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ヤマト運輸×LINE「お客さまのため」がDXの出発点 AIで“繋がるコールセンター”

DX事例

デジタル技術の活用によって生まれたサービスの裏側を紹介するインタビュー連載。今回取り上げるのは 、物流業界のリーディングカンパニーであるヤマト運輸と、電話応答AIサービスを提供するLINEです。

“電話一本で集荷・翌日配達”などの便利なサービスで、日本の宅配便ビジネスを切り拓いてきたヤマト運輸ですが、現在ではこの集荷依頼の電話に「AIオペレータ」が対応していることをご存知でしたか?
AIオペレータとは、人工知能(ロボット)のオペレータが電話の自動応対を行うものです。
今回は「お客さまのために」を起点として開発されたAIオペレータの裏側を、ヤマト運輸株式会社の有薗功二さまと、LINE株式会社の飯塚純也さまにインタビュー。そこには、顧客視点でのDX推進を成功に導くさまざまなヒントが隠されていました。

「繋がるコールセンター」実現のための“手段”として、AI活用を決断

―― 「AIオペレータによる電話応対」サービスについて、詳しく教えてください。

ヤマト運輸株式会社 有薗さま(以下、ヤマト運輸):コールセンター宛に「集荷依頼」の電話をいただいたお客さまに対し、集荷先や日時などの指定について、AIオペレータがご案内するサービスです。
現在は宅急便とクール宅急便の集荷依頼にのみこのサービスを適用しており、その他のお問い合わせやAIでのご対応が難しい場合には、有人の窓口につながる仕組みになっています。

AIオペレータの基盤となっているのは、LINEさまご提供の電話応対AIサービス「LINE AiCall」で、音声認識・音声合成、および会話制御の仕組みを組み合わせたAI技術を活用しています。

―― このサービスを展開された背景には、どのような課題や思いがあったのでしょうか?

ヤマト運輸:コールセンターの人材不足や、特定の時期や時間帯に電話が集中することによって、「電話がなかなか繋がらない」状態が発生していました。特にコロナ禍においては、宅急便のニーズ増加にコールセンターでの出勤人数制限が重なり、お客さまにご迷惑をおかけしてしまっていたんです。

もちろん「web受付」や「チャットボット(*)」などご依頼を受け付ける環境の整備は進めてきましたが、やはり電話はお客さまにとってなじみ深く、一定数の方に必ず使われるものですから。急ぎ改善して“いつでも繋がりやすいコールセンター”をご提供したいという思いがありました。

*人工知能を活用して自動的に双方向の会話を行うプログラムのこと。

―― そういった課題を解決する手段として「AI活用」を選択された理由を教えてください。

ヤマト運輸:「有人での対応を取りやめて、AIに置き換えよう」と、AI活用を前提に検討を進めたわけではなく、あくまでスタートはお客さまにとって便利な“繋がる環境の構築”でした。そのための手段を探していたときに、LINEさまから「LINE AiCall」のご提案をいただいたんですよね。
「もしAIに人間と同じような自然な対話ができるなら、“AIオペレータ”も実現できるはず」と、取り組みが大きく前進したきっかけでした。

心強い伴走者とともにサービスの質を高め、AIオペレータの価値を伝える

―― ここからは、取り組みの裏側について詳しく伺えればと思います。サービス開発に至るまでの過程で、苦労された点などがあれば教えてください。

ヤマト運輸:初めての取り組みなので、ハードルは少なからずありました。検討を始めた頃は、社内から「音声認識の精度は問題ないのか」「対話による受付は難しいだろう」など心配の声があがっていたので、まずは理解を得るための工夫からスタート。実際に社員にAIオペレータの案内を体験してもらう機会を作ったことで、次第に「対応がスムーズだった」と肯定的な意見が広まっていきました。

LINE株式会社 飯塚さま(以下、LINE):デジタル技術の強みや価値をご理解いただくには、やはり「体験」に勝るものはないのでしょうね。

ヤマト運輸:さらに「お客さまから良いご反応をいただけている」と示すことができれば、周囲の認識や理解も変わっていくのだと思います。当社では、その後法人のお客さま100社を対象にテストを実施し(*)、満足度80%という結果を残せたことが、エリア拡大や個人向けサービスの開始に向けた大きな後押しになりました。

*実施期間:2020年7月27日~8月21日(平日のみ)

また社内だけでなく、お客さまにとってもAIオペレータとの対話は大きな変化なので、“わかりやすく伝える”工夫が必要です。当時は全国展開の前に使い方をホームページに掲載したり、チラシを作成して集荷へ伺う際にお持ちしたりと、ご理解いただくための準備に奔走しました。
価値を理解してもらうためにはやはり「サービスの質」がとても大切な要素になりますが、この点でLINEさまにはたくさんのお力添えをいただきました。

LINE解決したい課題をご共有いただいているからには、すぐにレスポンスを返して近い距離で「一緒に取り組む関係性」を築きたいと思っています。いかにお客さまのお言葉を精度高く認識させ、自然に“小気味よい”対話をさせるかが私たちの腕の見せどころですので、認識精度や発話スピード、抑揚、対話のシナリオなどさまざまな観点から細かなチューニングを行いました。

AIで顧客体験の向上を実現。さらに業務工数やリスクの削減も

―― AIオペレータによる電話応対で、どのような成果を実感されていますか?

ヤマト運輸:まずはお客さまの待ち時間が大幅に削減されたことが、大きな成果の一つです。12月はクリスマスやお歳暮、お年賀などの需要でコールセンターの業務量が特に多いのですが、この時期であっても “すぐに繋がる”状態を作ることができました。

また当初の想定以上に、有人窓口へ転送することなくAIオペレータのみでご対応を完了できています。その分、有人のご対応を必要とする緊急度や複雑性が高いお問い合わせに、これまで以上に集中して対応できるようになった点もよかったと思います。

ほかにも、これまで人の手で行っていた集荷依頼内容のシステム入力作業が自動化されたことで、ヒューマンエラーのリスクや作業工数が大幅に削減されました。
業務効率化を目的に取り組んできたわけではありませんが、副次的な効果となり、お客さまにも“ミスのないスムーズな配達”を価値として還元できると捉えています。

LINEデジタル技術の活用というと「コスト削減」や「生産性向上」が注目されやすいのですが、そういった点はヤマト運輸さまのおっしゃる通りあくまで副次的なものです。
今回はやはりお客さまとの接点が広がり、「このサービスで、便利になったよね」というお声をいただけたことが大きなポイントだったのではないでしょうか。我々としても、顧客体験向上のお役に立てたのではないかと感じています。

DXの第一歩は「お客さまのために」から始まる、身近でリアルな取り組み


―― “DX”や“デジタル技術の活用”をどのように捉えていますか?

LINEDXは“Digital Transformation”を意味し、一般的に「何か大きな変革を起こさなければいけない」と捉えられているのではと思いますが、私たちはDXの“X”を“Experience”、つまり顧客体験だと捉えています。

テクノロジーを使って提供したサービスや商品で、お客さまに「便利になったな」と思っていただき、お客さまの生活の質が向上する。そんな状態を実現するための“DX”を推進していきたいですし、そういった意味で今回のAIオペレータも一つの成功例になったのではと思います。

ヤマト運輸:我々としては、やはり全ての起点はお客さまで、「お客さまにどのような価値をご提供できるか」が重要になると考えています。そのための一つの手段として、デジタル技術がある。もちろんより良い価値をご提供するために、必要とあれば最新技術も積極的に取り入れていきたいと思いますが、その手段と目的が入れ替わってはいけないのだと考えています。

―― デジタル技術の活用で顧客体験を向上させる、そのためにどのようなことに取り組んでいきたいとお考えですか? 今後の展望をお聞かせください。

ヤマト運輸:本来“人がやるべきところ”に、リソースを集中させていきたいと思っています。コールセンターの業務を例にとると、AIをはじめとしたさまざまな技術を活用しながら、定型的な対応のオートメーション化を進めます。

現在は、「お問い合わせ」という大きな括りで受付をさせていただき、内容をお聞きしてから折り返し電話を差し上げたり該当する窓口をご案内したりしていますが……将来的にはAIオペレータがお客さまのお問い合わせ内容を汲み取り、適切な窓口にきちんとお繋ぎして解決する仕組みを作って。“電話が繋がる”だけではない、その一歩先のより便利で安心なサービスを実現することで、お問い合わせをいただいたお客さまにしっかりと寄り添い、すばやく丁寧にご要望やお困りごとを解決できる状態を目指していきたいですね。

LINE社会全体を見てもテクノロジー、特にAIに対する期待値が高まっていることを感じており、発話やテキスト、画像、映像といったコミュニケーションにおける認知技術の活用にあたって当社がお役に立てる機会も多いのではと捉えています。
そうした背景の中、技術面を磨いていくのはもちろんのことですが、これらの技術活用に企業さまが挑戦しやすいよう、モデル作成など参入ハードルを下げるための取り組みも推進していければと思います。

―― ありがとうございます。それでは最後に、まだデジタル活用に足踏みされている企業さまに向けたメッセージをお願いします。

ヤマト運輸:「お客さまのために」を起点に、まずは小さく・すぐに始めてみることが大切なのではないでしょうか。

LINE:それがもっともリアルな形ですよね。“社運をかけた変革”などと言われてしまっては、現場と乖離してしまいますから。そんな大ごとにせずとも、取り組みによって顧客体験を向上させることができれば、十分意味があることだと思いますよ。


DX SQUARE編集部より

デジタル技術やAIを活用することを目的とするのではなく、お客様のためにを起点に取り組みを進められたヤマト運輸様と、パートナーのLINE様。
経済産業省の定義でも「顧客や社会のニーズを基に」変革することがDXであるとされています。まずは、目の前にいるお客様のために。電話は人間が受けるべきだという反対意見もあった中、実際のお客様を対象としたテストで満足度を調査し、社内を説得したこともうまくいった秘訣ではないでしょうか。
私たちのまわりにあるサービスのきっかけを知っていただき、DXのポイントを身近に感じていただければ幸いです。


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