アジャイル開発の先進事例4選 その共通点とは?
DX事例変化が激しく不確実な環境でDXを実現するには、アジャイルな取り組みが求められます。
「アジャイルとは?」の記事では、「アジャイル」とは価値観や原則であり、ソフトウェア開発手法であり、新規事業の開発手法であり、組織変革や働き方改革の手段でもあると説明しました。
アジャイルとは? 今さら聞けないDX関連用語をわかりやすく解説
しかし、アジャイルの本質を理解せずに形式だけ真似て、失敗するケースも多いようです。
では、どうすればアジャイル開発がうまくいくのでしょうか。
この記事では、アジャイル開発に取り組む企業の先進事例を4つ紹介し、それぞれの事例に共通する点をまとめています。
アジャイル開発先進事例4選
製造業A社
基板のプレス加工を得意とするA社。
製造現場の作業日報のペーパーレス化を検討していました。ITベンダーの多くが、従来の帳票をタブレットに置き換えるだけの提案をしたといいます。しかし、A社には、以前作ったシステムが現場に定着しなかった苦い経験があり、ベンダーの提案に納得しませんでした。
そこで、時間をかけてパートナーを探し、現場の納得いく形で進められるアジャイル開発と出会いました。
社長は現場の使いやすさに熱い思いをもち、現場を巻き込んでアイデアを出し合いました。肯定的なもの否定的なものに関わらず、多くの意見を採り入れたといいます。また、現場の使いやすさを徹底的に追求。ICカードやQRコードなどさまざまな方法を試し、β版での検証を繰り返しました。その結果、スマホでQRコードをスキャンしてストレスなく作業を記録するシステムを開発できたのです。
また、パートナー会社とお互いの専門分野の強みを生かし、開発したシステムを外販するなど、事業や活動を拡大しています。
宿泊業・飲食サービス業B社
リゾート・温泉旅館の経営と運営受託を行うB社。
順調に業績を拡大しており、システム部門に対する経営陣・事業側からの要請や期待も高まっていました。しかし、従来のパートナーをメインとする体制では、小さな機能追加の手続きに数か月かかるため、期待に迅速に応えることが難しかったのです。そこで、自社の人材による開発+アジャイル開発にシフトしました。
最初の採用は1人だけ。経営陣や事業側の期待に迅速に応えることでアジャイル開発の良さを理解してもらいながら、少しずつ体制を拡充しました。
「経営陣や現場と一緒に価値を生み出す」という共通の目的のもと、年齢や社会人歴等の異なる現場出身者とキャリア採用のエンジニアがチームとして自律的に活動。月1回の会議では担当者が経営陣と直接会話するなど、経営陣との距離も近くなっています。
チーム編成はアジャイル開発手法の1つであるスクラムをベースにしています。スクラムとは、ラグビーのようにチーム一体となり、1~4週間の短期間で開発工程を繰り返して進める手法のこと。しかし、チームによっては教科書どおりのスクラムを行うのではなく、スクラムを参考にしながらも、チームが自己組織化するように工夫しています。
スキル面ではシステム開発に関連するさまざま分野の社員教育に注力しています。チームのスキルマップを作成し、メンバーは主体的にスキルを習得。それにより、チームとしてフルスタック(複数の技術や知識に精通している状態)になることを目指しています。
直近の数年は新型コロナ禍の中で三密回避の仕組み構築や、 GOTOトラベルキャンペーンの仕様変更対応、ギフト券のふるさと納税対応等のイベントが連続しましたが、経営陣や顧客の要請に迅速に応えることができました。
職業紹介サービス業C社
IT/Webエンジニア向けの転職・就職・学習サイトを開発・運営しているC社。
個人がキャリアを意思決定する時代。C社は、新しいビジネスモデルを考案してリーン・スタートアップ(ムダを排除した最小限の製品やサービスを立ち上げる方法)で検証を繰り返し、55万人が利用する国内最大級のサイトとして成長しました。
市場の課題やビジネスモデルを社員全員が理解して、定量的に検証する文化形成を目指しています。そのため、毎月の会議では、目指す姿や各段階でのイメージ、マイルストーンなどを経営者が示し、経営数値等の情報もオープンに。
KPI自動集計システムやデータ分析環境を整備し、エンジニアでなくても定量的に分析できます。
また、システム部門がコストセンター(コストがかかり収益を基本的には生み出さない部門)からプロフィットセンター(収益を生み出す部門)に移行する時代の流れの中で、エンジニアにも事業開発やビジネスのスキルが必要と考えています。たとえばムダな機能を「作らない」という発想がはじめからあれば、ムダなコストの発生を抑えることができるからです。
C社には、世の中にどう価値を届けるかという視点に立つ仮説を重要とする組織文化があります。決まった方法に従うという発想ではなく、利用者のニーズや市場の課題、時代の流れや競合を理解してビジネスモデルを作っています。
このような考え方がエンジニアや採用企業に広く受け入れられ、エンジニアの基礎的スキルをコーディングテストで見える化するサービスにつながっています。
情報サービス業D社
システム開発支援やクラウドコンピューティングのコンサルテーションを行うD社。
新制度のスタートにあたり、インターネット経由で申請受付を行うサービスの開発案件。この案件には、「納期の変更ができない中、アジャイル開発で行う」という難しい制約がありました。
そこでD社は、当時では先進的だったクラウドサービスやマイクロサービスを活用しました。そして柔軟なプログラミングと、基盤の構築にチャレンジし、予定どおりにサービス提供を開始。安定的に運用しています。
この事例の成功要因の1つは、発注側と受注側(D社)がお互いにリスペクトして信頼関係を築いたことです。
発注側のプロダクトオーナーは、ステークホルダー(利害関係者)に説明責任を果たしました。技術面では、受注側である開発者(D社)を信頼して任せました。
一方、開発者は、金融取引のインターネットシステムの経験で培った知見を活かして、将来的な運用を視野に入れて開発を行いました。GitHubというWebのサービスを使って開発の進捗を見える化するなど、開発状況の透明性を確保。検査・適応のサイクルをうまく回すことができ、プロダクトオーナーの期待に応えました。
またスキル面では、それぞれのメンバーが最低 2つの隣接技術を習得することで、チームとしてフルスタックになることを目指しています。隣接技術とは、事業活動において隣り合う工程の技術のこと。たとえば開発者であればデザイナーの用語・知識・都合を解釈し、自分なりに言い換えてコミュニケーションできる能力を習得。そのためには、読書等の基礎的な学びの力が重要としています。
先進事例の共通点
ここまでで、4つの先進事例を紹介しました。
これらの事例の共通点はなんでしょうか? アジャイル開発を「家」になぞらえて整理した「アジャイル開発の家」の構成要素から、共通点を見てみましょう。
アジャイル開発の家を構成する要素とは?
「アジャイル開発の家」とは、アジャイル開発の概念構造を「家」になぞらえて整理したものです。
たとえば、アジャイル開発の「土台」となるのは「組織文化」です。「柱」となるのは、「人間中心であることと技術の尊重」。「梁」は「役に立つソフトウェア」。そして「屋根」はそれらの要素の上にある、目指すべき「ビジネス価値の最大化」です。
土台のない家、柱のない家、屋根のない家の中では活動ができないのと同じで、どれかが欠けるとアジャイル開発は難しくなります。
アジャイル先進事例に共通する点とは?
4社の先進事例に共通しているのは、「アジャイル開発の家」における土台と柱を具現化している点です。
- 土台(組織文化):現状と常識にとらわれず、日々改善と成長を志すマインドセットを持っている
- 柱(人間中心):経営者、プロダクトオーナー、開発者等が会社や立場の違いを超えて協力することにより相乗効果を発揮している
- 柱(技術の尊重):チームとしてビジネスと IT 両方のスキルを備えている
事例の共通点からわかる「アジャイル開発を成功させるポイント」は、このように土台と柱をしっかりと構築することだといえるでしょう。それぞれの企業が、頑丈な土台と柱を構築し、「現場現物現実で役に立つ動くソフトウェアを提供する」という梁で支え、「ビジネス価値を最大化する」という屋根をかけることに成功しています。
DXの進め方や先進事例をもっと知りたい方は、IPAの「DX実践手引書 ITシステム構築編」をぜひご覧ください。
DX実践手引書 ITシステム構築編(IPAサイト)
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