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CEATEC 2024で体験! 生きたい場所で働く、学ぶ、暮らす未来 1年目の職員から見えた未来の可能性とIPAの挑戦

2050年、あなたはどこで、どのような暮らしをしていると思いますか?AIやデジタル技術は今よりも進歩し、私たちの理想の暮らしを実現させていることでしょう。独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA)はそんな「未来の暮らし」を実際に体験できるブース“Immersive Music Experience Live Anywhere.”を、CEATEC 2024に出展しました。

“Immersive Music Experience Live Anywhere.”それは音楽と空間と映像が織りなす、約5分間の生活体験。あなたも2050年のLIFEを、ほんの少しだけのぞいてみませんか。

IPAが仕掛ける、「今までにない展示」。どのような展示で、どのようなメッセージを伝えたかったのか、その舞台裏を、企画に携わったIPA1年目職員に語ってもらいました。

2050年の未来の暮らしを通してIPAを知る

──Immersive Music Experience Live Anywhere.”はどのような展示だったのでしょうか?

展示のテーマは、「LIFE 2050 生きたい場所で、生きられる未来へ。」。2050年は、デジタルライフライン(自動運転やドローンといった新たなデジタル技術を社会実装させるための、新しいデジタルのインフラ)の進化により、どのような場所でも不便なく快適に生活でき、家族や友人たちとも心の距離が近いまま暮らすことができることでしょう。そんな2050年の未来の暮らしを、体験者の方にゴーグル型デバイスを装着して体感してもらうという展示でした。

CEATEC会場の「AI for All」エリアに出展していたのですが、ブース内は四方を壁で囲み、ブースの様子は外から見えなかったので、気になった方も多いかもしれません。

ブース全体の様子

ブースの壁の中は2050年の住宅で、体験者はその家の住人という設定でした。体験者がゴーグル型デバイスを装着して入口の扉をあけると、中には2050年の暮らしが広がっており、体験者は自由にその空間を動き回ることができます。

入口・室内の様子

また、室内には、体験者のクリックジェスチャーで開くダイアログ(写真右)を配置し、2050年の未来の暮らしを支えるIPAの事業解説を組み込みました。体験者の方には宝探しのような感覚で、室内を探索してもらい、未来の暮らしの実現の根底にあるIPAの事業について知っていただきました。

写真左:クリックジェスチャーでダイアログを開く体験者の様子、写真右:ダイアログの様子

──2050年の未来の暮らしとはどのような暮らしでしょうか?

例えば、家に入るとすぐにエージェントAIが、「おかえりなさいませ、不在中にお隣のオリビアさんから野菜をお裾分けいただきました。メッセージもお預かりしています。(英語メッセージと同時に翻訳が流れる)」と体験者に話しかけてきます。2050年の未来では、人々は自分の分身のようなデジタルエージェントを持っており、外国人の隣人から届いた不在中のボイスメッセージを翻訳再生してくれるというわけですね。

他にも、エージェントAIが、友人たちがログインしてきたことを告げると、視界に音楽仲間の友人たちが立体的に浮かび上がり(ログインしてきて)演奏が始まります。体験者の方の中には、急に何が始まったのだろうと思った方もいらっしゃったかもしれませんが、離れた場所で暮らす友人たちと一緒に音楽を楽しみ、親密な時間を過ごすことができる様子を表現しました。

演奏を楽しむ様子

また、家の窓やふすまをあけると、あたりは一面海が広がっており、エネルギーマネジメントAIの活躍により、風力発電ユニットが電力需給と天候を予測判断して発電している様子を見ることができます。2050年には、今よりももっと自由に住みたい場所を選び、働き、暮らせるようになっていることを、孤島の中の一軒家で表現しました。

家の外の様子:窓をあけると一面海が広がっている

室内には、Reduce、Reuse、Recycleが最適に行われる未来のゴミ箱や本場のプロの味がいつでも味わえる未来のエスプレッソマシンなど未来の日用品を配置し、多くの未来の暮らしを取り上げました。

──未来の暮らしとIPAの事業との関連を教えてください。

例えば、先ほど紹介した自動翻訳をしてくれるエージェントAI。翻訳といっても、現在、多くの人が利用している機械翻訳ではなく、文脈や社会背景、生活習慣の相違によるニュアンスを織り込んで翻訳してくれる優れものです。英語が苦手な私からしたら今すぐにでもできてほしいものですが、そんな優れたAIを活用するためには、、AIの安全性が担保されないといけないですし、多種多様な言語データが国を超えて利用できないとだめですよね。また、そんなサービスを開発してくれる人材も必要です。

IPAはそんな翻訳AIを実現するため、安心・安全なAI利活用の仕組みづくり(AISI)や、信頼性あるデータ環境整備(データスペースの推進)、デジタル人材の育成を行っています。

展示された未来の日用品は、ごみ箱、エスプレッソマシン、ダンベルなど、私たちの生活を豊かにする革新的な製品ばかりです。これらは、すべてIPAの「未踏事業」の修了生が、その高いITスキルを活かして開発した成果物を発展させたものなのです。
私たちIPAは、自動翻訳生成AIやゴミ箱、エスプレッソマシンのような具体的なサービスやモノを作っているわけではありません。未来の暮らしを実現するための基盤を支えているのです。

「Immersive Music Experience Live Anywhere.」の特設ページで、未来の暮らしと関連するIPAの事業解説をより詳細に行っております。ぜひご覧ください。

圧倒的な体験を通してIPAのイメージを変える

──なぜ来場者体験型の展示にしようと思ったのですか?

IPAはこれまでCEATECに継続的に出展してきました。従来のパネル展示やモニター展示は、来場者への説明やコミュニケーションに適していますが、今回の出展テーマと照らし合わせると訴求力が不足しているという課題を抱えていました。静的な展示では、IPAの革新的な取り組みを十分にアピールできず、企画側としても、よりダイナミックな表現方法を求めていました。

加えて、会場で紹介する情報はすべてIPAのウェブサイトに載っています。すでに掲載されている情報を、来場者が会場へ足を運んでわざわざ見てもらう価値はあるのかという疑問もありました。“実際に会場へ足を運んだからこそ得られるものを来場者に提供したい”そんな思いからたどりついたのが「圧倒的な体験」の提供でした。この体験を通してIPAのイメージを変える、IPAに興味を持ってもらうきっかけを提供しようと試みました。

また、中途半端な体験、展示にはしたくはなかったんです。これまでのオーソドックスな展示に体験コーナーを設けるのではなく、やるからにはやりきろうということで、「AI for All」エリアの中でも一番大きなブースを体験者一人のために使い、1日約50名に限定公開するという展示に踏み切りました。あえてブースの四方を壁で囲み、ブースの様子は傍からはわからないようにしました。他のブースとは一線を画す様子から、「IPAはどんな展示をしているのだろう」、「IPAって何をしているところだろう」と来場者に興味をもってもらうことを狙いました。

ブースの様子:外側からは何をしているのか様子は全くわからない

五感で未来の生活を感じる

──ブース内で特にこだわったところはどこですか?

今回一番こだわったことは、ただゴーグル型デバイスを装着し、未来の暮らしを見てもらう(視覚)だけでなく、聴覚、触覚も含んだ体験を提供することです。空間コンピューティングを駆使し、現実世界に2050年の暮らしを重ねることで、よりリアルな没入体験を実現しました。

例えば、体験者が家の窓やふすまをあけると、一面海が広がっています。ここでただ映像を流すだけでなく、体験者が家をでて海辺を歩く感触を抱くことができるようにしました。実際に、ブースにプールを用意し、水をはり、体験者に入ってもらったんです。現実は、家の外に設置されたプールの水につかっているだけなのですが(写真左)、体験者の目には雄大な海が広がっており(写真右)、本当の海辺を歩いているような没入感を体験することができます。「圧倒的な体験」を提供するのにあたって、譲れないポイントでした。
(ただの2050年の住宅ではなく、家の中を探索して扉をあけると、海に囲まれていることに気づくという驚きを体験者に提供したところもこだわりの一つです。)

実は、ゴーグル型デバイスや空間コンピューティングを用いた、この規模での没入体験は、日本国内・世界をみてもほぼ例がないんです。まさにIPAの前代未聞の挑戦といえるのではないでしょうか。

写真左:体験者の様子、写真右:体験者視点

──なぜAIをテーマにしたのでしょうか?

確かに、翻訳AI、エージェントAI、エネルギーマネジメントAIと、今回取り上げた未来の暮らしはAI関連のものばかりでした。IPAといえば、ITパスポートなどの国家試験やセキュリティ関連の施策等で知っていただいている方が多く、「IPAとAI、どのような関連があるのだろう」「なぜ、「AI for All」エリアに出展したのだろう」と思われた方も少なくないかもしれないですね。

実は、今年の2024年2月にAIセーフティ・インスティテュート(AISI)がIPAに設立されたのです。AISIは、安全、安心で信頼できるAIの実現に向けて、AIの安全性に関する評価手法や基準の検討・推進を行うための機関なのですが、AISIがIPAにできたことやAISIの具体的な取り組みをぜひ多くの人に知ってもらいたいと考えていました。

そのような中で、今年のCEATECでは25周年特別企画として、「AI for All」というエリアを設けることを知り、AISIの取り組みを広く普及させるいい機会だと思いました。また、多くの人の注目が集まるAIに関するエリアに出展し、ひときわ目立つ展示ができれば、IPA・AISIの取り組みを普及させるとともに、IPAのイメージの向上を図ることができるのではないかとも考えました。

また、AIが発展するためには、生成AIの技術の進歩やAISIが取り組むAIの安全性に関する評価手法や基準の検討ももちろん必要ですが、それを支えるデータの基盤や人材の育成も欠かせません。AIばかりが注目される中で、そういった基盤の必要性を訴えたいという思いもありました。

──1年目で企画に挑戦してみていかがでしたか?

1年目でCEATECという、大きなイベントの企画に携わることができると思っておらず、お話をいただいた時は率直に驚きと戸惑いでいっぱいでした。「今までにない面白いことをやろう」ということでアイデア出しから、当日の運営まで大変なことばかりでしたが、チームの皆さんに支えられ、企画側の自分も楽しんで準備に取り組めました。なにより会場で展示が出来上がった様子を見たときの、構想が実際の形になる達成感は今でも忘れられません。

──最後に、改めて今回の展示のメッセージを教えてください。

IPAでは、豊かな暮らしを実現すべく、デジタル人材の育成、サイバーセキュリティの確保、デジタル基盤の提供を行っています。今回、CEATECで提示した「2050年の未来の暮らし」を実現するための基盤づくりを行っているのです。しかし、IPAだけではこの生活を実現することはできません。産学官の連携が必要です。

今回の展示では、IPAのイメージ向上だけでなく、産学官で一体となって豊かな暮らしの実現を推進していくというメッセージもこめられています。今回の展示を通して、AIとともにある未来の暮らしにわくわくしてもらい、より良い未来の実現に協力してくれる輪が広がったら嬉しいです。IPAと一緒に「生きたい場所で、生きられる未来へ。」を実現しましょう。

関連リンク

CEATEC2024講演資料

独立行政法人情報処理推進機構 理事長 齊藤 裕
 
「ウラノス・エコシステム」が実現する業界や国境を越えたデータ共有の将来像とは

AIセーフティ・インスティテュート 所長 村上 明子
日本のAI戦略を支えるAI安全性についてとAI Safety Instituteのご紹介

独立行政法人情報処理推進機構 デジタル基盤センター長
AIセーフティ・インスティテュート 副所長・事務局長 平本 健二
AI社会の歩き方
AI社会のためのデータ基盤やエコシステムの整備
Current Status and Initiative of AI in Japan

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