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DXに必要なのは「おせっかい」ができる人? デジタル人材育成について中部DX推進コミュニティに聞いてみた

DXを進める人材がいない、足りない、という悩みをよく聞きます。

IPAが2023年2月に公開した「DX白書2023」の調査でも、DXを推進する人材の「量」について、日本企業の8割以上が「不足している」と答えています。しかし、不足していると言いながらも、DXを推進する人材像を設定していない日本企業は4割にも上ります。

必要な人材像を設定しないままでは、人材を見つけることも育成することも難しいでしょう。
私たちは人材不足をどのように乗り越えていけばよいのでしょうか。そもそも、不足している人材とはどんな人材なのでしょうか。

現在、国内の各地域では自治体などの公的機関や企業、大学等の教育機関が連携して、企業のDXを支援する動きが活発になってきています。

そのうちの1つが、IPAも参画する「中部DX推進コミュニティ」です。

中部DX推進コミュニティには、中部地域の公的機関や大学、経済団体などの19の機関(2023年3月現在)が参画。これらが協働して、地域企業の規模・強み・抱えている課題、取り組み段階に応じた支援体制の構築を目指しています。

今回は、企業との対話を通して浮かび上がってきた「デジタル人材育成・活用」の鍵となるポイントについて、中部DX推進コミュニティを運営する中部経済産業局 地域経済部次世代産業課の江間様、吉田様にお話を伺いました。

DXに必要なのは、司令塔とそれを支えるサポート人材

DXに必要な人材とは?

―― 中部DX推進コミュニティで実施している「デジタル人材育成・活用」関連の活動について教えてください。

2022年3月、中部DX推進コミュニティが発足しました。
公的機関や大学、経済団体など中部地域の産学官19機関が結集して、企業のDX推進のためにモデルケースを集めたり、支援策をとりまとめて情報発信しています。

私たち中部DX推進コミュニティの活動に「ミニコミュニティ」という研究会的な取り組みがあります。そのうちの1つのテーマとして、「デジタル人材育成・活用」について対話を進めてきました。

2022年度は、⼤⼿⾃動⾞部品メーカー、⾷品卸売や⼩売のサービス業、中堅・中⼩製造業、DX認定を取得されたスタートアップなど、様々な企業をゲストに迎えて、5回の意⾒交換を行いました。コミュニティ側の参画機関は、名古屋大学や名古屋工業大学、三重大学などの教育機関と、中部経済連合会や名古屋商工会議所といった経済団体ですね。

ミニコミュニティでは、デジタル化やDXに取り組む際に必要となる社内の体制や、必要な人材像について主に議論してきました。具体的にどのような支援が企業に求められているか、というディスカッションを重要視しているのが、このミニコミュニティの特徴です。参画機関が企業ニーズを聞き取りながら、個々の支援メニューに反映させていこうと進めてきました。

―― どんな課題が浮かび上がってきましたか?

様々な企業と対話を重ねていくと、「企業の変革をしていける体制を社内に作っていくのが重要」というポイントが浮かび上がりました。特にみなさん「社内に」という部分を強調されていました。地方は人材確保が厳しい時代ですし、この中部地域であれば自動車産業がこれから変革期を迎える中で自社がどう変わっていくべきなのか、みなさん不安に駆られているところもあります。

企業規模に関わらず、DXの実現は「企業の変革」が目標です。会社全体でそれを共有することから始めて、しっかり社内を巻き込んでいく。そのためには、DXを推進する人材が社内にいることが鍵になります。

ではDXに必要な人材はどういう人なのか。また、その人材だけでなく、社内全体の体制としてどのような機能を持たせてDXに取り組んでいくのかという観点で、整理してきました。

一番重要だとみなさんおっしゃるのが、「社内全体を巻き込んでDX戦略を描ける人材」

私たちはこれを「DX推進人材」と定義しています。「司令塔」となる人です。こういった人材が特に社内に必要、というところがポイントだと思います。

DXには、司令塔となるDX推進人材と、それをサポートするDX推進チームが必要。中部DX推進コミュニティがまとめた「DXを成功に導く社内体制と『DX推進人材』」を基にDX SQUAREにて作図

―― 「司令塔」となるDX推進人材にはどんな役割が求められるのでしょうか。

「司令塔」は、経営ビジョンに基づいてDX推進戦略を策定します。また、戦略目標の実現に向けて企画をしたり、推進の管理をします。

経済産業省が2022年12月に公開した「DX推進スキル標準」に「ビジネスアーキテクト」という人材類型があります。「司令塔」というのは、このビジネスアーキテクトの定義に近いと思います。

変革をリードしていける「司令塔」人材を、いかに社内で育成していくのか。それを重要視する声が多かったですね。

この人材は、データの裏付けをもって経営者に説明ができる。つまり、会社をどうしていきたいのか、経営者とたくさん話ができる人。かつ、現場に何度も足を運んで、現場の困りごとを吸い上げながらいいものを提案していく。現場とデジタルの両方を理解して、全社的な見地から解決策を提案できる人でもあります。

司令塔に求められる役割とは、経営ビジョン基づくDX戦略を策定すること。戦略目標に向けた企画や推進の管理をすること。

しかし、このような人材が1人いればいいというわけでもありません。

司令塔を支えるサポート人材として、データサイエンティストであり、サイバーセキュリティであり、専門性をもった方々が司令塔を助けていかなければなりません。

―― 「サポート人材」には、どんな役割が求められるのでしょうか。

サポート人材とは、専門性の高いデジタルスキルを活用して、司令塔となるDX推進人材を支える人材だと整理しました。

「DX推進スキル標準」では「デザイナー」や「ソフトウェアエンジニア」、「データサイエンティスト」、「サイバーセキュリティ」といった人材類型で示されています。そのようなスキルをもった方が、「DX推進チーム」を編成するイメージで考えています。

このチームは、現場であったり、事業部門であったり、現場のキーマンとつながって、いかに現場を巻き込んでいけるかということも重要です。社内の関係部署を巻き込むという意味では、コミュニケーション能力が高くて、社内を巻き込んでおせっかいができる人もDX推進には必要です。

DX推進チームに求められる役割は、DX推進人材をサポートすること。専門性の高いデジタルスキルを活用すること。

DX推進人材が活躍するのに重要なのは、やっぱり組織文化づくり

―― 「デジタル人材育成・活用」の取り組みでわかった、DX実現のために最も重要なことはなんですか。

DXで何をやっているのか、というところを企業の方にお話しいただくと、社長の思いや経営ビジョン、どうやって会社を変えていかなければならないのか、という話になります。

「デジタル人材育成・活用」がテーマのミニコミュニティではありますが、結局のところ、DXの実現のためには、「企業変革」が目標であることを会社全体で共有するところから始めることが最も重要です。

それには「組織文化づくり」が必要であると整理しました。

既存のビジネスモデルを変えていくというのは、現場の人たちの理解なしにはなかなか難しいものです。変革していくという経営者自らの強い意思や、それを明文化した経営ビジョンを、「企業文化」として醸成していかなければなりません。そこをみなさん強調されていました。

―― 経営者に必要なことはなんでしょうか。

明確な経営ビジョンを策定することです。また、経営者が「司令塔」となるDX推進人材を指名しその後ろ盾となることですね。

経営ビジョンとはつまり、会社をどう変えたいか、そのためにデジタルをどう活⽤したいのか明確にするということ。

また、本気で進めることを⾔い続けること、本気で進めるためには推進体制を明確にすることが重要です。
加えて、社員の実感や感動や幸せを軽視しないこと。そのためには、組織の文化を変革しなければならない、ということも企業との対話のなかで整理されました。

経営ビジョンと推進体制を明確にして、そしてDX戦略を継続的に発展させていくには、やはり現場の理解が必要不可欠です。

先進的な事例も見てきましたが、日々の課題に対してデータを活用した解決策が現場から出てきたり、アイデアが上がってくるような、そういった好循環を生み出しているフェーズに入っている企業が多かったかと思います。そういった意味でも、現場を含めた全社員のデジタルリテラシーが必要ですね。

DX推進人材が1人いればいいというわけでもない。現場のリテラシーが上がっただけでも足りない。会社全体として、経営者がいて、引っ張る人がいて、そして現場も巻き込んでいく。会社全体の意識を醸成していくために、経営ビジョンや戦略をしっかり作っていく。
DXを実現していくためにはそれが非常に重要ではないか、ということで、私たちコミュニティでまとめているところです。

“推進チーム“の成功事例の秘訣は「現場との融合」

大野ナイフ製作所 IoT推進チームの現場でのコミュニケーションの様子(中部DX推進コミュニティ ポータルサイトより)

―― デジタル人材育成や体制づくりがうまくいっている事例を教えてください。

たとえば、大正5年創業の刃物製造卸である大野ナイフ製作所様は、社内のDX推進体制として「IoT推進チーム」を作って取り組みを進められています。

大野ナイフ製作所様の現在の主な顧客は、海外の富裕層。少量多品種生産で、高い品質を保ちながら安定供給を果たすことが求められる中、課題は多かったといいます。

100以上の工程の自動化・見える化のため、ベンダーとの協働で「MES(製造実行システム)」を導入。手作業の記録はタブレット、古い設備のデータはクランプ信号、その他のPLC(プログラマブルロジックコントローラ)からのデータを収集・分析して、データに基づく生産指示などもしています。

また、BIツールの導入で責任者が進捗状況をリアルタイムで把握できるようになり、作業者のフォローがしやすく、先々の生産計画も踏まえながら適切な人員配置も検討できるようになりました。

これらのITシステムと生産現場、作業員の融合を実現したのが、6名で構成された「IoT推進チーム」です。

IoT推進チームは生産技術部内に設置され、「現場とデジタルの両面に強い人材」の育成を目指しています。それはつまり「集めたデータを現場の実情にあわせてどう活用すればいいかベンダーに提案できる人材」です。現場への丁寧なヒアリングを重ね、現場とのコミュニケーションを密にすることで、新たなアイデアが現場から寄せられるようになり、ツールのカイゼンにつながっています。

くわしくは、中部DX推進コミュニティ ポータルサイトの事例もご覧ください。
株式会社大野ナイフ製作所 取組事例(中部DX推進コミュニティ ポータルサイト)

DXにチャレンジする企業を増やしたい

中部DX推進コミュニティポータルサイトイメージ中部DX推進コミュニティ ポータルサイト

―― デジタル人材育成・活用を企業が進めていくため、中部DX推進コミュニティは何を目指していきますか?

各参画機関の具体的な支援メニューは既に展開されていますが、ミニコミュニティに参画された教育機関や経済団体からは、これまでやってきた取り組みに足りないところやフォーカスを当てるべきところが明らかになった、という評価をいただいています。

たとえば大学だと、プログラミングできる人材だけでなく、課題を発見する力や解決する力を養成するようなプログラムを講義の中に取り入れる、というようなことですね。
今後、今回の成果を、コミュニティの参画機関がそれぞれの役割の中で活かしていくことが期待されます。

また、コミュニティのポータルサイトでは、先ほどの大野ナイフ製作所さんの例のように企業の取り組み事例を掲載しています。

私たち中部DX推進コミュニティの大きな目的は「DXにチャレンジする地域企業を増やす」ことです。

DXは、企業規模に関わらず取り組むことができます。大企業は人材は豊富かもしれませんが、全員が同じ意識でDXに取り組むためには相当な苦労をされているとの声も聞いています。会社全体を動かすという意味では、中小企業のほうが実現できることも多いかもしれません。

中部DX推進コミュニティのポータルサイトでは、「あそこががんばっているなら、うちも何かできるかも」と思ってもらえる身近な事例について、特に各社の取り組みのプロセスにフォーカスを当てて情報発信をしています。今後も様々な事例を紹介していく予定です。

コミュニティについて知りたい方は、ぜひポータルサイトもご覧ください。
中部DX推進コミュニティ ポータルサイト

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