『タコピーの原罪』もここから!面白いマンガが生まれ続ける「少年ジャンプ+」 編集部のDXとは
DX事例デジタル技術の活用によって生まれたサービスの裏側を紹介するインタビュー連載。今回取り上げるのは、「少年ジャンプ+」編集部です。
「少年ジャンプ+」編集部では、雑誌のジャンプグループの連載作品やオリジナル作品の閲覧ができるアプリの運営や、マンガに関する新たなデジタル事業の企画募集や情報発信を行う「ジャンプ・デジタルラボ」など、デジタルを活用した取り組みを積極的に行っています。
株式会社集英社の「少年ジャンプ+」編集部 籾山悠太さまに、同編集部の取り組みについてお話を伺いました。従来の紙媒体の誌面ではできなかったようなデータやデジタルを活用した取り組みは、まさにDXそのものでした。
オンラインでも面白いマンガが生まれる場をつくりたい。そこで創設されたのが「少年ジャンプ+」
――「少年ジャンプ+」が誕生したきっかけや背景を教えてください。
もともと「週刊少年ジャンプ」の編集部に所属していました。「週刊少年ジャンプ」はマンガ雑誌であると同時に、いろいろな “面白いマンガ” が生まれ続けてきた場所であり仕組みだと私は捉えています。
いまは誰もがスマホを持つ時代ですから、 “面白いマンガ” が生まれる場である「週刊少年ジャンプ」をオンライン上にもつくれないかということで、2014年にスタートしたのが「少年ジャンプ+」です。マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」(ブラウザでも閲覧可)の運営のほか、「ジャンプルーキー!」という誰でもマンガを投稿・公開できるサービスや、新しいデジタル技術を活用したマンガの取り組みを模索する「ジャンプ・デジタルラボ」など、オンライン上で新しくて面白いマンガを生み出すための取り組みを行っています。
―― オンラインだからこそ実現できた取り組みとしては、具体的にどのようなものがありますか?
新しくて面白いマンガを生み出すという点では、「ジャンプルーキー!」の取り組みはオンラインならではの、インパクトも大きい取り組みだと感じています。
従来であれば、新人作家さんは電話で原稿の持ち込みのアポを取ったり、郵送で原稿を編集部に送ったりしていました。しかし「ジャンプルーキー!」では、誰でも自分の作品をウェブで投稿して、世界に発表できます。
作品数としては毎月500〜1,000作、話数としては毎月3,000~4000話もの作品が投稿されています。これは従来の原稿持ち込みよりも圧倒的に数が多く、編集部と新人作家さんが出会う新しい場として機能しています。
「週刊少年ジャンプ」編集部には、作家の発掘以外にも、新人作家が成長したり、作品をチューニング、クオリティアップできるような仕組みがたくさんあります。そんな仕組みを、同じようにオンライン上でも再現すべく「少年ジャンプ+」編集部では、これまで様々な施策や企画を実施してきました。その結果、例えば最近でいうと『タコピーの原罪』(著者のタイザン5先生は、「ジャンプルーキー!」出身)など新しい話題作品が続々と生まれています。
また、「ジャンプ・デジタルラボ」では企画の公募を行っています。そこから実際にサービス化した企画として「マワシヨミジャンプ」があります。
自分では手にとって読まないマンガ雑誌でも、偶然入ったラーメン屋で読んで好きになったり、昔であれば電車の網棚に置いてあったマンガ雑誌を読んだりといった経験をお持ちの方はいらっしゃると思います。
そうしたマンガの回し読みを、位置情報を使ってできるようにしたのが「マワシヨミジャンプ」です。面白いマンガとの出会いを、位置情報というデジタルならではの技術を使って実現できたのは、私自身とても面白い取り組みだと思っています。
「デジタル上の少年ジャンプはどうあるべきか」その思考が結果的にDXに繋がっていた
―― 紙媒体では取得が難しいユーザーの行動データなども収集できるのがデジタルならではの特徴ですが、「少年ジャンプ+」編集部ではどのようにデータを活用されていますか?
もともと「週刊少年ジャンプ」では、はがきで送られてくる読者アンケートが重要な役割を担っており、アンケートをもとに作家さんと打ち合わせをして、読者の反応から連載中の作品のクオリティをどう高めていくかを考えたりしてきました。
一方で「少年ジャンプ+」はデジタルのため、アクセス数や完読率、継続率など、アンケートでは取得できない行動データやリアクションが得られます。そうしたデータを作品をより面白くするために役立てています。
ただ、時にオンラインから得られたデータよりも紙の雑誌のアンケートはがきのほうが機能しているなと思うこともあるんですね。そのため、データ活用の取り組み内容は現在模索中です。
―― お話を伺っていると、「少年ジャンプ+」編集部の取り組みはまさにDXそのものだなと感じました。籾山さん自身はDXをどう捉えていらっしゃいますか?
こうした「少年ジャンプ+」編集部の取り組みがDXであると意識したことはあまりなく、読者の皆さまや作家さんたちに喜んでもらうにはどうすればいいか、「少年ジャンプ+」から面白いマンガをどう生み出すことができるのかばかりを考え続けてきたんですね。
ただ、編集部が多くの新人作家と出会える「ジャンプルーキー!」であったり、日本と同時に世界中で「週刊少年ジャンプ」や「少年ジャンプ+」連載作品の最新話を読めるサービス「MANGA Plus by SHUEISHA」によって連載の人気を世界で拡大しやすくなったことなど、自分たちが「デジタル上の少年ジャンプはどうあるべきか」を考え続けてやってきたことが、振り返ってみればDXだったのだと感じています。
マンガもDXもトライ&エラーを繰り返していくことが大切。1億人の読者が集まる場所を目指して
――「週刊少年ジャンプ」という多くの方から愛されるブランドであることで、逆にブランド価値を損なわないよう、デジタルでの取り組みに制限が生まれることはありませんか?
新しいもの、新しいチャレンジが好きなのが「少年ジャンプ」だと、私は思っています。そのため、「ジャンプ・デジタルラボ」の取り組みのように、これまでなかったようなアプリやサービスを、外部のパートナーと一緒になって開発するといったことにとても肯定的です。
しかし、ブレてはいけないのは新しくて面白いマンガを生み出すことに価値があるということ。そこさえブレなければ、新しいことにどんどん挑戦していけばいいのかなと。もちろん失敗もあるでしょうけれども、そこから気づくことも多いですし、その経験が次に活かされていくと思っています。
ちなみにマンガ雑誌には読み切り作品も多くありますが、まずは読み切りで読者の反応を見ていく、そして読者の反応から連載を始める前に企画をチューニングしたり、あるいは、連載開始の可否の判断をする材料にしたりします。
つまり、デジタルやDXの取り組みもマンガと一緒で、トライ&エラーを繰り返していくことが大切なのだなと感じています。
―― あらためて、デジタル技術を活用した「少年ジャンプ+」編集部の取り組みは、ユーザーにとって、また編集部自体にとって、どういった価値があるとお考えですか?
読者の方にとっては、「少年ジャンプ+」を中心に展開しているさまざまなプロジェクトによって、面白いマンガや新しいマンガと出会えて楽しんでもらえるということが大きな価値だと思っています。
そして作家さんにとっては、「少年ジャンプ+」が、自分の力を発揮でき、才能を開花させ、幅広い読者へ自分の作品を届けられる役割を果たすことができれば、それは価値があることだと思っています。
やはり面白いマンガが世の中に出て、読者の方にも作家さんにも喜んでもらえるというのは意義があり、やりがいを感じますよね。
―― テクノロジーがより進化していく未来に対して、期待していることはありますか? また、今後の展望を教えてください。
もちろん、技術の進化には期待しています。たとえば、昔であればマンガの感想ってクラスメートに伝える程度だったのが、いまであればSNSで遠くにいる人にも、さらには海外にまで感想を伝えられたりと、マンガを通じたコミュニケーションの輪をかんたんに広げられる時代です。
同じように、何かの技術によってマンガとの新しい接し方が生まれてくるでしょうし、面白いマンガが生まれやすくなるような可能性が今後もっと出てくると思うと、とても楽しみです。
現在「少年ジャンプ+」の月間アクティブユーザー数は約1400万ユーザーほどです。今後も新しい技術を取り入れていき、才能ある作家さんがどんどん発掘され成長できる場所にする。そしてここで生まれた面白いマンガを、インターネット環境を通じて世の中に出していき、たとえば1億人の読者が集まるくらいの場所にしていきたいですね。
DX SQUARE編集部より 「面白いマンガを生み出したい」という強い思いでデジタル活用に取り組まれてきた「少年ジャンプ+」編集部様。 |
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