日本企業の“罪な構造”(2022年6月1日 ITmedia ビジネスオンライン)
IPA×ITmedia DX対談企画(第2回)
必ずしも「日本のDXはダメダメ」ではない 日本人は何が得意なのか?(2022年6月2日 ITmedia ビジネスオンライン)
また、対談の中で「もっとここが聞きたい!」と思う箇所をDX SQUARE編集部でピックアップ。IPA DX推進部長の境さんに「ぶっちゃけてどうなの?」を聞いてみました。
--前編--
--後編--
対談者紹介
境 真良(さかい まさよし)
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)参事
同社会基盤センターDX推進部 部長
iU(情報経営イノベーション専門大学)准教授
内野 宏信(うちの ひろのぶ)
アイティメディア 編集局 統括編集長
DXの進め方: BtoBのDXがわからない!
BtoCにおけるITの重要性の高まりが強く、BtoCでDXが進んでいるという話が対談で出てきました。ではBtoBのDXはどうすればいいのでしょう。
IPA境真良(以下境):DXはどの領域から進んでいるのでしょう? 日本でも、BtoCの世界から進んでいるのでしょうか。
ITmedia内野宏信氏(以下内野):BtoBかBtoCかでDXを語ると少し難しくなってしまいますが、日本企業がDXをやらなければいけないと思うきっかけになったのは、BtoCにおけるITの重要性の高まりが強いと思います。一方、BtoBの世界では、企業内の取り組みに関していうと、やっぱり近年の働き方改革、人材不足がトリガーになっていると思います。
DXの事例を見ているとBtoCの会社の例が多いように思います。BtoCのほうが顧客データもたくさんあって顧客接点も明らかなので、進めやすそうです。BtoBの会社はどうしていけばいいですか?
DXは顧客に対して貢献しようとしますよね。なぜBtoCからDXが進むかというと、BtoCの顧客というのが、世界で最も高性能なコンピューターである『人間』だからです。Web画面を見て瞬時にどのボタンを押せばいいのか理解する。人間が柔軟だからどんどんサービスを提供して向上させていけるわけです。
一方、BtoBの向こう側にいるのは別の企業のITシステムですよね。ITシステムは、「このフォーマットじゃないとわかりません」「この手順じゃないとできません」とあれこれ文句を言うんですよ。それに合わせてこちらのITシステムを色々変えていくなんてコスパの悪いことができるはずはありません。だからBtoBのDXは遅れたんです。
BtoBのDXを今後推進していくためには、企業間で共通認識をもつとか標準化することが必要です。
ただそれって簡単なことではない。
サプライチェーンの中で発注元が自分のシステムを使えと言ってくる例を挙げていますが、そういう自社のオレオレ標準、あるいはオレサマ標準は弊害が大きいと思います。特に、下請けなど使わせた企業の方でも、その企業が選んだソフトやサービスと連携させなくてはならないからです。
十分、もっと大きな標準に配慮したものであればよいのですが、そういう取引先における使い方まで配慮したシステムを提示してくる例は少ないように思います。そうして、取引ケイレツとかにサイロ化したシステムの利用が、取引先の負担をどんどん増やし、結局、デジタル嫌い、アナログ残留志向が多くの企業に生まれてしまう。だから日本のBtoBのDXは難しい。
ITシステムは異種システム、他社システムと繋げる前提でいなければなりません。ただ、ドキュメントを共有して全員が合わせろという「標準化」はとても重たい。業界で話し合って合意するのに5年10年平気でかかりますからね。
だから、大体こんなもんだよねとみんながもつ「共通認識」とか「相場観」を、企業と企業の接合領域に対してもっておくのがいいんだと思います。ITシステム間で連携する部分では、どう作ったら一番色々なソフトと連携できるのか相場観としてわかっていたほうがいいでしょう。
真のDXとは:DXのホップ・ステップ・ジャンプ!
DXの段階として、デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションという3つの段階で語られることが多いです。DXの進め方、真のDXとはなんなのか、聞いてみました。
境:DXってケチな会社はできない。成功するかわからないDXになけなしのお金はかけられませんから。DXは余裕のある企業のために許された手法です。だから、まず余裕をつくるためにデジタル化に取り組む。余裕がないとDXはできないが、デジタル化によって余裕ができる。僕らIPAも迷いつつDXにデジタライゼーションを含めて議論することが多いんですが、今はDXというバズワードで業界全体を引っ張っている感じがあるので含めているんです。
だが、やはり、トランスフォーメーションとしての真のDXとそこへいたるまでのDXホップ・ステップ・ジャンプ 段階は分けて考えるべきだし、必要な段階を踏んでトランスフォーメーションへ進むんだということを伝えた上で、僕らもDX戦略を語らなければいけないと思います。 そこに、ひとつの鍵があるのではないでしょうかね。
内野:DXの先に何があるのか、社会にどういう価値を提供していきたいのかというビジョンが決定的に不足している会社が多い。それぞれの会社は存在意義、社会的な価値があるはずなんで、そういうビジョンをまず発信したうえで、では、こういうデジタル化の時代にうちの会社は何ができるようになっていけばいいんだろう、そのためにはお金や人件費の部分をどう効率化していけばいいんだろう、という共通のゴールを、会社のなかの全員で考えられるようになることが重要ではないかと思うんですよね。
そうするとロードマップをみんなが考えられるようになる。今、ここまでやったらそれでDXできた、終わり、というふうになってしまってる、それがいちばんいけないのではないかと。
いま世の中には「DX」をうたったツールやサービスがたくさんありますが、「真のDX」ってなんですか?内野さんからはビジョンという話もありましたが、何から手を付ければいいんでしょう。
「真のDX」とは、教科書通りの言い方ですが、デジタイゼーション→デジタライゼーション→DXの段階を経て、ビジネスそのものを変革するということです。ただ、先ほども言いましたが、トランスフォーメーションまでいかずにデジタライゼーションで止まる企業は多いです。なぜデジタライゼーションが必要かというと、それは単純にみなさんが楽になるからです。DXできない会社でも、デジタライゼーションはしてほしい。
デジタライゼーションすることによって、ログが残るようになるので、その企業が何をしてきたか記録がとれますよね。例えば出張旅費の申請なんかも、会社のシステムで切符を買ってそれをログとして残せれば、わざわざ人間が出張報告書を作って申請なんてしなくてもよくなるわけです。だからどんなデータでもできるだけ残してほしい。どのようなデータをとるか考える前に、まずはデータを残してほしいんです。とるデータを最初に決めてしまったら前に進まないことが多い。
それは「無駄」がDXを起こすからです。やってみてダメだった、その無駄があるからトランスフォーメーションが起こる。最近は無駄を冗長性といってポジティブに捉えている風潮もありますね。
ただ、一人ひとりが自分勝手に無駄をやっているとうまくいかないんです。それでは無駄を共有できないから。先ほどの企業間の共通認識の話ともつながりますが、データをどう取り扱ってイノベーションを起こすか検討するには、企業間が連携していたほうがいい。無駄を共有するための共通化というものができて、これが新たな効率性につながっていく。
とにかくデータを残す、という無駄にすぎないものを、新しいことにできないか転換していく。これがトランスフォーメーションのひとつの入り口で、いずれ真のDXにいたるものだと考えています。
DXとこれから:DXでわたしたちは何が変わる?
DXが進んでいくと、個人や組織の関係が変わっていく、という話もあります。わたしたちの将来はどう変わっていくのか、最後に聞いてみました。
内野:拡大解釈になるかもしれませんが、DXは個人や組織が自分の提供価値を高めていく取り組みともいえると思うんですよね。
自分の仕事の価値、能力の価値をより高度に発揮するツールを使い、対価として、発揮した分だけお金をもらうのは自然なことだという流れになると思います。お金だけでなく、自分はどういう形で世の中の役に立ちたいのかということとつながってさえいれば、その他の目的、きっかけは何だっていいと思います。
そういうところまで皆さんに認識いただいて、DXでなくXD、トランスフォームが先に来るような活動に注力いただけると、すごく生産性が上がると思います。
境:はい、ばっちりですね。トランスフォーム バイ デジタルですね。
DXで、自分たちの儲け方、価値の発揮のしかたを確認したり自覚すると、日本のビジネス社会がプロ化していく。誰かにすがって飯を食わせてもらうのではなく、俺はこれのプロだから何かあったら別の組織いって飯が食える。なんだったら個人でもやっていける、というくらい自信をもてるひとがどんどん増えていく。DXはそういうことの促しかもしれないですね。
DXによって個人と組織の関係は今後どう変化すると思いますか? DX推進を命じられた人たちは今何を考えなければならないでしょうか。
現在の日本は「就職」ではなく「就社」だ、みたいな言い方もあるけど、「就社」の形がなくなる、あるいは緩むんじゃないかな。人間が仕事で成果を上げる形ってどんどん不定形になると思うんですよ。実際、それが起き始めていて、副業というかマルチジョブというのはみなさんが思っている以上に広がっている。
DXをしていくということは色々なものを小分けにして再構成するということです。小分けの仕方によってその人の仕事に対する意味付けが多岐になるので、「この会社のためにがんばる」というマインドはかなり消えていくと思います。
DXが示すことは、ITシステム面でいうと、自社が使うものを全部が全部自社では所有しないということです。これって、ITシステム面以外では実はもうほとんどの企業でやっていることで。多くの会社では派遣社員や業務のアウトソーシングを使っていますよね。自社の業務の一部を外部に担わせているじゃないですか。つまり企業の業務はもう、小さなビジネス単位に再構成され、それを業務や仕事という単位で大くくりに再構成し、それを企業の業務単位として考えるようになっている。
ITシステム面におけるDXって、それと同じようにITシステム自体を小さな単位で作り直して、再構成しようというだけなんです。
みなさん企業で働いていると思うので、自社の経営者がどう考えているかによって変わってくるのは前提として。自社がどのような強みを発揮していこうとしているのかを固めて、そのためにどんな企業とどう連携して儲けていくのかを考えることです。一企業という小さな枠を超えて、企業間のエコシステムとかサプライチェーンの中で、どんな役割を発揮して、どんな貢献をしていくか、というところを考えていかなければならないですね。
まとめ
DXの現状から、DX担当者がやるべきことまで、色々とお伺いしました。一言でまとめると、「DX担当者は社長と飲みに行って膝を突き合わせて、デジタルを使った会社の未来について語り合いなさい」 ということでいいでしょうか。それを断られるようなら、社長にはDXよりも優先度の高いほかの課題がある。そういう会社は、DXじゃなくてデジタライゼーションを進めて、とにかく今はデータをとっておけばいいと。
一言でまとめましたね。(笑) みなさん、是非社長に奢ってもらいながら、取り組んだ一つ一つの改善の成果や困難、それを踏まえた悩みや問題の視座を社長に共有してもらいましょう。その向こうに、デジタライゼーションの成功と、そしてトランスフォームの実現もあると思います。がんばっていきましょう。
DX SQUARE編集部より 教科書的なDXの話を少し深掘りして、今回はDX担当者のみなさんがどうすればいいの、という部分を聞いてみました。みなさんが今すべきこととは何か。この記事がそれを考えるきっかけとなれば幸いです。 |
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