熊本の設備工事会社セイブ管工土木が描く「夢を追い続けるDX」20年の軌跡
DX事例DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれているなかで、「どうやってDXを進めていけばいいかわからない」「デジタル人材が社内にいない」などの課題を抱えている企業も多いでしょう。本連載では、DX推進事業に成功した企業へ事業の進め方や課題、苦悩などをインタビュー。第3回となる今回取り上げるのは、 熊本県合志市に本社を置く設備工事会社のセイブ管工土木株式会社です。
セイブ管工土木は下水道、農業土木や造成工事などの土木工事業、冷暖房設備や給排水・給湯設備工事などの管工事業、市町村の水道施設工事業など、さまざまな設備工事を請け負っています。
2021年11月、DX推進の準備が整っている(DX-Ready)と国が認定した「DX認定事業者」として認定されました。また、ITコーディネータ資格20周年記念「ITコーディネータ協会表彰」では優秀賞(情報処理推進機構理事長賞)を受賞しました。
従業員16人の設備工事会社がDX推進企業となった秘訣はどこにあるのでしょうか。
DXの道のりは、一朝一夕にはいかないものでした。20年もの間、セイブグループ全体(*)で取り組んできたITの取り組みやその想いについて、同社を率いる坂井さゆり取締役と同社統括営業部の藤井勝洋氏、同社グループのDXを支援するITコーディネータ、中尾克代氏にお話を伺いました。
*株式会社セイブクリーン、セイブ管工土木株式会社、ボルボックス株式会社の3社をいう。なお、坂井さゆり氏は株式会社セイブクリーン及びボルボックス株式会社の代表取締役を務めている。
一つひとつのIT活用の積み重ねがいつのまにかDXになっていた
―― DXの取り組みのきっかけは何だったのでしょうか。
最初からDXという認識はありませんでした。目の前に色々な問題があると、社員の顔が暗くなったり厳しくなる。そんな顔を見ているのが辛くて、どうにかしたいという思いから、ITの力を借りて問題解決しようと思ったのが始まりでした。2002年頃のことです。
膨大な事務処理を効率化するためにオフコン(*)の導入から始めました。そこから20年、いろいろなIT活用を行う中で、「これがDXなんだな」とたどり着いたところです。
*オフィスコンピューターの略称。事務処理用のコンピューター
―― 20年の歳月をかけて取り組んできたIT活用がいま、DXとなっているのですね。
当社だけではなく、セイブグループ全体としてIT経営に積極的に取り組んできました。まずは最初のステップ、社内のプロセス改善として2002年~2010年にかけて、オフコンの導入のほかに、ISO14001(環境マネジメントシステムに関する国際規格)の取得をしました。事業承継の課題もあり、社内のマネジメントシステムを整えることが目的でした。全社での情報共有のためにサーバ構築を行いました。
また、当社は元々し尿汲み取りから事業をスタートしたのですが、事業に対するマイナスなイメージを変えたいという思いもあり、IT活用を推進してきました。それがハンディターミナル(*)の導入です。人が手作業でやっていたデータ集計をハンディターミナルで収集することで、処理時間は6分の1になり、お客様対応に時間を回せるようになりました。
*携帯用のデータ収集端末
そうした社内プロセス改善の次のステップとして、顧客や取引先とのつながり改善に取り組みました。ゴミ収集車にセンサーを取り付け、ゴミ収集の管理をシステム化し、そのデータを自治体に提供しています。
そして現在取り組んでいるステップが、データ活用によるビジネスモデルの変革です。ですので、セイブグループとしては以前よりITを使った業務改善に取り組んでいて、それが2021年になってDXという言葉に当てはまったという感じでしょうか。
アイディアだけで終わらせない。次へ繋がるビジネスに
――現在取り組まれているビジネスモデルの変革について詳しく教えてください。
「排水管の成人病検診サービス」という新たなサービスを立ち上げようとしています。
きっかけは熊本地震の復旧作業です。当時、配管の破損個所の特定が難しかったことから、高圧洗浄車にカメラをつけるアイディアを思いつきました。本来は高圧洗浄車とは別に、TVカメラ車を手配する必要があります。しかし高圧洗浄車にカメラをつければ車は1台で済みます。全国初のカメラ付き高圧洗浄車で、配管内の画像をリアルタイムで確認することによって、破損個所の把握が容易となり、復旧作業もスムーズに進みました。この経験を基にして、現在「排水管の成人病検診サービス」を開発しています。
「排水管の成人病検診サービス」は、カメラで排水管の内部を撮影し、その画像から排水管の状態をAIで診断しようという取り組みです。ちょうど、内視鏡検査のイメージですね。排水管の詰まりに対する予防対策から工事、定期的なメンテナンスまでをワンストップで提供する予定です。
当社は長年、地元の下水道工事会社として公共工事に多く携わってきました。しかし、新型コロナウイルスの影響で公共工事の時期がずれるなどで売上が減少し、ビジネスモデルを転換する必要がありました。そこで、新しいターゲットとして着目したのが、民間が管理している排水管と、管理主体が曖昧だった「除害施設(*)」の排水管です。コロナ禍でおうち時間が増えたため、排水管のつまりの発生も増えています。そこに「排水管の成人病検診サービス」のニーズを見込んでいます。
*下水中の有害物質を除去するための施設
――アイディアがあっても事業化に踏み切れない企業は少なくありません。アイディアの実現力はどこにあるのでしょうか。
社員の挑戦したいという気持ちを積極的に汲み取るようにしています。そもそも挑戦したいという気持ちがなければ何も生まれません。まずは社員のやる気を引き出す環境を作ることを心がけています。
事業化に踏み切れない理由として、やはり収益化できるかなどお金の問題がありますよね。せっかくアイディアが出ても、収益の見込みを詰めることで冷や水を浴びせることになってしまう。全く新しいお客さまをターゲットにするときに2~3年で結果が出るはずはありません。その先にあるニーズをしっかりと把握することが重要で、これには現場と経営の情報共有が必要不可欠です。
また、システムが完成して終わり、業務が効率化できて終わり、ではなく、それが今後どこに繋がっていくのか毎回必ず検証してきました。その検証を手伝ってくれたのがITコーディネータの中尾さんでした。中尾さんが、アイディアを次の施策に繋げてくれたことも重要だったと思います。アイディアが次に繋がることで、また挑戦しようという夢が生まれます。それをこの20年間続けてきたので、私たちのDXは夢を追い続けているものと言えますね。
データの活用を武器に、安心して暮らせる社会づくりを支えたい
―― これまでIT活用やDXを推進してきて、さまざまな課題や壁にぶつかってきたかと思います。その中でDX推進を続けられたモチベーション維持の秘訣は何かありますか。
ずばり、楽しくやることです(笑)。大変、苦しい、そういったマイナスな感情をプラスに変えたいというところから始まり、そこに何を使ったらどんなふうに私たちが明るく生きていけるのか考えました。その結果が、ただITを使うことではなく、「どうなるためにITを使うか」ということだったんです。
ITを取り入れて今の問題が解決すると考えると、とてもワクワクします。問題が解決した先には、社員の笑顔がある。社員の笑顔の先には、家庭の笑顔がある。たくさんの問題や壁はありましたが、そういった喜びのほうが大きかったです。苦しみの先に喜びがあることをモチベーションとしていました。
―― 今後はどのような事業展開をされていく予定ですか。
排水管の状態をAIで診断し、お客さまに分かりやすくカルテとして提供していく予定です。状態によってA~Dでランク付けすると、状態良好、要対応などわかりやすく可視化できます。まさに健康診断ですよね。排水管の健康診断を行うことによって、重篤な詰まりが発生する前に対策を講じることができます。大きな問題になる前に対処できるので、お客さまにとっては結果的に低コストで排水管の問題を解決できるのです。排水管の問題は全国共通です。熊本県合志市から始め、2026年には九州全土に「排水管の成人病検診サービス」を展開したいと思っています。
この業界は、ITがなくてもまだ仕事ができます。しかし当社は、他社に先駆けて排水管の状態をデータ化しているというアドバンテージを生かしていけます。たくさんの施設の排水管の情報をデータベース化することで、今後の提案活動に利用することもできます。これは将来、確実に活きてくると思っています。
―― 世間ではDXの動きがますます活発になっていきますが、どんな未来を期待していますか。また、顧客にどんな価値を提供していきますか。
将来、安心して暮らすことができるような社会になることを期待しています。最近は突発的な災害が多いですよね。そのような災害が起こってから慌てて対応するのではなく、あらかじめ準備をして対策ができるといいと思います。そうした社会にするためのお手伝いができる企業でありたいです。
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