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仙台の遊具メーカーが挑む 大学・学生・企業 「三方よし」 な地域のDX支援

DX事例

DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれているなかで、「どうやってDXを進めていけばいいかわからない」「デジタル人材が社内にいない」などの課題を抱えている企業も多いでしょう。

本連載では、DX先進企業に事業の進め方や課題、苦悩などをインタビュー。第7回となる今回取り上げるのは、株式会社ミヤックスです。

宮城県内を中心に、遊具の設計・製造・販売や、オフィスのデザインを手掛けているミヤックス。長年にわたって遊具事業とオフィス事業が事業の柱でしたが、近年、データやAIを活用した新たな事業「MIYAX DIGITAL(ミヤックス デジタル)」にも取り組んでいます。デジタルからはかけ離れているように思える遊具やオフィスの事業から、なぜAIの事業を始めたのか。
1948年の創業から続く同社を引き継いだ、3代目の高橋蔵人代表取締役にお話を伺いました。

地方の中小企業はDXという言葉だけでは進まな

―― AIの事業を立ち上げたきっかけを教えてください。

高橋蔵人氏(以降、高橋):2019年にAI・イノベーション事業部を立ち上げました。現在は「MIYAX DIGITAL(ミヤックス デジタル)」という名称です。

「遊び場」や「働く場」におけるお客様の課題を解決したり新しい価値を作っていく必要があるのですが、デジタルやデータ、AIについて分かっていないと、お客様に対して最適な解を提案できないような時代になっています。
しかし、私たちもデジタルについてはあまり分かっていませんでした。そこで、自分たちでも学びながらデジタルを使ってお客様の課題解決を行っていこうとしたのが、新事業立ち上げのきっかけです。

ただ、当社は70年アナログでやってきた会社です。社内にIT部門もないし、デジタル人材もいないような会社です。DXで他社と差別化するには、単なる「IT」や「システム」を学ぶだけでは足りないと思いました。そこで、さまざまなデジタル技術の中でも難易度が高そうな「AI」に焦点を絞りました。
まずは実際の案件でAIを扱ってみるところから取り組みを始めました。

―― 全く新しいデジタルの事業を立ち上げることについて、社内から反発などはありませんでしたか?

高橋:そこは進め方に気をつけました。今いろいろな企業では「DXするぞ」でDX事業にアサインされている人もいると思います。しかし、「結局何をしたらいいの?」となってしまいますよね。 

地方の中小企業はDXという言葉だけでは進まないのです。やはりKPIを売上と紐づけて、従業員を納得させて走っていくというプロセスを経ないと、言葉倒れになってしまいます。私たちは社内での合意形成を図るために、まずはプロジェクトレベルから始めて実績を蓄積してから事業部としました。

ただ、私たちは、MIYAX DIGITALを主たる事業として伸ばしていこうとしているわけではありません。デジタルを活用して、既存の遊具事業やオフィス事業自体を価値の高いものにしていくのが目的です。
地方の中小企業にとってデジタルは、自分たちの本業の発展に使うことが大事だと思います。

―― 本業ではどのようなデジタル活用に取り組まれているのですか?

高橋:本業の遊具事業はすごく価値の高い事業だと思っています。みんなが夢中になって楽しめて笑顔になる商材って貴重だと思うんです。

しかし、遊具業界を見渡すと、アナログな業界なので、今はみんながとても非効率なことをしています。例えばA社もB社もC社も自治体に同じすべり台を売りに行きます。ひと昔前までならそれでも良かったのですが、今ではそれほどの価値はありません。しかし、私たちは価値がないことにさえ気が付いていない。やはり今は、お客様に向き合って、遊具メーカーだからできる価値を提供して対価をもらうべきなんです。

例えば私たちは遊具のデジタル化に取り組んでいます。実は公園って、ずっと昔からあまりアップデートしていないんです。
過去には仙台に近いある町の公園で、倒れていた子供が誰にも気づかれなかったということがありました。しかし、これって今のデジタル技術を使えばすぐに解決しますよね。遊具の機能をアップデートして、センサーをつけたり、照明にカメラをつけて、何か異常があれば地域にアラートを出すとか。公園の安心・安全な価値を提供できるような実証実験を行っています。公園をもっと使いやすく安心・安全に楽しめる場所にしたいと思っています。

地域の企業と学生を繋ぐDX支援を新事業に

ミヤックスデジタルのイメージMIYAX DIGITALのイメージ(画像提供:ミヤックス)

―― 現在進めているデジタルの新事業について具体的に教えてください。

高橋:いくつかあるのですが、そのひとつがAIを活用したい企業と、AIを学ぶ学生を繋いでDXを支援する事業です。
ミヤックスデジタルの事業を通じて得たAIの知見を活かして、大学で文系学生にAIやデータサイエンスを教えているのですが、大学・学生・企業がみな課題を抱えているんです。

大学は社会が必要とするデータサイエンスやAI教育を提供したいと思っているのに、現実は技術的な講義ばかりになってしまう。文系の学生にとってもつまらないものになってしまっています。

一方学生は、自身の価値を高めるためにデータサイエンスやAIに関する知識を学びたいと思っているのに、大学にはその科目が少なく十分に学ぶことができません。さらに、実際に企業や社会でどのようにデータやAIが活用されるのか分からないため本質が理解できず、学びのための「リアルデータ」に触れることもできません。データに限って言うと、10年前のスーパーのデータを使って卒論や修論を書いているようなレベルだと聞いたことがあります。

そして企業は、データを活用したいと考えていますが、そもそもデータ活用というものがよくわかっていない。それなのに、データサイエンスやAIを学んだ学生を採用したくて、「Python(パイソン)使えます」という学生を「いいね」と採用してしまうわけです。

そこで、私たちは、データを活用したい企業と、データサイエンスやAIを学びたい学生を結び付ける活動を進めています。現在、実際に地域を先導するような「地域未来牽引企業(経済産業省から選定された地域経済の中心的な担い手となりうる事業者)」を含む4、5社の地元企業に対して、DXの第一歩を踏み出すための支援をしています。
ここでは、企業の実データを使って、学生がノーコードツール等を活用してデータ解析を行います。理論だけでなく、KPIや売上、利益を置いた上でのリアルなデータ活用を行っています。

本事業の収益は学生に還元していて、ほとんど利益がありません。しかし、地域の企業にとっても、学生にとってもこの取り組みはとても意義のあるものだと思っています。特に学生には、この事業で地域の企業の良さを知ってもらい、地元に残ってもらえるとうれしいです。また、当社は人材紹介業の免許をとっていますので、地域に必要な人材を企業に紹介していくということで、将来的には収益化していきたいと考えています。

―― ここまで進められた秘訣はなんですか?

高橋:お客様の現在の姿と将来なりたい姿のギャップを見て、将来のなりたい姿をKPIの数値として合意することです。ビジネスの姿を描いて、手段として必要であればAIやデータを活用するというスタンスです。まずはビジネスの整理をしてあげるというのがポイントですね。

DXは必須ではない。自社のなりたい姿をしっかりと見極めた上で、手段としてデジタルを選択する。

社内での打合せの様子社内での打合せの様子(写真提供:ミヤックス)

―― 今後、新事業を展開するなかで、課題に感じていることはありますか?

高橋:私たちはエンジニア集団ではないので、更なるデジタルを使った事業の展開にはベンダーの協力が必要になると考えています。しかし、中長期的な目線でビジネス化まで伴走してもらえるようなベンダーを探すのは地方ではなかなか難しいです。デジタルサービスを一緒にしっかりと作っていけるパートナー選定が課題ですね。

―― これからDXを進める企業の、特にDX推進を担う部門の方々にアドバイスをお願いします。

高橋:まずは「事業をどうしていきたいか」を決めることが重要です。
デジタルが先ではなく、本質を理解してどういうビジネスになるべきか考えた上で、手段としてDXが必要なのか見極めるべきです。地方の中小企業では、ビジネスのなるべき姿にDXが必要ではないこともあり得ます。SaaSなど既存のサービスを使用して、単なる効率化で十分な場合もあるのです。

アドバイスとしては、将来どうなりたいかをしっかり考えましょう、ということですね。すべての人がデータビジネスをやりたいわけではないので、将来の解像度を高く描くことが重要だと思います。

concept『 学んで、知って、実践する 』

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