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『100人のニーズを集めて失敗』からのスタート 応用地質の新規事業開発としてのDX

DX事例

DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれているなかで、「どうやってDXを進めていけばいいかわからない」「デジタル人材が社内にいない」などの課題を抱えている企業も多いでしょう。

本連載では、DX先進企業に事業の進め方や課題、苦悩などをインタビュー。第6回となる今回取り上げるのは、地質調査の最大手企業である応用地質株式会社です。

「インフラ・メンテナンス」「防災・減災」「環境」「資源・エネルギー」の4つの事業セグメントで業界をリードする応用地質。比較的アナログな仕事も多い「地質調査」の分野で、デジタルを活用した新規事業開発を進めています。取り組み始めたころの失敗や、現在進めている新規サービスの“種”の育て方について、同社情報企画本部の天野様と松井様にお話を伺いました。

ニーズを集めて失敗した最初の1年 全体デザインからDXは前進

取締役専務執行役員 情報企画本部長 天野様

―― DX推進のきっかけを教えてください。

天野洋文氏(以降、天野):2017年に情報技術企画室という部署が新設されました。当時、社長は、情報分野に力を入れていくのが重要だと認識していて。そのための部署をつくる、じゃあ誰を入れるか、ということで私が呼ばれました。
現在は情報企画本部という名称で、応用地質のDX推進を統括しています。

私はもともとグループ会社で交通ビッグデータなどを用いたサービスを展開するコンサルタント会社の社長をやっていまして、ITの世界に少し足を突っ込んでいました。松井は、当時交通ビッグデータ関係でお付き合いしていた大手ITベンダーにいて、部署の立ち上げの際に当社に来てもらった、という関係です。

当初は生産性向上や原価を下げること、新規事業開発を創出することを目的にデジタル技術を積極的に活用していこうという方針でスタートしました。また、ちょうど社内の働き方改革も進めていたころで。そんな背景があって、情報技術企画室のミッションはある程度明確でした。

―― スタートから5年ということですが、ずっと順調だったのでしょうか。

天野:実は、はじめの1年は棒に振りました。
最初に取り組んだのは、データ活用でした。社内に蓄積されているデータやアナログの資料をデータベース化して、みんなが共有できる環境をつくろうと。

現場にニーズを聞くと、「試験のデータをリアルタイムに確認して、データの有効性を確認できると、現場の生産性がめちゃくちゃ上がります」というような話が出てくるので、わかりました、じゃあやりましょう、となるわけです。ところが、さらにヒアリングを進めていくと、今度は別の意見やニーズが出てくる。「実はそれは外部に委託しているから必要なのはそのデータじゃないんです」という話があとからいっぱい出てくるんです。

現場からのニーズを受けて、シナリオを作って具体的に設計を始めたら、「違う」と言われる。こんなことをやっていたら、いつまで経ってもDXは進まないと気づきました。

松井恭氏(以下、松井):ニーズを聞いて、すべてを拾おうとしたことが失敗だったのかもしれないですね。私も外部から来た人間なので、当時は現場の声を聞いてその優先順位だとか重要度だとかは判断できないわけで。今でこそ「こんなのは受け付けない」と言えますけど当時はできなかったので、全部聞こうというスタンスでした。

天野:社内改革を進めようとすると、どんな課題やニーズがあるかというのを探りたくなるんですよね。ただ100人のニーズを100集めて、さあどうしましょうって言っているレベル感では変革は進まない。社内のニーズを1つひとつ聞いてボトムアップでやるのは現実的でないと思いました。

ニーズを聞くことは大変重要なことだけど、必要なのはそのニーズを聞いて、デザインし直すのが、私たち企画側の重要な役割だと気づいたんです。

改革や変革といわれるくらいだから大きく方向転換をして、経営的な視点でデザインをしてから落とし込んでいく必要がある、ということを学びました。最初にそんな失敗を経験してしまったので、そこを反省として、全体デザインの構築にウェイトを置くようになりましたね。

他社との協業で、新規サービス開発へ

 情報企画本部 理事 副本部長 松井様

―― ボトムアップではなく全体デザインからの落とし込みが重要ということですが、現在進めているデジタル関連事業について教えてください。

天野:現在、日立製作所さんと協業して進めているのが「地中可視化サービス」です。地中にはいろいろな種類の埋設管が埋まっているのですが、それらの埋設管を地中レーダで探査して高精度な3次元マップを作ろうとしています。

伊能忠敬が17年かけて日本全国を歩き回って測量して日本地図を作ったのと同じように、私たちも全国の地中埋設管マップを作ってお客様に提供する、というのを進めているんです。

もともと応用地質という会社は、地中を見える化する仕事をしています。設立から60数年やっていますが、この仕事はいまだに結構アナログなんです。地質調査の技術者が、眼に見えない地下のありようを推定・解釈して、2次元3次元で地中を表現する、という世界です。
しかし技術者も減ってきて、技術を継承しなければならない。また高精度に解析もしなければならないとなると、デジタル技術は非常に重要な武器になってきます。

日立さんとの協業の例では、当社が地中レーダを用いて探査した地中埋設管のデータを、日立さんのAIを用いて解析し、サービスプラットフォームに載せて、お客様に提供するサービスとなっています。

―― 自社のもつ重要なデータを他社に出すということに、社内からの反発はありませんでしたか。

天野:そうですね、「このビジネスは応用地質の中で完結するんじゃないですか」って社内でよく言われました。当社は地中レーダ探査を行い、探査データを技術者が解析できるし、最近ではAI解析も社内でやっている。クラウドだって、社内で構築できる社員はいる。自社でできないことはないんです。1年で数kmずつ進めればいいのなら社内で完結するのもありかと思います。

しかし、実際は1日に数百kmのデータを解析してマップ化していかないと、生きている間に日本全国のマップ化は間に合わないんです。それに、私たちがマップ化にかけたコストをベースに売値を設定していくので、お客様のために安く提供するには革新的にコストを下げる必要があります。そうなると、やっぱり他社と連携する必要が出てくるわけです。

―― 新たなサービスをビジネスとして推進する上で、大変だったことはありますか。

松井:「サービス」として広めようとすると、量もスピードも必要です。それに、必要なデータをお客様にオンデマンドで買っていただく、というビジネスの発想はこれまで応用地質にはなかったんです。
当社はもともと、自治体や公共機関から受託した仕事を、仕様書に基づいて決められたコストの中でやるという事業ばかりですから。

しかしサービスは私たちから仕掛けていくものなので、まず企画の検討があって、個別の技術の検証をして、というような感覚がなければいけないんです。技術的な検証のためにPoC(Proof of Concept 概念実証)があって、ビジネス的にはPoV(Proof of Value 価値実証)でお客様にどれほどの価値を提供できるかということも検証しないといけない。

私が応用地質に来たときには、PoCという言葉も通じなかったんです。またサービスに重要なSLA(Service Level Agreement サービス提供事業者と利用者が結ぶサービスレベルの合意書)も、聞いたことはあるけど……というような状態です。
それが、協業先の日立さんはこういった部分は得意中の得意ですから。日立さんとのプロジェクト推進を通じて、「今やっているのはPoCです」とか「今やっているのはPoVです」というような資料を作って共有しながら、社内で認識を作っているという感じですね。

―― PoCから先に進められない、という企業も多いと聞きます。ここまで進められている理由はどこにあると思いますか。

松井:デジタル技術よりも前の段階が重要だと思います。このサービスのターゲットは誰で、マーケットにどれだけの対象者がいて、彼らの問題意識は何で、どこからマネタイズするのがいいか、何のデータがどの程度の精度で必要か、とか。そういったことを順番に整理していきました。また、投資規模も大きいので、事前の市場調査なども日立さんの力も借りて、かなり念を入れて行いました。
デジタル技術活用より前の、ビジネス企画の部分で1年くらい使いましたね。

また、協業の相手とお互いに信頼関係を結べた、というのもここまで進められた理由かと思います。実は合同で合宿してビジネスを検討するみたいなこともやっていました。デジタルとはとても程遠い泥臭いことが、実は協業ビジネスを進める上ですごく重要なんですね。会議室だけでは信頼関係ってなかなか醸成されないので。みんな「どうせ飲みに行ってんだろう」と思っていたらしいんですけど、めちゃくちゃ働きましたよ(笑)。

天野:IT分野のビジネスを進めようとすると松井のようなデジタル技術の専門家であり企画ができる人が必要になります。

また、私や松井はもともと応用地質にいたわけではないので、俯瞰的に当社の事業を見ながら、これがビジネスになりそうとか、この技術使えるよね、みたいなことを冷静に識別できたんじゃないかと思います。
ただ現場のことを全く知らないのもまた問題ですから、現場をわかっている社員と私たちがコミュニケーションをとることももちろん必要です。

このように、事業全体が見えていて、それをデザインし直すことができる人が上にいないとだめだと思いますね。

DX部門は新規事業開発部門としてインパクトのあるビジネスを

―― 御社にとって、DXとはどのようなものですか。

天野:今私たちが進めているのは、これまで応用地質にはなかった形態のビジネスです。

ウェザーニューズさんがわかりやすい例ですが、従来は気象庁がやっていた事業領域を、民間企業が気象会社として参入し、ビジネスとして成立させた。あれくらいのインパクトが重要で、私たちも目指すべきところだと思っています。
もちろん、社会のルールや規制という問題にぶつかったときに乗り越えるのは難しい。でも、DXって変革ですから、壁にぶつかって当然じゃないかと考えています。

当社の中期経営計画では、社会価値、環境価値、顧客価値の最大化を目指すためにDXを核としたイノベーション戦略を重点方針としています。その結果、イノベーションが次々と起こって、連鎖し、更にイノベーションが起きて新しいビジネスモデルがどんどん生まれてくる、そんな環境を創り出していきたいと考えています。

そして、イノベーションを起こすためには、現業の業務プロセスの変革や生産性向上が必要になってくる。こんなシナリオを描いています。

―― これからDXを進められる企業の、特にDX推進を担う部門の方々にアドバイスをお願いします。

天野:何から進めればいいか悩んでいます、というお話をよく聞きます。社員のニーズに合わせてデジタル化を進めてもそれほど満足度が高まっていないんですよね、とか。
しかし、DXの目指しているところはそこではないと思っています。今多くの企業で「DX推進室」のような部門が立ち上がっていますが、これって少し前にあった「新規事業開発室」そのものだと思うんですよね。

つまりDX推進部門のやることは、まずは、新規事業を作ることや既存ビジネスの変革で、サービスの質を高めるようなところを重点的に狙うべきじゃないかと。変化の激しい時代のなかで市場における競争優位性を維持し続けるためにTransformationを目標に据える。そのためにイノベーションを連鎖させる。そこを徹底的にこだわることが必要かと思っています。
ダイナミックに活動することをすすめたいです。

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