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【前編】「現場スタッフ含め、全社員IT人材化を目指す」星野リゾートのDX推進・デジタル化の取り組み

DX事例

DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれているなかで、「どうやってDXを進めていけばいいかわからない」「デジタル人材が社内にいない」などの課題を抱えている企業も多いでしょう。

そこで本連載では、DX推進事業に成功した企業へ事業の進め方や課題、苦悩などをインタビュー。第1回となる今回取り上げるのは、 “星のや東京” や “リゾナーレトマム” をはじめ、さまざまなホテル・旅館を運営する星野リゾートです。

星野リゾートでは、コロナ禍に対応して大浴場の混雑状況を可視化したアプリ開発やGoToトラベルキャンペーンの自社予約システムの開発、そして結婚式のオンライン参列サービスやふるさと納税キャンペーンの実施など、顧客のニーズや社会の情勢に対して素早いデジタル対応を実現してきました。

そして現在「全社員IT人材化」を掲げる星野リゾートですが、過去には「システム担当者がひとりしかいなかった」という時期もあったそう。そんな星野リゾートでは、どのようにしてDX推進・デジタル化を進めていったのでしょうか。星野リゾートのデジタル化を推し進めてきた情報システムグループの久本英司さまにお話を伺いました。

システム担当者がひとりしかいなかった星野リゾートがいま「全社員IT人材化」を目指す理由とは

久本英司さま

―― いまではGoToトラベルキャンペーンの予約システムを自社開発するなど、迅速なデジタル対応を行われていますが、そうした星野リゾートにおけるDX推進、デジタル化にはどういった経緯があったのか教えてください。

久本:私は2003年に入社しており、実は2006年までシステム担当は社内に私ひとりだけという状況でした。当時の星野リゾートはいまほどの事業規模もなく、長野県にある中小企業のひとつという状況でしたので、システムというシステムがほぼなかったんです。さらに当時は紙の業務が中心でしたので、まずは紙の業務をデジタル化していくところからスタートしました。

そして少しずつ会社の規模が大きくなるにつれて、さまざまな業務のIT化に取り組んできました。当然ながら社内のシステム担当は私ひとりだけですので、外部のパートナー企業と一緒に開発していきます。しかし、星野リゾートが目指す方向性を理解してもらい、柔軟に開発できる体制を取るためには、細かく仕様を決めて開発するような、言ってしまえば仕様の変更がしづらいウォーターフォール型の進め方だと限界がありました。そこで、星野リゾートとしてやりたいことを即座に実現できるようにするためにも、システムの内製化が必要であると考えるように。

また、時代が進むにつれて顧客接点そのものがデジタル化していき、ビジネスとITを一緒に考えなければいけないと世の中では叫ばれるようになっていきます。それは星野リゾートでも同じで、これまでデジタル化に興味をあまり示していなかった経営層も、いよいよ本腰を入れる必要があると捉えたことで、DX推進、デジタル化という方向性に舵を切るようになりました。

―― そのあと、星野リゾートでは「全社員IT人材化」を掲げるにいたるわけですが、その背景を教えてください。

久本:まずホテルを運営する企業として、私たちにはヒルトングループなどの大手グローバルチェーンホテルを展開する競合他社がいて、そうした競合と比較すると私たちの事業規模はまだまだ小さいんですね。

さらに、そうしたグローバルチェーン展開する競合のシステム部門に300人の社員がいたとすると、予算が限られリソース面でも劣る私たちが競合優位性を保つためにはどうすべきか――そこで考えたのが、現場で働く社員含めて全社員3,500人が「IT人材」となることが星野リゾートの強みになるのではという着想でした。

星野リゾートの考える自前化情報システムチームメンバーの半数以上が現場出身者で構成されている。

 というのも、星野リゾートでは現場のスタッフ自らがイノベーションを行い、価値提供を行っていこうという思想や働き方があり、一人ひとりの従業員がフロント業務やレストラン業務などのさまざまな業務に携わる「マルチタスク制」を設け顧客理解を高めたうえで、現場主導で魅力開発、サービス改善、業務改善を行っています。

こうしたマルチタスク制は競合他社がやっていない運営方法であるため、独自のオペレーションであるがゆえに、業界標準のシステムが使えません。そこで外部パートナーとともにオリジナルのシステムをつくってきたのですが、より迅速に改善していくためには内製化が必須。

昨今は専門的なプログラミング言語の知識を必要せずとも、視覚的な操作でプロダクトをつくれるツールも増えています。現場のスタッフがマルチタスクのひとつとして「IT活用」のスキルを身につければ、現場主導でITを用いた価値提供、業務改善を進めていくことができると考えました。つまり、エンジニアがつくるプロダクトだけでなく、ノーコードでつくるプロダクト、そしてそれらを掛け合わせたプロダクトの3つを全社員でつくっていき、より早く改善しやすい状態を目指していこうというのが、全社員IT人材化を掲げた背景になります。

それが実現できれば、競合他社に対して「プロダクトをつくれる現場のみんながいる」ことが大きな競争力になると思っています。


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