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DX人材とは?先進企業の6つの事例から学ぶ「ヤタガラス」スキルと人材確保・育成

DX事例

DXの推進に取り組む企業が増えています。しかし、DXを進める人材がいない、という声をよく聞きます。では、DXの取り組みに求められる人材とは、どのような人材なのでしょうか。
この記事では、DX先進企業の事例から見えた、DXを進めるのに必要な人材のスキルについて説明します。また、それらの人材をどのように確保し育成するかについても、事例を交えて紹介します。

DXに必要な人材とは

DXは「デジタルトランスフォーメーション」ですので、その推進にはデジタルに詳しい人間が必要だということは想像ができるでしょう。しかし、DXのキモは「トランスフォーメーション=変革」ですので、デジタルに詳しいだけでは不十分ともいえます。では、どのような人材が必要なのでしょうか。

DX人材に求められるスキルとは

DX において求められている「デジタル人材」は、もちろんプログラミングができたり、技術に精通したりしていることが重要でしょう。しかし、それだけでなく、事業や組織を深く理解し、そこにデジタル技術を組み合わせてどのような未来を描くのかを共有し、現場の人たちと対話や議論ができる能力が求められます。
事業と技術の2つの側面が必要ということです。

そして、中核としてDXを推進する人材には、それらに加えて経営層と対話する能力も必要となります。つまり、経営という3つ目の側面も持ち合わせている人材が、DXに必要な人材です。

DXの進んでいる企業では、こうした事業・技術・経営の3つの観点に通じ、リーダーシップを発揮できる「ヤタガラス(八咫烏)人材」が中心となり、DXの方向性や開発推進、事業適用をけん引しています。

「ヤタガラス人材」を採用できるか

ヤタガラス人材は、経営の言葉で経営者を説得し、事業の言葉で事業部門を巻き込み、技術の言葉で開発メンバーと実現可能性の議論ができます。そのような人材が中心にいることで、スムーズに DXプロジェクトを立案・推進できるのです。

しかし、果たしてヤタガラス人材が自社にいるでしょうか。おそらくどの組織にもいるわけではないでしょう。
DXの進んでいる企業では、ヤタガラス人材を外部から採用する事例も少なくありません。しかし、そもそもそのような人材は外部にも少ないのが現実でしょう。

DXを支える中核的存在は、どのように見つければいいのでしょうか。

「ヤタガラス人材」の育成方法

外部から採用できないとなると、ヤタガラス人材を内部で育成することになるでしょう。

組織内で人事ローテーション制度などを活用し、事業の現場の人材をあえて DX プロジェクトに巻き込む。そして、デジタル技術の知見や経営との接点を持ちながら、そうしたスキルセットを意図的に身につけさせる、というような取り組みも見られます。

また、ヤタガラス人材として1人にすべてを任せるのではなく、チーム内で役割を分担して3つの役割を果たしているような事例もあります。

DX推進のための人材確保・育成に関する事例6選

DXを進めるための人材をどのように確保・育成すればいいのでしょうか。

 IPAによる「DX 先進企業へのヒアリング調査」と、経済産業省による「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード」実践の手引き』から、6社の先進企業の例を紹介します。
出典:IPA「DX 先進企業へのヒアリング調査 概要報告書」
   経済産業省「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き」

【製造業P社】「ヤタガラス人材」を外部から連れてくる

P社では、自社で弱い情報技術、特にデジタル技術を強化するために、大手IT企業からデジタル・IT 推進担当役員を招へい。この役員を核として、事業のわかる自社メンバーと外部から採用したブランディングなどの経営戦略に精通したメンバー、データサイエンティストなどのデジタル人材でDXを推進する組織を立ち上げました。

このDX推進組織が中心となり、ビジョン構築、ビジネス戦略、技術ロードマップ等を用いてプロジェクトをけん引することで、デジタル技術を用いた新商品開発の効率化を実現し、製品開発の期間短縮・コスト削減を実現しています。

【製造業Z社】事業部門にデータ利活用を教え、経験を積ませる

Z社では、各現場が自律的にデータ利活用できることを目指しています。そのために、組織横断的にサポートするCoE(Center of Excellence)的な役割を担う組織が、各部門とともに現場課題の解決やデータの利活用推進サポートや教育、他拠点成功例の共有をおこないます。現場が主役で実践経験を積むことを心掛けて進めています。

【インフラ業V社】CxO自らが社員に教育

V社では、「どのように開発・運用するか」という How(問題解決力)だけではなく、そもそも「どのような課題を解決する必要があるか」という What(問題発見力)が重要であると考え CxO 自らがハンズオンで教育をおこなっています。

経営の知識をつけさせるために、経営陣との議論の機会を増やし、ヤタガラス人材の役割を担いうる人材を育成しているのです。

【製造業X社】人事ローテーションによって事業とITの両部門を経験させる

X社では、人事のローテーション制度を活用し、社員に複数部門を経験させるなかで、意図的に事業とITの両方を経験させるようにしています。これによって両部門のお互いの部隊の顔がわかるようになり、両者のコミュニケーションが活性化し、プロジェクト推進を円滑に進められるようになってきています。

【小売業U社】従業員向けにデジタル教育コンテンツを開発

U社では、IT技術者ではない従業員向けにデジタル教育コンテンツを開発し、教育を通してボトムアップ的な組織の変革を促しています。

IT の知識がない事業の現場の人に基本的なデジタル技術を学ばせることも、デジタルを使える人材のすそ野を広げるためには重要です。

【飲食業ゑびや】社長が「ヤタガラス人材」に。コミュニティを通じて人材確保

飲食業を営む有限会社ゑびやは、データ活用による経営改革を推進し、「世界一IT化された食堂」と呼ばれるに至っています。デジタルツールの活用ができる人材が初めからいたわけではなく、社長自らが地道にPOSや天気等の身近なデータをエクセルに収集して分析。自ら学習をしながらRPAやAIの活用も開始し、その結果、90%以上の精度を誇る来客数のAI予測ツールの開発を実現しました。

また社長自身がDX に取り組む中で関係を深めたコミュニティを通じて様々な形で人材を確保していったほか、コロナ禍での客数減を踏まえて自ら希望した店舗のホールスタッフに、現場の業務から離れて数か月みっちりと勉強のみに専念させることで、デジタル人材へとリスキルさせました。

経済産業省「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き」をもとに、IPAにて作成。

まとめ 「ヤタガラス人材などいない」と諦めない 時間をかけて育てることも将来への投資になる

DXの推進には、事業・技術・経営の3つの観点に通じ、リーダーシップを発揮できる「ヤタガラス人材」が必要です。しかし、ヤタガラス人材のようなスーパーマンは現実にはとても少なく、すぐに確保することは難しいでしょう。

多くのDX先進企業の事例にもあるように、今組織にいる人材を育成することが重要です。事業・技術・経営に通じた人材の育成やチームの立ち上げは一朝一夕にできるものではありません。
時間はかかりますが、将来のDXへの一歩となるでしょう。

「先進企業の事例で学ぶDXの勘どころシリーズ」の記事はこちら

1.DXのビジョンとは?先進企業の5つの事例から学ぶDXビジョンの合意の進め方
DXのビジョンとは?

2.DXのアイデア出しには何が必要?先進企業の4つの事例から学ぶアイデア創出のヒント

3.DX推進の体制とは?先進企業の6つの事例から学ぶDX推進の体制づくり

4.DX人材とは?先進企業の6つの事例から学ぶ「ヤタガラス」スキルと人材確保・育成(本記事)

DXの進め方をもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
DX実践手引書 ITシステム構築編とは ~DXを成功に導く「ヤタガラス人材」と「スサノオ・フレームワーク」を解説~

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