2人チームでのDX認定取得から全社へ拡大 沖縄の金物・工具卸売業の攻めるDX
DX事例DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれているなかで、「どうやってDXを進めていけばいいかわからない」「デジタル人材が社内にいない」などの課題を抱えている企業も多いでしょう。
本連載では、DX先進企業に事業の進め方や課題、苦悩などをインタビュー。第8回となる今回取り上げるのは、沖縄県で金物や工具の卸売業を営む株式会社島袋です。2022年7月に、沖縄県内の流通業で初のDX認定を取得しました。2030年までの長期ビジョンを掲げ、社内業務のデジタル化や新たな価値提供を進めています。
同社のDX推進チームに所属する比嘉(ひが)様、嘉陽(かよう)様、喜屋武(きゃん)様にお話を伺いました。
「DX認定」を取得し、社内で取り組みの認知を向上
―― DX推進のきっかけを教えてください。
もともと基幹システムを中心とした業務の効率化に数年前から取り組んでいました。仕事が属人化しないようにとか、ペーパーレスを進めたいという考えを社長がもっていて。しかしある程度進めていくうちに、これ以上進めていくにはシステムだけに頼るんじゃなくて、人や体制もアップデートしないといけない、という壁に当たったんです。
それで、当時出てきた「DX」という言葉を使って、アップデートしようとしたのがきっかけです。
2021年の末頃、総務部と情報企画課から1名ずつの2名でDXのチームを作りました。そこでは「DX認定」の取得を最初に目指そうという話になりまして。はじめにDX認定を取って、それから業務改革に着手しています。まだスタートしたばかりという状態です。
―― 最初にDX認定に取り組んだのはなぜですか?
「自社のDXの取り組みをホームページ上で発信していきたい」という話が社長からあったんです。それで、「DX」という言葉を使って発信していたんですけど、「DX認定にも挑戦してみたらどうか」という話が社長から出てきました。
DX認定を受ければ、社内的にもDXの話を広げやすいとも考え、取得を目指すことになりました。
―― 社内にDXを広めるためにDX認定を活用されたんですね。取得までどのように進められてきましたか?
比嘉と嘉陽の2人チームで始めたんですが、DX認定の申請書を書くのもなかなか難しくて。
申請内容はチャットを利用して社長に逐次共有しながら進めたんです。もともと5年ほど前に基幹システムのリプレースの話があったときに、「将来的にここまでやりたい」という構想が社長にあったので、内容は苦労しなかったんですが、文書をまとめるのが大変でしたね。
DX認定ではDXの戦略や体制を作って公開しなくてはいけないということで、申請書を書くだけでなく戦略作りや体制作りにも取り組んだ結果、マンパワー不足に陥って、認定取得まで半年ほどかかりました。
しかし、DX認定を取得したことで、毎日DXに取り組まないといけない、ということを社内にアピールすることができました。そして実際に、プロジェクトを2つ立ち上げました。営業やその他の部署も巻き込みながらDXに関連するプロジェクトを進めることで、更に関わる人を増やしています。開始当初は2人で大変でしたが、DX認定を取得したことで社内に認知が広がり、このように進めることができました。
部署横断のDX推進チームで新規プロジェクトを立ち上げ
―― 現在はDX推進チームとしてさまざま部署の方を巻き込んで進めているとのことですが、メンバーの人選や体制はどのようにされていますか?
具体的にプロジェクトを進めていきたいと社長に相談した際に、「部長クラスも含めて検討したほうがいいんじゃないか」と助言がありました。そこから、部長に人選を相談しながら進めてきました。うちだとなかなか積極的に手を挙げる人はいないので、こちらから強制的に指名する形にはなっていますけど。
現在は社長直下の「DX推進チーム」という組織で10名以上が関わっています。最終的には全社員がDX推進担当になることを目標としています。
―― DXの2つのプロジェクトについて具体的に教えてください。
1つめは、販売管理関連です。
Webのシステムを自社で構築して、それを浸透させるということを進めています。営業担当者が外出先からスマホで受注を入力するところから始めて、今は発注や入荷、棚卸もWebシステムで動くようになっています。これからは、在庫管理の精度を上げていこうとしていて、そのスタートラインにようやく立てたのかなと思います。
在庫の精度を上げるということは、社内のいろいろな部署の協力が必要になってきますから、その重要性を社員にわかってもらうためにも、まず営業の業務改革からプロジェクトを立ち上げたというところです。
2つめは、総務経理のデジタル化です。2023年10月から始まるインボイス制度に向けて、現在のシステムをデジタルでもっと工夫していこう、というのを詰めています。
―― システムを内製しているんですね。
基幹システムはベンダーさんに構築してもらったものですが、営業がスマホで使うWebシステムは社内で作っていて、情報企画課の1人がメインで開発しています。
現場に立つ社員からは意見や要望が多く出ます。なるべく速く対応していきたいため、内部で開発しているんです。使う側が意見を言いやすいというのは、開発側としては逆に大変にもなってくるんですけど(笑)。みんなが共通して便利になるようなものは、情報企画課が作るという体制になっています。
―― DXの取り組みで工夫したり、意識していることを教えてください。
たとえば、プロジェクトの会議の人数は多くせず、それぞれが意見を言えるような形で進めています。こういうテーマで話をしますというのを事前にチャットで上げて集まることで、メンバーは事前に意見をまとめることができ、積極的な発言につながっています。
また、IT部門である情報企画課のメンバーが引っ張りすぎないように、というのも意識しています。現場の人たちにも考えてもらって、みんなで決めてみんなで動くと社内浸透も早まると思いますし、組織としてもそのほうが強くなっていくのかなと思っています。
全社員が同じ方向を向くためにどうするかっていうのは、苦労するところですね。
社長からも「全体最適で考えるように」とここ最近言われているので、社員がみんな自分のところだけではなくて、全体を考えた形で改革を進めなければいけません。その士気のもっていき方は工夫が要ります。
今は、「自分たちの部署がよくなればというのではなくて、この業務を変えることは他のところにも関わっているんですよ」と現場の人たちに根気強く説明して進めていっています。
―― ここまで進めてこられた秘訣は何だと思いますか?
やっぱり経営者の社長と綿密にコミュニケーションがとれるところが大きいのかなと思っていまして。
社長が現場のことを考えてくれて、社長から現場に発信してほしいというお願いをすると協力してくれます。
経営者の力はとても大きいので、コミュニケーションがとれて協力を得られるのは、DXを進めていく上で大きな力になっていると感じています。
システム関係の見積でもほとんど却下されたことがないんですよ(笑)。
どういう目的で何をやりたいということを伝えれば、経営者が理解してくれる。話をわかってもらえる、というのは大きいですね。
また、当社では環境整備という取り組みが定着しています。具体的には、棚番を整理したり、作業のしやすさを考えて事務所の環境を整えたり。自分たちの身の回りの環境をどう変えて無駄を省くかという改善が中心です。もう10年ほど前からやっていて、みんなそれに慣れているので、その土壌があるからDXもやりやすいっていうのはあるかもしれないです。
今後はグループ会社の小売りのデータを活用して、攻めの卸売業に
―― 今後目指したい姿を教えてください。
当社は関西にも小売店舗を11店舗持っているんです。しかし、その小売りのデータの活用がまだまだ全然できていません。
今後は、たとえば小売りのPOSデータを沖縄の卸売りのデータと連携して、分析して、小売市場では今こういったものが流行っているから、沖縄の卸売りのほうではいち早く流行りの新商品を仕入れたり、ということにつなげていきたいと思っています。
沖縄県内の同業他社で、小売店舗を持っているところは当社以外にはほとんどありません。
ですから、最終的に店舗で買ってもらうエンドユーザーさんの感覚を卸売りのほうでも見えるようにしたい。そして当社がハブ的な立場になって、仕入先のメーカーさんにも、卸売りの販売先さんにも、有益な情報を提供できたらいいなと思っています。
―― これからDXを進められる企業の、特にDX推進を担う部門の方々にアドバイスをお願いします。
当社のDXは立ち上げが2人で少なかったこともあって大変でした。少し無理をしてでもスタートの時点でいろいろな部署の人に協力を仰ぐべきだったなという思いはあります。
また、システムはあくまでもツールなので、現場に使ってもらって意見が上がってこないとなかなかうまくいきません。
しかし、デジタルの部分をメインで話すと拒否反応を示す人もいます。デジタルって聞くと自分にはわからないからとか、コンピュータは知らないから、と距離をおくんです。
ですから、あまりシステムとかデジタルというのは強調しないで、改善だとか業務の改革だっていう目的をちゃんと説明した上で、それに協力してくれる人になるべく多く関わってもらうといいと思います。
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