セルフレジのまごつきや不安から卒業できるだけじゃない イオン「レジゴー」はぬくもりのDXだ
DX事例デジタル技術の活用によって生まれたサービスの裏側を紹介するインタビュー連載。今回取り上げるのは、イオンリテールのレジゴーです。
みなさんはスーパーの買い物でセルフレジを使ったことがありますか?
セルフレジとは、自分自身で商品バーコードをスキャンして、決済もするものです。
レジゴーは、いわば買い物中に持ち運べるセルフレジ。スマホで商品のバーコードを「ピッ」として、合計金額を確認しながら、買い物ができます。最初は少しとっつきにくいように思いますが、実はレジゴーの利用率は20%超え。これは先行する各国のサービスと比べてもトップレベルの利用率だといいます。
このサービスがどのように生まれたのか。このサービスがもたらす変革とはなにか。イオンリテール株式会社 システム企画本部長の山本実さまにお話を伺いました。
レジ待ちの苦痛から解放したい 「お客さまが持ち運ぶレジ」への転換
店舗入口のポートでスマホを借りて持ち運ぶ(写真提供:イオンリテール)
――レジゴーがどのようなものか教えてください。セルフレジとは違うのですか?
我々のような小売業、特に食品を扱うスーパーマーケットでは顕著なんですけど、最後のレジで待たされるのがお客さまにとっては最大の苦痛で。これは古今東西変わっていないんです。そんなお客さまの「負」をなくして、楽しく買い物をしてもらいたいという発想でできたのがレジゴーです。
最近はレジをすべてセルフ化するという大きな波がきていて、その波の1つがレジゴーですね。
レジゴーは、お店の入口にあるポートでお客さまにスマホを貸し出して、買い物しながら商品のスキャンをしてもらいます。今カゴに入っているものを確認したり、合計金額の確認をしながら予算内に収まるようにしたり。それを買い物中にできるということが、一番便利じゃないかと思っています。
ここでレジの歴史をご紹介すると、実は日本で初めて発明された事務機器はレジスターとも言われています。現在、いろいろな事務機器やパソコンが企業内で使われていますよね。レジスターは事務機器として、「お店の視点」でお店が使いやすいように進化してきました。
一方で、近年のオンラインショップは「お客さまの視点」で作られています。これにより、お客さまが自分のペースで自分のデバイスで買い物ができるようになりました。
レジゴーは、レジでありながら「お客さまの扱うシステム」として導入される。そこがレジとして新しい顧客体験を生む、大きな転換点になっているんです、ということはお伝えしたいですね。
―― レジゴーはよくあるセルフレジとは違って、買い物スタートのときから専用のスマホを持っておくんですね。どうしてスマホを使うかたちになったのでしょうか。
当初はアメリカや中国の無人店舗のような、事前にIDや決済方法の登録が必要なやり方を参考にしたんです。しかしそういった仕組みはもともとお客さまを疑う発想でできていて、日本には向かないだろうなと。そこで、ヨーロッパ、特に北欧型のレンタルスマホというかたちにしました。
デジタル化を進めていくうえでいつも課題になるのは、「どんなお客さまにもお使いいただけること」です。そこはセルフレジでも特に重要な視点でした。今世の中にある無人決済店舗の仕組みは、事前に決済方法を登録しなければならないものがほとんどです。これってものすごく壁が高いんですね。
しかし、ヨーロッパ式だとスマホを手にとって、誰でもそのまますぐに買い物できますから。
レジゴーは1つ1つ商品のスキャンをしていって、最後に精算機でお金を払って帰る、という簡単な仕組みになっています。店舗に貸し出し用のスマホも用意していますし、現在はお客さま自身のスマホにアプリを入れてご利用いただくこともできます。
最初はですね、スマホ型ではなくカート型のセルフレジでやっていたんです。
しかしカート型は充電にすごく時間がかかるので、実際にお店で使う方の2倍くらいの数のカートがないといけないんですよ。カート型はお客さまにとっては便利なんですが、全部出払ってしまっていて使えない、ということも多くなってしまう。だから実際は難しい、っていうのがカート型ですね。
いっぱい失敗した人ほどいいポストに イオンリテールの新サービス開発
イオンリテール株式会社 システム企画本部長 山本実さま
―― 最初はカート型だったとのことですが、どのように開発を進めてきたのか教えてください。
2018年10月に私が着任したときには、スマホ型ではなく精算機能付きのカートで実験中だったんですね。それがうまくいかなくて、根本から考え方を変えないと無理じゃないかということになっていました。いろいろと研究をしながら、スタートアップ企業を探して、半年後の3月にはスマホを用いた今のレジゴーの試作ができ、5月から実店舗で実験をしました。そのくらいのスピード感で、ものすごくアジャイルに、短期間で作ったシステムなんです。
―― カート型の実験がうまくいかなかったのに、そこで新しいセルフレジの開発自体をやめようということにはならなかったのですか?
ダメならやめて、次の別のものを作ろうと思っていたんです。今あるものが絶対ではなく、この目的にかなう別の代用品を考えればいい。だから、すぐにいろいろなベンチャー企業さんのところに行って話し合いました。そのときはスマホ型ともうひとつ、カート型という選択肢があったんですけど、両方やってみて、片方だけ残して今のスマホのかたちになりました。
新しいものって、作ってやってみないとわからないんですよ。十中八九失敗する。
当社は失敗すると責任をとらされるとか、査定が悪くなるとかっていうことがないんですよ。むしろ失敗をいっぱいした人ほど次にいいポストになって返ってくる人事なんです。それが人事制度に要諦として含まれている。
プロジェクトを進めるときに、リーダーが部下にまかせっきりになっている場合は絶対失敗するんですよね。一緒になって入り込んで、現場に立って、おかしな点とかお客さまの声を聞いて、ダメならやめる。
責任を追及されるとなると、そこにこだわってしまうから、ダメでもずるずるいってしまう。そうなると、上に立つ人ほど関与したくなくなるんです。危ないなとわかっていても、ほら失敗したと責任とらせて終わり。それだとゼロどころか、むしろもっと悪くなるんですよ。
失敗を容認しないと、新しいものは絶対に生まれないですね。
―― 実際にはどのくらいのお客さまに使われているのですか?
2019年に最初に導入した店舗では20%くらいの利用率です。しかもレジゴーを利用するお客さまのほうがたくさんの品物を買う傾向があり、売上の構成だと全体の25%を占めています。買い物時間も長いんですよ。そのため、点数も通常のレジ利用の130%くらいになっています。
この利用率20%っていう数字が多いのか少ないのかわからないと思うんですけど、20%という数字は世界的に見てもほぼトップレベルです。私たちが最初に試したカート型のものは利用率が1%程度でしたから。
DXはCXとEXから 働く側もサービスを受ける側も本来の姿を取り戻すDX
イオンリテールのデジタルシフト(画像提供:イオンリテール)
――経済産業省の定義ではデータとデジタル技術を活用して変革することをDXとしていますが、イオンリテールにとってのDXとはどのようなものですか?
DXの前のデジタル化の段階で、業務や仕組みを変えて生産性を高めるんだという考え方があります。しかし、私たちにとってそれは目的ではありません。本当の目的は大きく2つあります。
1つは、EX(Employee Experience=従業員体験)と呼んでいますが、デジタル化によって、働いている方の働き方を変えて、いきいきと働きがいのある場をつくる、ということです。お客さまと対話をすることが好きで小売業のお仕事をされている方も、単純作業のチェッカーになるとそれができなかった。デジタル化でレジが減れば、従業員はチェッカーから、お客さまと対話をするアテンダントという役割に変わることができるんです。
もう1つは、レジゴーの当初の発想であるCX(Customer Experience)、つまりお客さまの体験ですね。レジの順番待ちといった負の部分を取り除いて、より本来の小売業がもつ、買い物すること自体の楽しさが残るようにしたい。
リアルの店舗は、お客さま自身がもっと楽しく買い物できる場所になるべきで、そのためにはいろいろな手段を使って、ワクワクや温もり感を感じるシステムっていうのを考えたいですね。
そういった2つを集約したものがデジタルトランスフォーメーションだと思います。
人はときに働く側だったり、サービスを受ける側だったり、変わっていくわけですよね。どちらかにずっといるということは絶対なくて、国家の首相ですら買い物はするわけですから。いずれの立場になっても、デジタルといったものを介在して、本来自分が思い描いていた姿に近づくこと、またビジネスや社会の中に自分がいる実感をもてること。そして全体が幸せになることが、トランスフォーメーションだと思うんですね。
―― 今後はどのようにサービスを進化させていく予定でしょうか。
今後、特に力を入れていくのはAIですね。
日本の小売業はデータをほとんど活用できていません。たとえばPOSデータは昔から使ってきているのですが、モノの動きはそれだけではなくて、たとえば、どの棚のどのモノが時間帯ごとにどう動いているかというのはデータになっていないんです。しかし、デジタルの時代は、カメラなどでいろいろな動きがとらえられるので、モノの動きをデータ化して活用していける。
人の動きも同様ですね。お客さまの動きというのは今まではWAONのデータやクレジットカードのデータしかなかったんです。それが今なら、すべてのお客さまの動き、どこから入ってきて、どの方がどこに立って、何を手に取ったとか取らなかったとか戻したとか、最後レジにたどりつくまで何分何十秒かかって何点買ったとか、全部データになるんですよ。
それを可視化すると、このお店のこの部門に足りないものはこういうものだと提案できる。そんなことをこれからAIとカメラで実現しようとしています。
今のレジゴーは、使ったからといってクーポンやポイントが付くわけでも何でもなくて、お客さまにとってレジ機能以外のメリットはないんです。しかし今後はデータやAIを活用して、お客さまの現在位置をベースにレコメンドしたり、リアルタイムにクーポンを出すなど、フードロス削減につながるような部分については積極的にアピールしていきたいと思っています。
DX SQUARE編集部より 最近はお店でもレストランでも、顧客自身がサービスの一端を担うことが増えてきました。ともすれば、「人手不足だから仕方ない」というマイナスなイメージをもってしまうかもしれません。しかし今回、レジゴーのお話を聞くことでそのイメージは正反対に。 焦らずマイペースに買い物ができたり、計画通りに買いたいものを買えたり、子どもと楽しく会話ができたり。デジタルを活用することで、いろいろな方がそれぞれの状況の中でさまざまな選択肢から選んで買い物ができるのは、とてもあたたかく、よい変革であると思いました。 私たちの身近にある新しいデジタルサービス。怖がらずにまずはぜひ使ってみて、DXのポイントを一緒に感じていただければ幸いです。 |
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