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DX推進のための自社の未来の描き方~業務プロセス・業務主体・組織の未来の描き方編~

DXを推進するためには、自社が将来どうなりたいか、「自社の未来」を描くことが必要不可欠です。
皆さんは、「自社の未来」を描くことができますか?

今回は、経済産業省が発表したDXレポートの策定にも携わり、日本のDX推進の旗振り役の1人である山本修一郎先生に「自社の未来」の描き方についてさまざまな角度から解説していただきました。

この記事では、自社のDXを推進するために

  1. 事業領域
  2. 新規ビジネスモデル
  3. 業務プロセス
  4. 業務主体
  5. 組織の未来

の描き方を紹介します。
後編の本記事では、3. 業務プロセスと4. 業務主体、5. 組織の未来の描き方について解説します。

前編(事業領域・新規ビジネスモデルの描き方編)を読む

③業務プロセス:最適な業務プロセスの描き方

業務プロセスに基づいて自社の未来を描くためには、最適な業務プロセスを描く必要があります。
まず、DXに取り組みたい業務プロセスを選択しましょう。そして、業務プロセスの入力、出力、作業ルール、担当者の能力や設備などの資源を識別します。業務プロセスは、そこから描いていくのです。

業務プロセスを「入力」と「出力」から考える

業務プロセスの例として、材料から製品の生産工程を考えます。
たとえば、モノや情報を四角、業務活動を楕円で表現すると、生産工程は下の図のとおりです。

生産工程では、「材料」を入力として「製品」を出力します。
また、生産活動を制御するために、「生産手順」が入力として必要です。このほかの入力として、生産活動を開始するための前提条件や製品が満たす品質などからなる「生産条件」、「生産設備」、「生産資源(エネルギー、担当者)」が必要です。
生産活動の出力としては、「製品」のほかに、どのように生産活動を実施したか(生産性、製品品質、資源使用量、設備稼働率など)を報告するための「生産データ」もあります。

ここで、もし生産設備が旧式だとどうなるでしょうか。
生産が完了してから「生産データ」をまとめて生産管理システムに投入することを許すと、システム上のデータと実際の生産データの乖離(タイムラグ)が発生します。

それを防ぐために、「生産開始データ」を入力すれば生産設備が動作する仕組みにします。そうすると、生産データをリアルタイムで監視できるようになります。この場合、「生産開始データを入力」することが生産条件です。この考え方は、協和工業の鬼頭社長から教えていただきました。

適切な業務プロセスは、こうして、業務活動の「入力」と「出力」を軸に描いていくことができます。

また、DXにはデジタル技術の活用が欠かせません。デジタル技術を用いた生産を「デジタル生産」としましょう。
デジタル生産では、どの範囲をデジタル技術で自動化するかを定義する必要があります。
また、デジタル生産の取り組みには、部門内の取り組み、部門横断の取り組み、全社的な取り組み、企業横断の取り組みなど、それぞれの取り組みに応じて必要なことが変わってきます。

たとえば、生産した製品を出荷する前に、品質管理部門による出荷検査が必要になる場合があります。この場合、製品の品質検査業務のデジタル化が必要です。さらに、製品の設計部門と生産部門との横断的取り組みも必要になります。材料の調達業務や製品出荷のための配送業務では、パートナー企業との企業横断の取り組みが必要となります。

1つの業務プロセスの例を説明しましたが、実際の業務は複数の工程から構成されています。

BPRには誤解がある?

「業務プロセス」というと、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)という言葉を聞いたことがある方もいるでしょう。BPRとは、業務効率や生産性向上のために、業務の流れや仕組みを全面的に再構築する業務改革です。

BPRの起源は、M・ハマー&J・チャンピーによる「リエンジニアリング革命」です。この書籍の表紙には、「ビジネスがどのように機能するかあなたが知っていることを忘れなさい。ほとんどが間違っているから」と書かれています。
すなわち、BPRの本質は既存の業務プロセスの改善ではなく、変革にありました。ところが、昨今多くの企業が導入を進めているRPA(ロボティックプロセスオートメーション)では、現状の人手作業をそのまま自動化することが多いのです。このため、新たな問題が発生しています。

業務の最適化のために、「入力」と「出力」を最小化して考える

業務を最適化する方法として「データ駆動工程設計法」というものがあります。
データ駆動工程設計法では、まず業務プロセスの全体を対象として、外部からの入力(材料やデータ)と外部への出力(製品やサービス)を識別します。
次に、入力と出力の依存関係を分析します。
最後に、入力と出力の依存関係に基づいて、入力を出力に変換する必要最小限の工程だけを設計します。つまり、外部入出力の依存関係から業務を最適化するのです。

従来の業務改善では、冗長な業務手順を最小化しようとしていました。
しかし、データ駆動工程設計法では、入力と出力の関係数を最小化します。
このため、従来の業務改善では属人的になりがちですが、データ駆動工程設計法のように入力と出力だけを考えればいいのであれば、客観的な改善がしやすいのです。
また、従来の業務改善が必要とする知識は、業務手順の無駄の発見です。しかし、データ駆動工程設計法が必要とする知識は、外部の入出力関係だけです。

酒販店の在庫管理の例を見てみましょう。
従来、酒販店では商品の在庫を管理する際にさまざまなデータの入出力を行っていました。これを外部データと内部データに分けて整理すると、以下の表のようになります。

外部入力のデータも、外部出力のデータも、3つずつです。
それ以外は内部データ、つまり内部の中間作業の割合が多いことが分かります。
データ駆動工程設計法ではこの内部データのことは忘れましょう。外部入出力データのみを用いて、入力と出力の関係性を分析していきます。

外部入出力データの関係性を見ることで、本当に必要である内部データが見えてきます。

今回の場合は、「銘柄の在庫管理」、「銘柄の出庫」、「コンテナの管理」の3つのみが、本当に必要な内部データです。そのほかの内部データは個別の業務に係る些末なデータに過ぎません。これらを整理しないかぎり、業務プロセスは最適化できないと言えます。

④業務主体:4つの業務主体の変革

業務プロセスを変革するDXには、業務プロセスの実行主体との関係の変革と、業務プロセス自体の変革の2つがあります。言い換えると、業務プロセスを変革することは実行主体の変革を伴うことになります。実行主体が変わらなければ業務プロセスの変革を推進できません。

4つの業務主体の観点で変革を考える

業務の実行主体には、顧客、社員、企業の経営組織、パートナー企業があります。
これらの実行主体に応じてDXの4本柱として、CX(Customer eXperience)、EX(Employee eXperience)、MX(Management Transformation)、PX(Partner eXperience)を定義できます。
ここで、CXとPXは企業の外部境界の変革であり、EXとMXは企業内部の変革です。この2つの変革が循環することから、企業の未来を描くには、外部と内部からなる2重ループを高速で反復していくべきです。

DXの4本の柱

この4本柱の観点で、変革について考えましょう。
そうすれば、DXの取り組みを俯瞰できるだけでなく、相互関係や取り組み順序を明確化できます。

たとえば、まず、DX部門を設立し、経営価値「データ駆動経営」を定義することによりMXを推進します。次に、顧客分析システムを実現し、高頻度購入者にポイントを提供する顧客接点を提供します。この過程で新たな業務プロセスを設計することによりCXを推進します。

⑤組織の未来:組織の未来の描き方

組織は総合的なシステムである

オンライン学習プラットフォームUdemyのCLO(Chief Learning Officer)であるメリッサ・ダイムラーは、組織を総合的なシステムとして捉えています。そのような考えに基づく企業組織の行動変革では、目的「なぜ」、戦略「何を」、行動指針「どのように」、社員スキル「誰に」を定義しています。

たとえば、DX推進企業では、データ戦略を「なぜ」「何を」「誰に」「どのように」を明確に定義することにより、全社戦略に基づくデータ利活用を推進できる組織に変革できます。このような組織文化の再構築を一気に実現するのは難しく、対話と試行運用を反復するプロセスが必要になります。 

 組織文化再構築の例

このようなダイムラーの考え方は、組織の未来を描くうえでの1つのヒントとなるでしょう。

まとめ

自社の未来を描くことは、企業の持続的成長のために、「誰に、何を、どうするか」という問いに答えることです。本記事では、「誰に」について4本柱の描き方、「何を」についてビジネスモデルの描き方、「どうするか」について業務プロセス設計と組織の未来の描き方を説明しました。

山本 修一郎
名古屋国際工科専門職大学 情報工学科 学科長 教授
山本 修一郎

名古屋大学 大学院工学研究科 情報工学専攻 修了。博士(工学)。NTT研究所を経て株式会社NTTデータにて要求工学、情報通信技術の研究開発に従事。同社初代フェロー、システム科学研究所所長を経て、名古屋大学情報連携統括本部情報戦略室 教授、大学院情報学研究科 教授として教鞭を執った後、現職。

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