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ちゃりんこネットワークをデジタルネットワークに 大田区の小さな町工場が企業間連携でDX

DX事例 製造業

DXの事例として、他社との連携により競争力を上げる「企業間連携」の取り組みがよく取り上げられます。

新しいビジネスを立ち上げたり、顧客を獲得したりするには、他社との協創が必要であるともいわれています。しかし、直接の商売にはならない他社との連携について、イメージがわかない人もいるでしょう。

今回は、東京都大田区の小規模な町工場群がデジタルを使って横連携し、新たな顧客やビジネスパートナーを獲得している事例をご紹介します。

この記事は、経済産業省・IPAが支援する「地方版IoT推進ラボ」による取材記事「デジタルの力で「大田区の仲間まわし」を「日本の仲間まわし」に進化させる(大田区IoT推進ラボ)」を再構成したものです。

それぞれの強みを生かす「ちゃりんこネットワーク」

ちゃりんこネットワークのイメージ。切削、穴あけ、研磨、メッキのそれぞれの工程を、ちゃりんこで回れる距離にある各社が担う。

東京都大田区は、首都圏でも有数の工業地域です。
約4,200社ある中小製造業のうち、約7割は従業員9人以下の小規模な町工場。小さな工場は、それぞれが個別の技術に特化して仕事をしています。

そんな大田区では、DXという言葉が流行するずっと前から、「仲間まわし」という独特なネットワークがありました。

仲間まわしとは、近所の工場に得意な工程を担ってもらい、製品を作っていくネットワークのこと。
たとえば、自分のところでは「切削」作業しかできなくても、近所の「穴あけできる工場」、「研磨ができる工場」、「組み立てに対応できる工場」にそれぞれの工程を任せるのです。

自転車(ちゃりんこ)で回れるほどの距離に仲間の工場があることから、「ちゃりんこネットワーク」とも呼ばれます。信頼できる仲間同士の関係の上に成り立っていて、他の地域の人たちには驚かれることもあるようです。

この仲間まわしには、案件のとりまとめをするハブ企業がいます。メーカーなどから依頼を受けたあと、仲間の工場に割り振っていきます。

そうした受発注の仕組みを、そのままクラウド上のデジタルの世界に構築。いうなれば、「デジタル仲間まわし」とも呼べる仕組みが、大田区の町工場の企業間連携DXなのです。
この「デジタル受発注プラットフォーム」という仕組みは、2022年8月から運用がスタートしています。

図面がなくても受注が受けられる、提案型ものづくりを可能にする仕組み

デジタル受発注プラットフォームのイメージ。発注側は図面なしに相談できる。受注側は提案型のものづくりができる。

デジタル受発注プラットフォームは、大田区と大田区産業振興協会、大田区発のプロジェクト型共同事業体であるI-OTA、ITベンダーのテクノアの4者が連携して推進しています。

I-OTAは、大田区のハブ企業が集まってできた共同事業体。提案型のものづくりにより、高付加価値な案件を呼び込み、大田区製造業の活性化を目指しています。

ITベンダーであるテクノアは、岐阜県の地域未来牽引企業です。同社が培ってきた、中小企業に特化した生産管理システム開発の知見を持ち寄ってくれています。

デジタル受発注プラットフォームでは、「プラッとものづくり」というシステムを活用しており、これは、テクノアが開発・運営し、I-OTAが中小製造業の目線で開発協力しました。

プラッとものづくりスキームのイメージ。発注企業はグループ代表に相談をする。グループ代表はチーム編成を行い、ハブ企業に発注。各ものづくり事業者はハブ企業を通して新たな仕事を受けることができる。デジタル受発注プラットフォームのイメージ

大田区内の工場では、FAXや電話でのコミュニケーションがいまだに多くあります。
FAXで送られてきた図面の文字が読めなくて電話で確認するなど、なかなか効率化が進みません。

しかし、発注者も製造業者も同じクラウドサービスを利用すれば、正確なデジタルデータを共有することができます。工場の業務が効率化するとともに、発注者の手続きも簡単でスピーディになるというわけです。

また、デジタル受発注プラットフォームの特長のひとつは、参画企業がグループをつくる仕組みがあることです。

発注側の企業がデジタル受発注プラットフォームの中で依頼をすると、グループ代表と呼ばれるハブ企業が複数の中小製造業の技術・ノウハウを結集させた提案をします。
このとき、ハブ企業は、システムの中で仲間企業たちに仕事を相談できるようになっています。そのため、発注側に個社からバラバラと回答が送られることもないのです。

その上、デジタル受発注プラットフォームの仕組みは、あえてシンプルになっています。
使い方も簡単で、電子メールやインターネット検索ができる人なら問題なく利用できます。ソフトウェアを買う必要もなく、さらに、原則的にはグループ代表が月額の利用料を支払う仕組みです。

I-OTA合同会社ウェブページのスクリーンショット。「図面なしで相談したい」「図面をもとに相談したい」の2種類のボタンが設置されている。発注者は図面なしで相談を進められる(I-OTAウェブサイトより)

また大田区のデジタル受発注プラットフォームの強みは、図面や3Dデータの添付が必須ではないこと。

最近では「図面を投げ込むと即日製品を作ってくれる」というような、スピードを重視したデジタル受発注システムが多く出てきていますが、大田区の場合は「図面がなくてもものづくりができる」のです。
そのため、図面を作成中であったり、まだ図面化できないアイデア段階や研究開発段階であったりしても、受注が受け付けられます。

図面ありきの単調なものづくりではなく、職人のノウハウや知恵を持ち寄ることで、「提案型ものづくり」「試作・研究開発」といった、利益率が高くてやりがいある仕事が受けられるようになるのです。

大田区から全国にひろがる「仲間まわし」

仲間まわしが日本全国にひろがっていくイメージの画像

現在、このデジタル受発注プラットフォームの仕組みを、全国に展開しようとしています。

展示会やプレスリリースなどで情報を発信したことで、全国の産業集積地、企業団体、金融機関などから多数の問い合わせ、参画・協力希望が寄せられているといいます。

「デジタル受発注プラットフォームはまだ完成ではなく、今も区内の企業さんと議論しながら作りこんでいる最中です。しかし、目指すべきところは間違っていないという自信があります。全国の中小企業の仕事がワンストップになることで、発注側の大手企業も利便性が高まると思っています」

そう語るのは、大田区産業経済部 産業振興課の荒井大悟さん。
今後は、全国の製造業集積地への展開のために、「地方版IoT推進ラボ」や「産業のまちネットワーク」などでつながりのある自治体へのアプローチを実施していくということです。

昨今、世界的な部品調達の混乱を受け、国内生産に回帰しようという動きも見られます。
しかし、かつての企業城下町の集積が弱まるなか、大手企業からは「今の国内で、海外と同じことが本当にできるのか」という声も聞こえてくることがあるそう。

デジタルの力で全国の企業が一丸となることで、大手企業の国内生産を支えることができると信じ、将来的には、海外からの受注を取り込むプラットフォームへの発展を目指しています。

「全国の強靭な中小企業がデジタル受発注プラットフォームでつながれば、日本の製造業を支える大きな力を発揮できると思います。全国の中小企業、大手企業、スタートアップ、産業支援機関のみなさんとともに挑戦・成長していきたいと考えておりますので、是非ご参画ください!」(荒井さん)

地方版IoT推進ラボ、地域DX推進ラボの取り組み

地域DX推進ラボと地方版IoT推進ラボのバナー画像

経済産業省とIPAは、地域におけるIoTプロジェクト創出のための取り組みを「地方版IoT推進ラボ」として、また、地域の経済発展とウェルビーイングの向上を目指す取り組みを「地域DX推進ラボ」として選定し、支援しています。

ポータルサイトでは全国109地域のIoTやDXの取り組み、セミナー・イベント情報等を紹介しています。

自社だけでは困難なIoT化やDXも、支援者の助言や提案を受けながら進めることができます。各地域の取り組み事例やセミナー・イベント等から、支援者や団体を探してみましょう。

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