【製造業】DX(デジタルトランスフォーメーション)推進事例6選
DX事例 製造業さまざまな業種・企業においてDXへの取り組みが活発化しています。しかし、製造業の、とくに製造現場においてはIT活用の範囲が限られると考えられ、具体的に何から取り組めばよいのかわからない企業も少なくありません。また、そもそもDXとは何のことなのか、いまいちよくわかっていない経営者や担当者も存在します。
そこで今回は、まずDXの意味や製造業においてDXが重要な理由を解説したあと、実際に製造業で取り組まれているDXの事例を紹介します。
製造業にとってDXが重要な理由
はじめに、DXの意味や定義についておさらいするとともに、製造業がDXを推進することの重要性と、どのようなメリットがあるのかについてもくわしく解説します。
そもそもDXとは何か
DX(Digital Transformation)とは、デジタル技術によって、ビジネスや社会、生活の形・スタイルを変える(Transformする)ことです。2018年12月、経済産業省では「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」を公表し、このなかでDXを以下のように定義しました。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
現在の業務を効率化・自動化するのみにとどまらず、デジタル技術を活用してビジネスそのものを変革していくことがDXの本質であるといえるでしょう。
生産性の維持・向上
カイゼンを行い生産性を向上させることは、製造業にとって永遠の課題です。近年ではIoT等のデジタル技術を活用することで、生産工程を見える化したり分析できる範囲も広がっています。
また製造現場では、さまざまな生産機器や設備などのシステムが稼働しています。しかし、従来のシステムが老朽化することで、保守・メンテナンスに莫大なコストがかかるようになり、生産性の低下を招くことが懸念されています。
IT分野でもERPの保守サポートの期限切れから来る「2025年の崖」が問題になっていますが、これと同様に、上記の設備の老朽化問題が製造業界だけでなく各業界で顕在化しはじめ、最大で年間12兆円もの経済損失が生じるといわれています。
しかし、DXを実現することで生産設備の故障予測なども可能となり、生産ラインの停止を抑止するとともに生産性も維持できることが期待されています。
変化し続けるビジネス環境への対応
デジタル技術を応用した生産機器や設備が次々と導入されるなどの目まぐるしい技術革新によって、生産現場の環境はどんどんと変化しています。また、少品種・大量生産の時代は過去のものであり、現在はニーズの多様化にともない多品種・少量生産の時代ともいえるでしょう。
このような社会情勢や消費者が求めるニーズの変化に対応し、製造業は従来型のビジネスモデルから脱却し新たな価値を提供する必要があります。変化に柔軟に対応するためには、ITシステムによって得られた膨大なマーケティングデータを分析し、製品開発に役立てることが重要です。
BCP対策
毎年のように発生している大規模な自然災害に加えて、感染症の流行といった新たな脅威も出てきたことにより、企業にはさまざまなリスクに対応できるようBCP対策が求められるようになりました。
多くの製造現場では、従来から人材不足への対応が課題でしたが、今後は不測の事態に備え、作業員が現場にいなくてもオペレーションが遂行できるような環境が、BCP対策の一環として求められます。これにはデジタル技術の活用が不可欠であり、製造プロセスの効率化・自動化がさらに促進されるでしょう。
製造業のDX事例集〜大企業編〜
これまでも、製造業では現場によるカイゼンが繰り返され、効率化が進められています。しかし「DX」となると、具体的にどのような取り組みをすればよいのかわからないケースもあるでしょう。そこで、ここからはDXに取り組んでいる企業の事例をいくつか紹介します。まずは大企業編として、3社の取り組み事例をピックアップします。
ヤマハ発動機株式会社
主に小型船舶やバイクといった製品の開発を手掛けるヤマハ発動機では、DXの具体的な取り組みとして電動化や自動化の実現を積極的に進めています。
たとえば、小型自動車の自動化やコネクテッドカー(次世代移動通信システムを備えた車)を実現することにより、温室効果ガスの排出量削減や交通渋滞の緩和といったさまざまな社会課題の解決に繋げています。これらを実現するためには、AIや次世代の情報通信ネットワークなどのデジタル技術が必要不可欠です。
株式会社小松製作所
建設機械の大手メーカーである小松製作所では、自動運行システムを搭載した建設機械とそのプラットフォームの構築に向けて取り組んでいます。
建設現場や鉱山作業の現場、農林業の現場などでは、運転操作をひとつ誤ると重大事故に繋がる可能性があり、熟練のテクニックが要求されます。作業員の安全性を確保するためにも建設機械の自動運行システムは不可欠であり、作業現場における安全衛生向上の観点からも将来性が期待されています。
また、IoTやAIを活用した業務改革にも積極的に取り組んでおり、建設機械のわずかな異常を感知し故障を予測するシステムや、その技術を応用したスマートファクトリー(AIやIoTを活用した、生産性が高く高効率な工場)の実現に向けても開発を進めています。
AGC株式会社
ガラスやセラミックスといった素材開発大手のAGCでは、デジタル技術を活用した開発改善に取り組んでいます。
たとえば、VR(仮想現実)などの先端技術によって素材の開発スピードを向上させることや、AIを用いた独自のシステムを開発し、マテリアルズ・インフォマティックス(統計情報や論文データ、過去の実験結果などを解析し素材開発を効率化する方法)も積極的に推進しています。
さらに、ガラスの製造には熟練技術者の経験が不可欠ですが、AIを用いて技術者の知見を集約し形式知として可視化することにも成功。社内における熟練技術者から若手技術者への技術の継承が仕組み化され、品質の向上や均一化に貢献しました。また、社内でのDXをより一層加速するために、データサイエンティストの人材育成プログラムを構築しています。
製造業のDX事例集〜中小企業編〜
DXに取り組んでいる製造業は大企業ばかりではありません。ここからは、中小企業における取り組みの事例を3社紹介しましょう。
株式会社松浦機械製作所
工作機械などの製造、販売を手掛ける松浦機械製作所では、販促用資料や機械の組立・メンテナンス作業の手順紹介などに動画素材を積極的に活用しています。DXへの取り組みの第一歩として、動画撮影や編集スキルを有した人材の育成からスタートしました。
さらに、製造プロセスの効率化と品質の安定化を図るために、製造部門からバックオフィス部門まで一気通貫で情報連携できる社内システムも構築。あらゆるデータを可視化し、定量的な評価ができる仕組みが整備されています。
自社製品の付加価値を高めるためにAIやIoTといったデジタル技術は不可欠ですが、製品に対してこれらのデジタル技術を組み込むために、AIに特化したエンジニアの育成にも力を入れています。
株式会社IBUKI
射出成形用金型の製造を手掛けるIBUKIでは、営業管理などのITデータと、工場内の製造機器やセンサーなどから取得したOT(制御・運用技術)データを社内で蓄積し、一括運用に役立てています。これにより、伝票処理をはじめとした多くの事務業務をペーパーレス化させたほか、機器の稼働状況が営業社員からも把握できるため、商談の際にその場で納期などを返答でき、迅速な営業活動を実現します。
これらの仕組みは社内システムとしてすでに運用していることはもちろんですが、データ管理の仕組みそのものをサービスとしても外販することに成功し、製造業界をはじめとしたさまざまな企業で採用されています。
株式会社ウチダ製作所
プレス加工部品の製造メーカーであるウチダ製作所では、地元メーカーとの企業連合をつくり、IoTやAIを駆使した「つながる工場」を実現しています。これは、連合内の企業がそれぞれ設備の稼働状況を提供しあい、リソースを最適化する「金型共同受注サービス」です。設備の稼働状況に応じて生産効率が最適化されるため、受注機会の増加に成功しました。
AmazonのクラウドサービスであるAWS(Amazon Web Services)を活用した汎用的なシステム構成であるため、地元だけでなく遠隔地のメーカーとも連携可能に。現在は「つながる工場」が地域の垣根を超えて拡大し、「遠隔ものづくり」を実現しています。
他社の事例を参考にDXに向けた取り組みを開始しよう
製造業においては、生産性向上やビジネス環境への対応、BCP対策などの観点からDXへの取り組みは重要であり、今後不可欠になるといえるでしょう。
企業規模によってDXへの取り組み内容はさまざまで、主に大企業が取り組むDXは、社会課題の解決に繋がるものが多い傾向にあります。一方で、中小企業が取り組むDXは、顧客に対して価値を提供したり、自社の課題解決に繋げたりするものが多いといえます。
「自社で何から取り組めばよいのかわからない」、「どのような課題を解決すればよいのかわからない」といった場合には、今回紹介した事例を参考に検討してみてはいかがでしょうか。
IPAでは、中小規模の製造業がDXを進めるためのお役立ちツールを公開しています。くわしくは「製造分野DX度チェック」をご覧ください。
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