DX推進指標はDXの「健康診断」 グループ内でDXの現状や課題に対する認識を共有
DXビジョン「Digital Fusion デジタルの力で、あらゆる境界を取り除く」を掲げ、「あらゆる生活シーンの融合」、「オンラインとオフラインの融合」、「事業・組織の枠を超えた融合」に取り組んでいる東急不動産ホールディングス。グループ会社を含めた共通のフレームワークとしてDXに取り組み、資産と人財の価値最大化による新たな収益モデルの確立を目指しています。
東急不動産ホールディングスのDXは、DX推進室が設置された2020年から始まります。その後、2021年には長期ビジョンの全社方針の一つにDXが掲げられ、戦略的な取り組みに着手。2023年には、先進的にDXに取り組む企業として「DX銘柄2023」に選定されました。東急不動産ホールディングスがDXを進めていく中で、支援ツールとして活用したのが「DX推進指標」です。グループCX・イノベーション推進部デジタル戦略グループのお二人に、DXの取り組みとDX推進指標の活用について語っていただきました。
グループ全体で目指しているのはDXを通じた独自性のある価値創造
──DXに関する取り組みについて、いつ頃から開始しましたか。
グループCX・イノベーション推進部 デジタル戦略グループリーダー 鳥巣弘行氏(以下:鳥巣):東急不動産ホールディングスグループは、持株会社である東急不動産ホールディングスの下、東急不動産、東急コミュニティー、東急リバブル、東急住宅リース、学生情報センターの主要5社を中心に、都市開発事業、戦略投資事業、管理運営事業、不動産流通事業の4つのセグメントで事業を展開しています。
DXの取り組みは、DX推進室が設置された2020年から開始しました。そして2021年5月に策定された長期ビジョン「GROUP VISION 2030」において、当グループは「WE ARE GREEN」を旗印に、魅力あふれる多彩なライフスタイルの創造を通じて、誰もが自分らしく、いきいきと輝ける未来の実現を目指すことを宣言しました。その実現に向けた全社方針として、環境経営とともに柱として位置づけたのがDXです。ここからDXを通じた独自性のある価値創造に向けた戦略的な取り組みを開始しました。
──どのような方針のもと、DXを進めていきましたか。
グループCX・イノベーション推進部 デジタル戦略グループ 小林香穂氏(以下:小林):当グループ共通のフレームワークとして、DXの取り組み方針を「ビジネスプロセス」、「CX(カスタマーエクスペリエンス)」、「イノベーション」に区分しています。業務の変革を目指すビジネスプロセスでは、業務を抜本的に見直し、飛躍的な効率化・高度化により、創造的業務への転換を図ります。顧客体験の変革を目指すCXでは、データを活用してリアルな場とデジタルの垣根を超えたOMO(Online Merges with Offline)を推進し、お客さまに感動体験を提供します。そして、事業の変革により新たなビジネスモデルの構築を目指すイノベーションでは、さまざまな手法で収益機会を獲得し、加速度的な成長へと繋げていきます。
また、この3つの方針を次のように位置づけています。最初は再構築フェーズということで、ビジネスプロセスとCXに注力していきます。その次に、強靭化フェーズとして、イノベーションに注力していきます。DX推進を開始した当初は、2026年から強靭化フェーズに注力していく予定でしたが、想定よりも早くDXが進んでいる状況です。
DX推進指標の自己診断で自社のDXの位置づけを把握
──2020年からDXの取り組みを開始していますが、最初はどこから着手しましたか。
鳥巣:DXを全社方針として進めていくうえで、最初の課題は「社内の意識改革」だと感じていました。DX推進室では、設立当初からDXの必要性を発信する啓蒙活動を続けてきました。デジタルはあくまでも手段でしかないので、それが収益にどのように繋がっていくかということを説明するのはとても難しいことです。そこで「DXへの関心が高まるなかで、お客さまの目線を意識してDXに取り組まないと、お客さまに選ばれる会社になれない」など、分かりやすく丁寧に説明することを心がけました。いま、振り返ると、DXの必要性についての理解醸成と意識を合わせてグループ全体の足並みをそろえていくことに、すごく苦労したことを思い出します。
また、DXによる成果を定量的に伝えることの難しさも感じました。このときに、とても役立ったのが「DX推進指標」です。DX推進指標は自己診断を通じて自社のDXレベルを測ることができる支援ツールです。経営・仕組みやITなどの項目ごとにそれぞれの関係者にヒアリングして情報を集め、DX推進指標の自己診断を行いながら「どこから始めればよいのか?」、「次は何をしたらよいのか?」を決めていくことができました。また、DX推進指標の自己診断を定期的に行うことで、私たちの取り組みの進捗管理ができるなど、DXの推進状況を確認することができました。
──DX推進指標は、DXを進めるうえでどの部分から活用しましたか。
鳥巣:DX推進指標の活用は、DX認定の取得がきっかけでした。DX認定制度は、DX推進の準備が整っていることが認められた企業を認定する制度です。「デジタルによって自社のビジネスを変革する準備ができている状態」と国に認定されることによって、社内外にDXをアピールすることができます。
このDX認定に向けて、当グループのDX推進状況を知り、課題を共有するためにDX推進指標を活用しました。これまでの業務がどれくらい楽になったのか、DXの成果を社内およびグループ各社にどうアピールするのか、自分たちのDXの立ち位置を確認して、次のアクションはどうするのか。また、DX推進指標では具体的な数字を要求される項目もありますので、計測して成果と紐づけたり、費用対効果を可視化したりするなど、DX認定の取り組みと並行して行うことができます。
小林:DX推進指標は、定期的かつ客観的な評価を行えることが大きなメリットです。たとえば、1年に1度、健康診断のように自己診断を行うと「1年前からどのくらいDXを進めることができたのか」を全体的に把握することができます。また、各項目に回答する時点でも、「こういうところがいま求められていて、当社ではできていないな」と気づくことができます。
また、DX推進指標による自己診断は、DXの担当者だけは記載することができないため、各部門の関係者にヒアリングし、議論しながら実施をしており、これも、さまざまな意見を聞くことができる良い機会になっています。自己診断の結果を総合的に分析して、診断結果と全体データとを比較したベンチマークレポートも、自分たちの立ち位置や自社と他社との差異を把握することができたり、次のアクションへの理解を深めることができるなど、DXの取り組みに役立つとともに、私たちの刺激にもなっています。
──「DX銘柄2023」の選定にもDX推進指標が役立ったそうですね。
小林:当グループは、2022年度から発刊を開始したDXレポートにおける情報発信を行ってきました。また、中期経営計画等に基づいたDX戦略やDX実現のための組織・仕組み・制度の整備にも取り組んでいます。さらに、DXの活用事例として、既存ビジネスの深化や新規ビジネスモデルの創出などが評価され、経済産業省と東京証券取引所、IPAが共催する「DX銘柄2023」に選定されました。DX銘柄に選定されるためには、DX認定の取得が必要です。DX認定を取得する際には、DX推進指標の自己診断を行いました。自己診断でDXの状況を知り、グループ各社と意識を合わせてDXを推進したことが、高い評価につながったのだと思います。
DX推進指標は6段階の成熟度レベルで評価されます。その内容は、最下位のレベル0は未着手、最上位のレベル5はグローバル競争を勝ち抜くことができるDX成熟企業、DXの取り組みを始めたばかりの企業はレベル1といったところです。当グループの目標はレベル5。グローバル市場でビジネスを展開できる企業グループを目指して、これからもDX推進指標を活用していきます。
DXを推進しながら4つの重点課題と注力領域でビジネスを展開
──DXを推進していくうえでのポイントや目標などについてお聞かせください。
鳥巣:DXを推進する人財の育成と確保も重要です。「ブリッジパーソン」とは、デジタルをビジネスに落とし込み、プロジェクトを主体的に推進していく人財です。グループ各社の垣根を超えて、実践的な学びの場を提供しています。また2022年には、当グループのDX機能会社として、TFHD digitalを設立しました。同社では、外部からデジタル人財を獲得するとともに、その力を活用してグループ各社のDX推進を支援しています。事業開始後、データ活用やデジタルマーケティング、デジタルサービス開発などで、多くの実績を挙げています。
小林:当社がDXを通じて実現するありたい姿を対外的に示すためだけでなく、グループ会社の意識改革を目的に、DXの取り組み方針「ビジネスプロセス」、「CX」、「イノベーション」の3つを踏まえて、各社のビジネスにおける課題と注力領域を策定しました。これは、2022年に策定された中期経営計画において、DXの目標として掲げた「資産と人財の価値最大化による新たな収益モデルの確立」に向けたものです。
グループ各社のビジネスを資産活用型と人財活用型の2つに分けて、4つの重点課題とそれぞれの注力領域でDXの取り組みを推進していきます。重点課題は、都市と地方、BtoCとBtoBの各分野に関連するものです。具体的には、①都市・街の求心力の向上:創造・発信・集積の循環の促進、②地方・地域課題の解決:地域の利便性と体験価値の追求、③BtoC・最適なライフスタイルの実現:パーソナライズされたサービス提供、④BtoB・働きがいと人手不足解消の両立:管理・運営業務のナレッジ化、の4つです。
グループ各社の連携のもと、重点課題と注力領域におけるDXを推進することで、新たなサービスや体験価値の創出、将来的な収益貢献へと繋げます。そして、それぞれの課題を解決しながら、当社グループの強みである「幅広いアセット活用」、「事業プロデュース力」、「豊富なお客さま接点」、「人財と運営ノウハウ」などを、DXを推進しながら独自性のある価値創造へと高めていきます。
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