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QBハウスに10分カットの秘密を聞いてみたらすごくDXだった

DX事例 データ活用

デジタル技術の活用によって生まれたサービスの裏側を紹介していくインタビュー連載。第1回となる今回取り上げるのは、店舗数日本一のヘアカット専門店QBハウスです。

サービス提供時間10分を目指すために効率化を図り、進化を続けるQBハウス。街でよく見かける理美容店の裏側をのぞいてみると、そこにあったのはまさしくDXの取り組みでした。しかし「QBハウスでは、DXを全く意識していない」とのこと。いったいどのような考えでデジタル技術を活用して、DXを実現しているのでしょうか。QBハウスを運営するキュービーネットホールディングス株式会社 管理本部 グローバルコーポレートコミュニケーション部の平山貴之さまにお話を伺いました。

創業者の“ちょっとした不満”からQBハウスは生まれた

平山貴之さま

―― QBハウスが行っているDX推進の取り組みについて、教えてください。

最近DXが流行っていますよね。実は、私たちは“DX推進を目的とした”取り組みは行っていません。世の中の流行りを受けて取り組みを始めたのではなく、実は1995年の創業当時からデジタル技術やデータを活用した取り組みを行ってきました。

これまで「DX」という言葉を意識したPRはしていなかったので、この取材のオファーを受けた時も、正直言うと「どうしてウチに?」という思いはありました。(笑)

―― 具体的に、どのような取り組みを行われているのでしょうか?

大きく分けて、2つあります。

1つ目は、店舗の外からおおよその待ち時間がわかる信号機「QBシグナル」の開発です。QBシグナルは、ご来店されたお客様にご購入いただくチケットと連動した仕組みになっています。お客様にはチケットを持って待合席でお待ちいただき、カットの順番がきたら担当のスタイリストにチケットを渡していただきます。スタイリストは、チケットについているバーコードをスキャン。発券した枚数からスキャンした枚数を引くことで、お待ちいただいているお客様の人数がわかるのです。

この人数から、すぐにご案内可能なら青色、5〜10分待ちなら黄色、15分以上待ちなら赤色を点灯させることで、店舗の外からでも待ち時間がわかる状態を実現しています。

QBシグナルQBシグナル

 2つ目は、サービス提供時間を把握し分析するためのシステム開発です。カットサービスの提供時間は、チケットのバーコードをスキャンした時間と、仕上げ時にシャンプーの代わりに毛くずを吸い上げる「エアウォッシャー」の電源をオフにした時間との差分で求められます。この時間を社内でデータとして把握することで、たとえば毎月の平均サービス提供時間が目標値の10分より長い場合は研修を実施するなど、スタイリストの技術・サービス品質の均一化につなげています。

―― デジタル技術活用のアイディアを生み出すことはなかなか難しいのでは思いますが、これらのアイディアはどのように思いついたのでしょうか?

創業者の小西國義が、日々の暮らしのなかで「あったらいいな」によく気づくアイディアマンだったんです。

QBハウスのビジネスモデル自体も、小西のちょっとした不満から生まれました。当時小西は、ヘアカットからネイル、靴磨きまでを手がける男性向けの総合理美容店に通っていました。ある日、小西は仕事で忙しいためヘアカットのみをお願いしたのですが、寝てしまったそう。「あまりにも気持ちよさそうに休まれていたので、そっとしておきました」との対応に、「急いでいるのに」と憤りを感じたそうです。そこから、時間のない忙しい人でもサッとヘアカットサービスのみを受けられる理美容店、QBハウスを思いついたのだとか。

さらには「待ち時間が店舗の外から見られれば、面倒な予約をしなくていい」という発想でQBシグナルを考えついたり、「毛くずをシャンプーで流すのではなく、吸い上げてしまえば時間短縮になる」という発想からエアウォッシャーを生み出したり。理美容業界に対しての知識がなかったことが功を奏して、まったく新しいアイディアを思いつけたのだと思います。

―― 数々のアイディアの根底には、時間を大切にされる創業者の思いがあったのですね。

そうですね。この思いは、“LESS IS MORE”というQBハウスの存在意義として、受け継がれています。“LESS IS MORE”とは「余計なことや無駄を省き、本当に大切なことだけに集中していくことで、人、社会、地球環境は、もっと豊かになっていく」という価値観のことです。これにもとづき、「重複する作業はないか」「業務を効率的にこなせているか」という点検も社内で日々行われています。

お客様により豊かで快適な生活を送っていただくために

QBハウス

―― 画期的なアイディアをベースにしたデジタル技術の活用で、お客様にはどのような価値を感じていただけるとお考えでしょうか?

時間の有効活用につなげられることです。通常の理美容店だと、休日に予約を入れて、その時間に合わせて自分のスケジュールを調整していくので、ヘアカットがひとつのビッグイベントになってしまいます。しかしQBハウスなら「今日の会社帰りに行ってみようかな」「空いてたら行こう」というように、ちょっとした隙間時間でご利用いただけます。すると、休日を有効に使えるようになりますよね。

空いた時間で、家族と楽しいひとときを過ごしたり趣味に没頭したりと、より豊かで快適な生活を送っていただきたい。まさに“LESS IS MORE”の考えがお客様のメリットに繋がるのだと思っています。

―― 反対に、QBハウスとしてデジタル技術を活用したサービスを提供することの価値を教えてください。

身近なところでは、シャンプーをしないことから、手荒れを起こしにくかったり中腰の姿勢による腰痛を防げたりと、スタイリストが働き続けやすい環境を作れています。

さらに広い視点で見ると、最大のメリットは競合他社との差別化を図れることでしょうか。
私たちは“LESS IS MORE”を実行するための視点として「省力」「省手間」「省時間」「省資源」を掲げています。いきなり完成形にアプローチする手数の少ないカット方法を選択すること、予約など不要な手間を省くこと、お客様の時間を大切に、10分でヘアカットを終えること、そしてシャンプーを行わないことによる節水や脱炭素化など資源を大切にすること。これらの考え方はQBハウスならではのものです。

またこれらの取り組みにまつわるデジタル技術の活用やシステム開発を自社で行うことで、さらなる競合他社との差別化に繋がっているのだと思います。

自社開発だからこそできる、お客様や店舗の声を活かしたトライアンドエラー

平山貴之さま

―― 自社開発が他社との差別化に繋がっているとのお話でしたが、そもそもどのようなお考えから自社開発を始められたのでしょうか?

理美容店のビジネスモデルにデジタル技術やデータを活用するというノウハウを、社外に出さずに独自の財産として守りたかったからです。1000円カットサービスの理美容店は増えてきており、サービス内容自体が類似したものは増えてきているのですが、ビジネスモデルやシステムの仕組みは真似られていない。これはQBハウスの大きな強みだなと感じています。

―― システム開発はどのように進めているのでしょうか?

蓄積されたデータやアンケートなどからお客様の声を拾い上げ、開発や改善に反映させながら、トライアンドエラーを繰り返しています。例えば、かねて提供していたアプリサービスの機能がお客様にあまり使われていないというデータを受け、サービス運用を停止。代わりに、姉妹ブランドのFaSSで展開していた専用アプリのQBハウス版を新たに作成し、現在は試験導入して使われ方の分析を進めています。

また社員みんなで意見を出し合う社風があり、こんなのできたらいいよねという社内からの要望の声も積極的に反映しています。たとえば店舗の待ち時間はQBシグナルを見ればわかりますが、シグナルを見るには店舗まで足を運ばなければいけませんよね。これに対して「どこにいても待ち時間が見えるともっと便利だよね」という声が社内で上がったのをきっかけに、システムのアップデートに着手。現在はHPでも待ち時間が一目でわかるようになりました。

―― データだけでなく、社員一人ひとりの視点や声も大切にされているのですね。

そうですね。店舗から不具合の報告や改善の声が上がると、システム部門の担当者は店舗へ直接話を聞きに行くんです。「何が原因でそうなってしまったのか」を自分の目で見て確かめる、そこでの気づきをよりよい改善へ繋げているのだと思います。

また本社では定期的に人事異動を行っており、社員は多様な仕事を経験しながらキャリアを積んでいます。メンバーが担っていた業務や代理店さんにお願いしていた仕事まで自分たちで経験してみることで、視野が広がり、新しい気づきが得られるもの。そうして身につけた“さまざまなことに気づく癖”が、サービスや開発を前進させるアイディアを生むことにつながっています。

―― 蓄積されたデータや日々上がる声をもとにPDCAを回していくためには、経営層の意思決定スピードも重要になってくるかと思うのですが、経営層の方のシステム開発に対する姿勢はいかがでしょうか?

かなり積極的だと思います。経営層を交えた会議が月1回あるので、そこで次回のシステム開発・改善について話し合っています。だいたい3,4年に1回は大幅なアップデートやアプリのリリースなどを行っていますね。これは「みんなと同じことをやっても発展は望めない。開発したものを常にバージョンアップしていかないと、人はいつか飽きてしまうし、進化は止まってしまう」という、小西の意志が受け継がれています。

失敗を恐れず、新しい技術を活用して進化し続けることが大切

平山貴之さま

―― QBハウスでは、DXをどのように捉えていますか?

とてもワクワクするものだと思っています。AIなどデジタル技術の発達によって、「こんなことができるようになるんじゃないか?」と新しいアイディアが湧き出てきます。人の仕事が奪われるなどネガティブな印象を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、QBハウスは“LESS IS MORE”に則って「新しい技術はどんどん活用して、進化していこう」というポジティブな考え方をもっていますね。

―― まだデジタル活用に積極的でない企業もいらっしゃると思います。そんな企業に向けて、最後にアドバイスをお願いします。

やはりシステム開発には、多くの時間と労力、そしてお金が必要なので、なかなか足を踏み出しにくいですよね。ただ、だからといって何もやらないのはもったいない。失敗を恐れずにまずは挑戦し、失敗したときには「そこから何を学んだのか」を考える姿勢で取り組むことが大切だと考えています。


DX SQUARE編集部より

アナログと思われがちな理美容業界で、お客様や働く人の満足のためにデジタルを活用されてきたQBハウス様。「DXを特段意識していない」とお話しされていたことは印象的でしたが、創業以来の取り組みには、まさにDXを実現するために必要なエッセンスが凝縮されていました。

私たちのまわりにあるサービスや製品の裏側には、企業やそこに携わる人たちのたゆまない努力があります。デジタル活用を推進して顧客や従業員への価値を高める活動をする人や企業に、IPAはこれからも光を当てて取材をしていきます。

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