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ロボットが調理&配膳! ケーブル製造装置メーカーのHCIがロボカフェを始めたワケ

DX事例 製造業

DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれているなかで、「どうやってDXを進めていけばいいかわからない」「デジタル人材が社内にいない」などの課題を抱えている企業も多いでしょう。

本連載では、DX推進事業に成功した企業へ事業の進め方や課題、苦悩などをインタビュー。第5回となる今回取り上げるのは、配膳・運搬用ロボットなど、さまざまなロボットシステムの開発・製造を手掛ける株式会社HCIです。

もともとはケーブルやワイヤーなどの製造装置を製作・販売を行っていた同社が、なぜロボットのシステムインテグレータ事業を手掛け、ロボカフェをオープンするにいたったのか、また同社のロボットシステムが現場のDXにどう活用されているのか、そこにいたるまでの苦悩や課題などについて、代表取締役である奥山剛旭社長にお話を伺いました。

ロボットが世界の人手不足問題を解決する。その信念がDX推進のモチベーションだった

―― ロボットのシステムインテグレータ事業をはじめたきっかけを教えてください。

もともと当社は、ケーブル製造装置のメーカーとして2002年に創業しました。髪の毛より細いケーブルを撚線(よりせん)する機械(撚線機)を開発し、それ以来さまざまな撚線機ほかケーブル製造装置の製造・販売を行っていたのですが、2008年のリーマンショックによって撚線機の販売が低迷。そこで改めて、今後どういった企業として目指していくべきか、私たち自身が何をしたいのかを考えたんですね。

そこで原点として思い出したのが、ロボットでした。私自身がガンダム世代ということもあり、ロボットがとても好きだったんです。そして、今後人手不足が各業界でより深刻になっていくなかで、ロボットであれば業界の垣根関係なしに必要になってくる時代がくるだろうと。
そこで2009年にロボットシステム初号機を納入し、ロボットシステムインテグレータとして自動化機械の製作、販売を開始したのが、当社での変革のスタートでした。

―― それまで扱っていなかったロボットを事業化するにあたって、どんな課題や苦悩がありましたか。

ひとつは、AIの開発ができるIT系の人材がいないことでした。というのも、ロボット事業を始めた当時は、PLC(*)を制御し、ロボットをコントローラで制御するのみで、既存のロボットシステムではできないことがたくさんありました。ロボットが自ら考え、タスクをこなすためには、高度なロボットシステムが必要。しかし都心以外にはAIベンチャーも少なく、AIについて学べる機会が多くはありませんでした。
*PLC(Programmable Logic Controller、プログラマブルロジックコントローラ):主に製造業の装置などの制御に用いられるコントローラ。入力機器からの信号を取り込み、プログラムによってさまざまな処理が行われ、接続された出力機器を制御する。

そんな中、大阪のある場所でAIを学んでいる学生たちがいることを知り、そこへ一人で行きました。彼らは概論を学んでいるものの、学んだことを実践していく環境がなかったんですね。そこで「多くのロボットがあるHCIに来て、一緒にやらないか」と提案し、まずは一緒に学んでいくというスタンスで共同研究がスタートしました。

もちろん、学生を巻き込むのも簡単ではありませんでした。ただ、地域を巻き込んでいこうと、我々の本社がある大阪府泉大津市の市長や商工会議所にも声をかけていたんです。もともと泉大津市は毛織物業が盛んでしたが徐々に産業が衰退しており、市として、新しい産業を模索している状況で、「泉大津市をロボットの街にしたい」という我々の話に共感してくださり、動いてくれました。
その結果、学生たちも「市長やHCIの社長自らが動いてくれ、自分達を招致してくれるなら」ということで、泉大津市に転居までしてくれ、取り組みを進めてくれるようになっていきました。

もうひとつの課題として、資金面と実装面も非常に頭を抱えました。ロボットシステムを1台購入するにも1,000万円以上と高額なうえ、マニュアルにないことをどう実現するかが非常に難しいんです。
たとえば飲食店において、料理をつくる産業ロボットと配膳・搬送用のサービスロボットをいかに通信で繋ぎ合わせるか。ロボット単体のマニュアルはあっても、産業用ロボットとサービスロボットを繋ぐ部分にはマニュアルがないので手探りで構築します。ですので、一つひとつの実現が難しく、心が折れそうになるのですが、社員達はそれにめげず、とても前向きに、面白いと感じ、がんばってくれます。

―― そうした課題や苦悩を乗り越えていくうえでのモチベーションとなった信念はなにかあったのでしょうか?

やはり人手不足問題が深刻化していくなか、技術の掛け合わせで産業の垣根のないロボットシステムを世の中に広く提供することが期待されていると思っています。
その期待に応えることで、会社の代表として社員を守っていけるし、社員に喜んでもらうこともできる。さらには、地域を、日本を、そして世界を救っていける。そういったことを実現するのだという思いが我々の大きな信念としてありました。

さまざまなことを意思決定できる社長自らがDX推進の旗振り役にならなければ、DXは実現しない

―― 現在、貴社の手掛けるロボットシステムはどのような場面で活用されているのでしょうか?

当社は「スマートファクトリー、スマートな医療、スマートな店舗・サービス」という3つを掲げており、スマートなサービスの一例として、泉大津市立図書館の事例が挙げられます。

泉大津市立図書館では10万冊を超える図書が所蔵されており、検索システムで読みたい本を探しても、実際に目的の書籍がある棚までたどり着くのが大変であったりします。そこで当社が納入した案内ロボットが該当する棚まで連れて行ってくれるという取り組みを行っています。

ほかにも図書の整理・管理を行う図書館司書の業務削減のため、該当する棚へ書籍を運んだり、本来あるべき棚にない図書を探したりすることもロボットが行うように。そういった不明本というのは日常茶飯事で、人手で棚卸ししようとすると1週間かかったりするんですね。そうした作業をロボットが担えるようになり、司書はより来訪者に対する接客に時間を当てられるようになっています。

さまざまなサービスロボット(写真提供:HCI)

また、最近では席の案内から調理、配膳、下膳、巡回サービスまですべてをロボットが行うロボカフェ『HCI ROBO HOUSE』をオープンしました。社員においしいものを食べてもらいたいという思いと、社員の健康のために社員食堂を作ろうと決めましたが、普通の社食では面白くない。弊社が長年培ってきたロボットシステムインテグレート技術でロボットによるロボカフェを作れば、そのまま展示場にもなり、一般の方にもご覧いただける。

このロボカフェでは調理を担う産業ロボットと配膳や案内を行うサービスロボットを導入しています。そしてモバイルオーダーの仕組みを提供する企業と提携して、予約や決済もオンライン上で行い、食べ終わったらそのまま退店できる仕組みになっています。

昨今はアルバイトを募集してもなかなか働き手が集まらなかったり、サービス均一化のための教育コストなど、さまざまな課題を飲食業界は抱えています。こうしたロボットによる飲食業界のDXというのは必ず必要になると考えています。

HCI ROBO HOUSE(写真提供:HCI)

 

産業ロボットの調理した主食、主菜、副菜を、サービスロボットが運ぶ(写真提供:HCI)

 飲料自動陳列ロボットシステムや病院での給食配膳ロボットシステムも提供しており、スマートな店舗・サービス、そしてスマートな医療の領域での展開を今後も進めていく予定です。

また、スマートファクトリーの領域では、工場での作業をすべてデータとして集積・分析を行い、ロボットだけで工場稼働ができるようにすることに取り組んでいます。

―― そういったさまざまな領域でのDX推進を実現させていくためには、どういったことが必要であるとお考えですか?

まずは、ユーザー目線を持つことです。ユーザーとデジタルサービスを提供する側の目線は絶対に違うため、常に「これはユーザーにとっていいことなのか」というユーザー目線に立って物事を見ることが重要であると思います。

そしてもう1つ重要なのが、DXを必ず実現するぞという強い意志です。会社の経営層、とくに社長自身が絶対にDXを実現するんだという意志がなければ実現しないと考えています。
なぜなら部長や店長クラスがDXを実現したいと思っていても、DX推進にはお金もかかりますし、都度経営判断が求められるため、そういった意思決定ができるのはやはり社長しかいません。社長自らが旗振り役としてDX推進を進めていくことが、成功の鍵であると思います。

会社の成長だけを見ていてはDXは失敗する。人ありきで考えることが重要

―― 改めて貴社のDX推進を振り返り、これからDX推進に取り組む企業担当者へのアドバイスをお願いします。

会社の成長スピードと社員の成長スピードのギャップを常に意識することが大切です。なぜなら会社、事業だけが大きく成長していったとしても、社員の成長が追いついていなければ、どこかで歪が生まれてしまい、良いものは生まれないからです。

また、どう成長していくかと考えたときに、会社として目指していくベクトルと社員のベクトルを合わせていくことも大切です。当社でもHCIフィロソフィー勉強会というのを開催し、みんなのベクトルを合わせていく取り組みを行っていますが、常に人ありきで考えることがDX推進においても重要であると思います。

―― 最後に今後の展望をお聞かせください。

当社は、関西国際空港から近い泉大津で、企業から一般の方までロボットを身近に体感してもらうためのロボットセンターやロボカフェを設立するなど、ロボットシステムのインテグレータとして、ロボットの普及活動を行っています。
訪日外国人がまた増えてきたときには、海外の人にも「自社でこのロボットを導入したい」と思ってもらえるような環境を整えていき、ニッチグローバルな企業を目指していきたいですね。

また、Windows OSの普及によってパソコンが簡単で安くなり、一般の方がパソコンを使うようになったのと同じように、ロボットも簡単・安いというのが揃えば今以上に普及していくだろうと考えています。
すでに産業ロボットの生産台数は過去最高を更新していますが、サービスロボットの領域においても、我々がそうした新しい時代をリードしていけるよう進めていきたいと思っています。

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